14.ギガント

「ここが壊滅するのも時間の問題だ。」

 ギガント。スプレッド破壊後に現れた巨大人型はそう命名された。


 ブリーフィングルームのスクリーンにはギガントが映し出されている。

 残ったインヴェイダーの大群を引き連れ、北上してきている。シェルターを目指しているのだろう。


 理由は不明だが、インヴェイダーは生存者が多く残っている場所が分かるらしい。



 ギガントが出現した直後、スプレッド攻略作戦の残存部隊で攻撃を行った。結果は惨敗。


 奴の体表はスプレッドの表面装甲と同等の強度を誇っていた。さらにスプレッドのような弱点部分も見当たらない。

 全身が均一に銀色の体表なのだ。


 体表を貫けないため目立ったダメージも与えられない中、奴の吐き出す炎に部隊の半数を焼かれ撤退を余儀なくされた。


「ギガントにはスプレッドのような弱点部位が確認できない!」

 コマンダーはスクリーン横で声を張り上げる。


「手段は一つ! あの表面装甲を突き破る攻撃を当てるしかない!!」


 スクリーンには箱のような装置が映し出される。


「開発部が突貫で準備した新装備、バイブロバンカーだ。」

 映像はギガントを模したキャラクター絵に変わる。


「これを持って奴に接近、プラズマパイルを打ち込み体表を破壊する!」

 エクスタ隊員のキャラクター絵がギガントに接近、パイルを打ち込みギガントが割れる。


「体表を破壊したところへ、集中攻撃、ギガントを討伐する!!」







 全戦力が展開、ギガントとインヴェイダーの大群を待ち受ける。

 視界には彼方のギガントが既に見えている。


 俺はバイブロバンカーを左肩に背負っている。バイブロバンカーは予想以上に大きな装置だった。

 直方体の箱型で、プラズマパイルが装填されている。プラズマパイルは先端からプラズマ発振する杭だ。


 本体とパイルを合わせると俺の身長よりやや長いほどのサイズだ。



 俺は一人で担いでいるが、他のエクスタ隊員は二人で1基を運搬する。バイブロバンカーは全部で5基準備されたため、運搬だけで9名だ。

 更に交換パイルの運搬役も必要なため、エクスタ隊員のほとんどがバイブロバンカー担当だ。


 これを担いでギガントへ接近、更にパイルを打ち込む間、奴の体に接触し続けないといけない。


「かなり困難な作戦だな・・・・・・。」


「ヒロムは、」

 俺が黙考しているうちに、いつの間にかサヤが横に居た。


「ヒロムのことは、私が必ず守るよ。」

 今回サヤはバンカー隊の護衛だ。


「大丈夫だ、俺は死なないよ。それよりサヤも無理するなよ。」

「ふふん、これでも撃破数は優秀なんだから。ばっちり任せなさい。」

 サヤは薄い胸をたたく。

 うっ、すごい顔で睨まれた。




「作戦開始だ!!」

 無線機からコマンダーの声。

 無茶な作戦だ。しかし他に手が無い以上、やるしかない。


「いくぞ。」

 俺はバイブロバンカーを肩にかけ、空へと飛びあがる。



 地上では自衛隊とディフェンダーの戦闘部隊が、陸戦タイプのインヴェイダーと交戦中だ。


 俺たちはその頭上を越え、ギガントを目指す。



 飛行能力を持つ一部のインヴェイダーが浮上、俺たちを迎撃してくる。


「ここは俺たちが! バンカー隊は先へ!!」

 エクスタの中でも少数の護衛隊が先行して迎え撃つ。


「すまない!!」

 俺たちは彼らを残し、ギガントに向け進む。幸いギガント本体はこちらに無関心なのが助かる。



 ギガントはもう目の前だ。相変わらずこちらのことは気にも留めないようだ。シェルターに向け、ひたすら足を進めている。


 俺たちはバイブロバンカーを構え、打ち込み体勢に入る。


 パイルの先端がプラズマ発振する。バイブロバンカー本体が起動し内部の回転体が出す高周波音が響く。


「打ち込み開始!!」

 全員ギガントの脚に取りつき、パイルを叩きつける! まずは足を止める!!


 バイブロ内の偏心回転子が生み出す振動が、パイルを強引に押し込む! プラズマパイルが体表を削り、徐々に内部へ侵入を始める。


「ヴォォッ、ヴォォォォォォォォォッ!!!!」

 ギガントが振り回した手により、取り付いた隊員が数名飛ばされる!

