13.スプレッド破壊作戦

 室内は薄暗い。プロジェクタの映像が見やすいようにするためだ。

 スクリーンには、超望遠の映像が表示されている。


 首都圏のど真ん中、倒壊したビル群の中から頭を出している巨大なキノコ。

 その傘の中から、1体、2体、3体、と続けてインヴェイダーが生み出されている。


 そう、あれは通称「スプレッド」と名付けられたインヴェイダーの繁殖個体だ。

 アメリアの北部にある本体とは別に、様々な地方に飛来した分体から発芽し、巨大なキノコとなった。


 スプレッドは傘からインヴェイダーを次々と発生させる。アレを駆除しない限り、どれだけインヴェイダーを倒しても群れは再生してしまう。


「このスプレッドが今回のターゲットだ。」

 コマンダーと呼ばれている作戦司令が説明を述べる。彼の本名は不明だ。



 映像が切り換わる。スプレッドにミサイルが命中、都市部で大爆発が起る。


 煙が晴れ倒壊したビル群の中、そのキノコは変わらぬ威容を誇る。

「このように、奴の表面装甲は通常のインヴェイダーを遥かに凌ぐ。従来兵器はおろか、インヴェイダー装備であっても破壊することはできない。」


 さらに別の映像。これは海外のディフェンダー部隊が行った作戦だ。

 ヘルメットに取り付けられたハンディカメラによる映像なのだろう、かなり荒く、そして映像も揺れて安定しない。

「だが、奴を破壊する方法はある。」

 揺れる映像にスプレッドが映る。まさに目の前、スプレッドの間近まで近づいている。


 数人の兵士が携帯式ミサイルポッドを展開する。ミサイルポッドを兵士が担ぐ。キノコの傘に向けて構えている。

 映像に傘の内側が映りこむ。虹色の膜のようになっている。時折、膜からしずくが垂れるように、インヴェイダーが生み出されている。



 ミサイルポッドを展開している兵士の周囲、他の兵士たちは近づいてくるインヴェイダーを迎撃している。


 激しい戦闘の中、ミサイルポッドから発射されたミサイルが、傘の中へと打ち込まれる。

 傘の中、虹色の膜から爆炎が吹き出す。



 2発目のミサイル。

 再びの爆炎、スプレッドの傘がひび割れていく。


 兵士たちは全滅寸前だ。周囲で迎撃していた兵士たちがほとんど残っていない。



 3発目のミサイル。

 スプレッドの傘が爆発、炎上している。


 映像の最後は、インヴェイダーに襲われ途絶えた。




「このように、傘の内側への攻撃であれば、スプレッドを破壊することができる。」

 つまり、先ほどの映像のように、傘の内側を狙える位置まで接近する必要があるということか・・・・。


「作戦概要を説明する!!」








 新設の特殊部隊エクスタは100名程度の部隊だ。結局適合者がこれだけしか見つからなかった。

 ミルーシャセルは海外のディフェンダー拠点へも運搬された。無事に届いていれば海外でも適合者を探しているはずだ。


 俺たちは10名のエクスタ隊員だけで、首都圏のビル群を遥か彼方に臨む丘に立っていた。

 ビル群の中にキノコの頭だけが見えている。



 逆サイドには残りのエクスタ隊員と自衛隊、ディフェンダー戦闘部隊の混成である陽動チームが展開しているはずだ。


 彼らが戦端を開き、徘徊しているインヴェイダーを釣り出してくれる。

 その隙に俺たちのチームがスプレッドに接近し、破壊するという作戦だ。


「無茶、しないでよ?」

 このチームにはサヤも含まれている。


 スプレッド破壊チームは非常に危険だ。

 サヤには残るか、せめて陽動チームに参加して欲しかったのだが破壊チームに志願してしまった。


 サヤ曰く、「ほっといたらヒロムは無茶するから」だそうだ。そこまで無茶なつもりもないんだがなぁ。



「作戦開始。」

 無線を介してコマンダーからの合図だ。


 遥か遠くに閃光、遅れて爆発音が届く。戦闘が開始されたようだ。

「よし、俺たちも進むぞ。」

 俺たちは周囲を警戒しつつ、あのキノコに向け移動を開始した。






 廃墟となった街を進む。俺は手を上げ、チームの進行を止める。

 前方ビルの影にインヴェイダーが1体。俺は石を拾い、強化された膂力で遠投する。


 インヴェイダーを越え、はるか先で、カツーン、という音が鳴る。

 インヴェイダーは音に反応し逆方向へ移動していった。


 下手に戦闘を行うと、戦闘音でインヴェイダーが集まってきてしまう。

 そのため、できるだけ戦闘を避けるように進んできた。



「ふぅ、ここまでこれたか。」

 ビルの影で一息つく。隙間からはキノコの傘が見える。キノコまで残り500m程だ。

 ここまで戦闘らしい戦闘はせずたどり着いた。陽動チームのおかげだ。遠くからは依然として戦闘音が響いてくる。


 だが、荒事なしに進めるのもここまでのようだ。この先にはインヴェイダーが多数残っている。

 陽動チームの戦闘音にも釣られないようだ。スプレッドの護衛か。



「破壊担当は極力戦闘に参加するな。スプレッドの破壊を第一優先だ。掩護担当は、絶対に敵を破壊担当に近づけるな。」

 破壊担当は3名だ。それぞれに専属の掩護担当が2名ずつ付く。