 バイブロバンカー2基が破壊され、残骸が飛び散っていく。


 俺の打ち込んだパイルはギガントの体表を削り続けいる。

 飛行型のインヴェイダーが接近してくる。


「バンカー隊は続けて!!」

 サヤが迎撃する。

 ギガントが足を踏み鳴らす。バンカー隊が吹き飛ばされる! 俺も吹き飛ばされたっ!


「まだだ!!」

 俺は空中ですぐに姿勢を直し、再び同じ場所を狙い、パイルを叩き込む。


 体表にヒビが走る。

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

 飛行ユニットを吹かし、自身の全身でもパイルを押し込む!

 飛行ユニットとバイブロが高周波音の二重奏を奏でる!


 耐え切れなくなった体表が陥没し、パイルがめり込む。体表に大きなヒビがいくつも入った。


 俺は一旦体表から離れる。

「次のパイルを!!」

 インヴェイダーと戦闘していたパイル運搬役が、俺に次のパイルを投げ渡す。

 俺はそれを空中でキャッチ、バイブロバンカーにセットする。


 その時、味方の戦車砲が飛来、俺がパイルを打ち込んだ箇所に命中する。


「ウヴォォォォォォァァァァァッ!!!!」

 脚の内部へ破壊が浸透する。

 内部から火を噴きながら、ギガントが倒れる。これならやれる!



 バイブロバンカーを構え逆の脚に突撃、パイルを叩きつける。再びプラズマパイルが体表を削り始める。


「キシャァァァァァァァッ!!!」

「キシャァァッ!!!」

「キシャァァァッ!!!」


 数体のインヴェイダーが俺を取り囲み、一斉に飛びかかってくる。

 対処しきれずギガントから離れる。


 ギガントの周囲をインヴェイダーが飛び回り、俺たちをけん制してくる。


 ギガントは蝿か蚊を追うように、バンカー隊を追い払いつつ立ち上がる。

 まだ完全に足を止めるほどではないか。


 ギガントもバイブロバンカーを脅威と感じたのか、俺たちを叩き落そう必死だ。


「落とされはしないが、取り付けない・・・・・。」


 横合いから接近してきたインヴェイダーを切り伏せる。


「俺が奴の気を引く! その隙に足を!!」

 俺はギガントの頭上にまで飛び上がる。ギガントが目で追ってくる。


 頭の真上でバイブロバンカーを構え、頭頂部目掛けて突撃する。


 ギガントの手が俺を打ち落とそうと振り払われる。ぎりぎりで避ける!!

 側頭部に回りこみ、再び頭部に向けてバンカーを構える。


 俺を打ち払うために手を振り回してくる。


「いいぞ、俺を見ろ!!」

 俺は執拗に頭を狙うようにバンカーを見せつけながら周囲を飛び回る。


「ヴォァァァァァァァァァァァッ!!!!」

 足にもう一箇所、パイルが打ち込まれた。

「やった!」

 バンカー隊の一人が歓喜の声を挙げる。


「ウヴォッ!!」

「あぶない!!」

 喜びをあらわにしていた隊員が、ギガントの巨大な手で潰され吹き飛ばされた。

「くっ!」


 俺は再びギガントにバンカーを見せびらかすように飛び回る。


 ギガントの腕を掻い潜り、パイルを首筋に打ち込む!


 俺を叩き潰そうと巨大な平手が接近してくる。

 ギガントから離れ、平手を紙一重で回避する。


 バンカー隊がまた一人、インヴェイダーに襲われ落下していく。

 残ったバンカーは俺の持つ1基だけか・・・・。


 くそっ! 俺はどうしてもっと強くない!!

 もっと俺に力があれば、こんなに犠牲を出さなくて済んだのに!!!


 脳裏には捕食者の巨体を打ち砕いた男が浮かぶ。


 正面からインヴェイダーが接近、プラズマの刃を突きつけてくる。

 右手のソードで受け止める。

 左側からもう一体インヴェイダーが接近してくる! バンカーを狙って攻撃してくる! 


 パイルの先端からプラズマを発振、インヴェイダーの攻撃を弾き、そのままパイルを叩きつける!

 プラズマパイルはインヴェイダーのボディを貫通した。


 後方から最大「警戒」!

 チッ! 後ろか!!