 俺は遊撃として敵の引き付けや全体の掩護を行う。


「4方向から接近するぞ。俺が先行して敵の注意を引くから、その後別方向から破壊担当は掩護担当と共にスプレッドに接近しろ。」

 サヤは掩護担当だ。俺に何か言いたげな表情を向けてくるが、今は見ない。



「俺の動きに併せ、各自動いてくれ。」

 サヤ以外の全員が頷く。少し遅れて渋々サヤも頷く。

 俺たちは音を立てないよう、スプレッドの周囲に散開する。



 全員が配置に着いた。俺が作戦の起点だ。せいぜい暴れてやるさ。


 俺は浮上しビルの影から飛び出すと、インヴェイダーどもの頭上に躍り出る。

「オラァ!! こっちだ! かかってこい!!」

 インヴェイダーの注意を一身に受ける。


 腕が砲台になった銀巨人から銀の矢が放たれる。

 何本もの銀の矢が飛来する。ソードで弾きつつ、体を翻して回避する。


 そのままやや後退、インヴェイダーどもはぞろぞろと近づいてくる。

 スプレッドから引きはがすように、インヴェイダーを誘導しつつ撃破していく。


 インヴェイダーと戦闘を行いつつも、破壊担当たちがスプレッドの下で傘の中に向けミサイルランチャーを構えるのが見えた。

「やれぇぇぇ!!」


 その時、傘の中から新たに1体のインヴェイダーが飛び出す。

 刹那の後、破壊担当の1人がピンクの刃で貫かれていた。


 小さい人型? 人間サイズの人型だ。見たことないタイプだぞ?



 次の瞬間には、残り2人は傘の中に向けミサイルを発射していた。


 傘が火を噴く。効いている!! が、その瞬間に破壊担当の二人目が人型に貫かれる!

 だめだ、ダメージが足らない! まだスプレッドは生きている!!

 残った破壊担当がランチャーに次弾を装填している。



 人型と護衛担当が切り結んでいる。が、護衛担当はあっさりと斬り倒される。

 このままだとマズイ。


 俺はインヴェイダーの群れを飛び越え、一足飛びにスプレッドへ接近する。


 ついに人型はサヤが切り結んでいる!!

 レーザー砲を取り出し人型に向け照射! が、両手のソードで防がれる。


「こいつは俺がやる! 周りのザコを頼む!!」

 小型インヴェイダーに蹴りを入れ、吹き飛ばす。そのまま追いかけ、ソードを振り下ろす。敵もソードで受け流す。

 空中を錐もみしながら数合打ち合う。


 スプレッドの周囲を飛び回りつつ、人型と切り結ぶ。蹴り飛ばしレーザーを紙一重で回避される。

 こいつ、手ごわいぞ!


 下では掩護担当が円陣を組み、次弾装填中の破壊担当を護っている。かなりギリギリだ。


 破壊担当の装填が済み、ランチャーを構える。が、それは発射されることは無かった・・・・・。

 破壊担当の隊員が胸を貫かれている。


「あぁっ!!」

 一瞬気がそれてしまった、人型の突きが迫る。ソードで弾くも左肩に刺さる! 肩が焼ける!!

「うがらぁぁ!!」

 そのまま人型を抱え込み、無理やりに脇からソードを差し込む。人型の背中からソードが飛び出す。


 視界の隅で、サヤがミサイルランチャーを拾い上げるのが見えた。

「サヤ!! 撃てぇぇぇぇ!!」

 サヤがミサイルを発射、虹色の膜に突き刺さり炎が噴き出す。



「お、落ちない・・・・・。」

 スプレッドは依然健在だ。

 俺は人型を抱えたまま傘の内側に飛び込む。虹色の膜に人型を叩きつけると、膜に半分くらいめり込んだ。


 俺のすぐ脇に閃光が発し虹色の膜が焼ける。

 サヤがインヴェイダーの隙間からレーザーを撃ちこんできていた。


 俺もレーザーライフルを人型に突き付け引き金を絞る。


 レーザーは人型の胴体を融解させ、その先にある虹色の膜をも貫いた。

 スプレッドの傘が砕けて爆炎が吹き上がる。



 スプレッドが崩壊していく。

 残ったインヴェイダーがサヤを襲う。サヤに斬りかかる寸前で俺が割り込み、インヴェイダーを叩き斬る。

「脱出するぞ!!」


 サヤを引きずるように飛び上がり、まだ残っているビルの屋上に着地する。

 生き残ったメンバーも次々とビルの上に飛び乗る。


 追ってくるインヴェイダーを振り切るため、俺たちはそのまま屋根伝いで撤退した。






 郊外にある丘の上まで戻ってきた。

 出発時に10名居たチームは、俺とサヤ含め4名になっていた。それでも生き残れただけマシだったのかもしれないが。


「肩大丈夫?」

 サヤは俺に近づき、肩のキズを確認しているようだ。


「ああ、大丈夫だ。」

 たぶん「自動回復」スキルでほぼ回復していると思う。良く見えないが。


 後ろを振り返ると、既にスプレッドのキノコ頭は見えず、煙だけが上がっていた。

「やったね・・・・。」

 俺の横に立ち、サヤがつぶやく。

「そうだな。」




「ヴォォォォォォォォォォッ!!!!」

 スプレッドのあった場所から爆発的に砂煙が吹き上がる。

 何かが地面から立ち上がる。


 ビルを越える高さ。全高は100mはあるだろうか。

 巨大な人型の怪物が姿を現した。

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