「ヒロム!!」

 背後のインヴェイダーとの間にサヤが割って入ってきていた。

 背後で衝突音、そして「ぐっ」というくぐもった声。


 俺は正面のインヴェイダーを両断し、振り向く。


 背後に居たインヴェイダーは、サヤのソードで貫かれ落下していく。

「サヤ助かった・・・・、大丈夫か?」

 サヤの様子がおかしい。

「ヒロム、ご、ごめん、ね」

 サヤの腹から血があふれる。グラリと傾き、サヤは落下していく。



「サヤぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

 落下するサヤを追いかけ、その体に飛びつく直前、左から衝撃!

 インヴェイダーが突っ込んできている、バイブロバンカーに食いついてきている。


 サヤが落下していく。

「あぁぁぁぁぁぁ!!」


 地面に落下寸前、別のエクスタ隊員がサヤをキャッチ、そのまま後退していく。


 あれは、パイルの補給をしていた隊員か。

 彼は俺に向け、サムズアップしていた。



 俺は身をひるがえし、バンカーに食いついているインヴェイダーを切り殺す。


 周囲に残っているエクスタ隊員は俺だけになっていた。ギガントは健在だ。

 エクスタは俺だけ。パイルも残り1本・・・・・・、やってやる!



 俺は改めてギガントをかく乱するように周囲を飛び回る。

 奴は動きは速くない、俺を目で追うのが精一杯だ。


 ギガントを周囲を高速旋回、ギガントの視線を切るために数回切り返し、奴の背後を取る!


 一撃で決めるなら、ここくらいしかないだろう!


 うなじにパイルを叩きつける。

 バイブロバンカーが唸りを上げる! 飛行ユニットも最大稼働!


 先端のプラズマが体表を削り、少しずつパイルが埋没していく・・・・、早く!!


 ギガントが右腕を振り上げる。

 蚊でも潰すかのように、そのままうなじに向け平手が落下してくる。


 俺は咄嗟にバイブロを外し、飛び退く。

 バイブロは突き刺さったままの状態で残されている。

 奴の平手がバイブロバンカーの上に叩き落とされる!!



「ヴォァァガァァァァァァァァァッ!!!!」

 奴は自身の平手で、パイルをうなじに押し込んでいた。

「自分で叩き込ませてやったぜ・・・・・。」


 ギガントが傾き、少しずつ前に倒れていく・・・・・・・・。


 しかし、一歩踏み出し体を支えた。

「倒すには足らないか・・・・・・。」


 首回りの体表には無数のヒビが走っている、が、まだ致命傷には至っていないようだ。

 ギガントが俺を見る。その目には強い怒りが宿っているようだ。


「怒っているのは、俺の方だ!!」

 再び旋回、うなじの傷に向けレーザーを照射、ヒビに命中する。


 ギガントが腕を振り回し俺を叩き落とそうとする。腕をひらりと回避する。

 再度レーザー照射。パイルが打ち込まれた穴に命中するも、効果は大きくないようだ。


 ギガントを翻弄しながら、うなじにレーザーを打ち込み続ける。少しずつ少しずつ、うなじの傷が深くなっている。

 だが、足りない、まだ・・・・・・。



 レーザーのエネルギーが切れた。俺は両手でソードを持つ。

 ギガントが俺を掴むために右手を突きだしてくる。


 手を回避、そのまま腕を駆け上がっていく。顔をすり抜け、首の後ろに回り込んだ。

「オラァ!!」

 ソードを逆手に持ち替え、うなじに突き刺す。


「ヴガァァァァァァァァァッ!!!!」

 ギガントが暴れる。突き刺さったソードに捕まり、振り落とされないように耐える。

 もう一本!! 2本目のソードを突き刺す。


 ギガントの暴れ方が激しくなる・・・・、が、まだ倒れない!!

 


「最大出力だ!!」

 全身のエネルギー状態を最大に、ソードのプラズマ光が傷口から溢れだす。飛行ユニットもかつてないほどの高音を発している。


 過剰運転している飛行ユニットから、粒子が逆流しソードに流れ込む。



 ソード2本が黒い光を放ち始める。

「なっ!?」

 俺は咄嗟にソードを手放し後退する。

 黒い光がギガントの首を呑みこみ、ソードも飲み込んだ。後には黒い球体が浮かんでいた。



 その黒い球体も一瞬にして消滅した。

 跡には何も残っていなかった。ギガントの首も、ソード2本も、全て消滅していた。


 ギガントの体が傾き、地面に倒れる。

 ピクリとも動く様子はない。



 周囲の味方から歓声が上がる。


「やった・・・・・。」

 俺は倒れたギガントを見下ろし、一時の感慨に浸って・・・・・、


 その時、背中の飛行ユニットから火が上がる。

 浮力を失った俺は、そのまま地面へと落下した。

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