12.シェルター防衛戦

「ここで絶対に押しと止めろ!! これ以上、奴らを行かせるな!!」

 隊長の檄が飛ぶ。

 私は小銃を構え、接近してくる人型インヴェイダーに銃弾を浴びせる。

 少し怯むような素振りは見える、しかし歩みは止まらない。


 続々と昆虫型、人型のインヴェイダーが接近してくる。

 どれだけ銃弾を撃ち込んでも奴らの歩みは止まらない。私は半ば自棄気味に小銃を撃ち込む。



 首都圏北部の山間部には、有事に向けてシェルターが準備されていた。

 インヴェイダーの急襲により多くの犠牲を出してしまったが、首都圏住民の多くをシェルターに収容できた。


 それは良かったのだが、2日前、インヴェイダーの大軍がシェルターに向け侵攻を開始した。



 私たち自衛隊とディフェンダー戦闘部隊の混成部隊は、インヴェイダーの侵攻ルート上5か所で防衛線を展開した。


 だが、それら全てがインヴェイダーの物量により突破され、現在、シェルターのメインゲート手前2kmの位置まで迫られていた。



「奴らの装甲は硬い! 火力を集中させろ!!」

 再び隊長からの怒声が響く。

 戦車砲に撃ち抜かれ昆虫型の1体が倒れる。だが、その死骸を乗り越えて無数のインヴェイダーが迫ってくる。


「お、終わりがみえねぇよ!!」

 仲間の1人から悲鳴のような声が挙がる。

 敵の物量が圧倒的すぎる。倒すのが全く間に合わない。


「だ、だめだ、こ、後退だ!!」

 部隊が後退を始める。それに呼応するように、インヴェイダーどもはその速度を速め一気に接近してくる。


「うぁぁぁぁぁぁ!!」

 銀の巨人がまさに目の前まで迫る。振り上げられた腕にはピンク色の光を湛えている。


 熱風が迫る・・・・・・。



 そこへ青い残像が落下してきた。銀の巨人が両断される。

 全身ブルーシルバーのボディースーツを着込んだ人が立っていた。



====================



 フルフェイスヘルメット内部に取り付けられている通信機が、女性オペレータの声を届ける。

「作戦地点まで残り1分。降下準備をしてください。」


 シェルターの防衛戦に参加すべく輸送機での移動中だ。


 俺はブルーシルバーのフルフェイスヘルメットと全身の要所を守るボディースーツを着用している。

 インヴェイダーの死骸を素材として各種装備を整えた。


 ボディスーツは奴らの外殻を転用し、軽いのに高い防御力を持っている。


 背中には飛行ユニットが搭載されていいるが、これも奴らから取り出した物だ。


 加えて武装として両腰にはプラズマソード、腰の後ろには銃身の長いレーザーライフルを携帯している。


 ディフェンダーに参加すると決めてから、開発部と協力して組み上げた装備だ。



 いずれもインヴェイダーからはぎ取ったため、元は全て銀色だった。

 そのままだと一見して奴らと見分けがつかなくなってしまうため青く塗装した結果、ブルーシルバー一色となった。


 攻撃力、防御力ともに申し分ない装備なのだが、俺しか使えないという大きな難点もある。




 思惟に浸っていると、輸送機の後部ハッチが展開された。

「降下、お願いします。」

「わかった。」


 俺は輸送機から飛び降りる。高度は数千mほどだ。


 インヴェイダーの中には飛行能力があるものも確認されている。

 輸送機が低い高度を飛行するとインヴェイダーに補足されてしまうため、このような高度から戦線へ突入することになった。


 はるか上空でも地上からの閃光や爆音が届く。

 味方はかなり押し込まれているようだ。聞いていたよりも戦線が後退している。


 戦火の中心に向け俺は降下する。地上まで数百mの段階で背中の飛行ユニットを稼働させ、落下の速度を緩める。



 前線の一か所、今まさに1人の兵士が銀巨人の餌食になろうとしている。

 俺は腰から二刀のソードを抜き両手に持つ。二刀流だ。プラズマを発振させつつ兵士の目の前へ降下、銀巨人を両断した。


 兵士は腰を抜かしたように俺を見ている。



「俺が戦線を押し上げます、バックアップを!!」

 腕が砲台になった銀巨人が俺をフォーカスする。銀の矢が飛来する! が、剣で弾く!

 次々放たれる銀の矢を叩き落としつつ飛行して接近、十字に切り裂く。


 ソードを腰に収める。背中からレーザーライフルを取り出す。


 敵の群れに向けレーザーを照射する。移動しつつ、しかし丁寧に1体ずつレーザーで撃ち抜いていく。

 威力はプラズマソードの方が上か・・・・・。


 レーザーライフルのエネルギーが無くなる。再度背後に背負いソードを抜く。

 ライフルのエネルギーは自動でチャージするため、しばらくすると再使用可能になる。



 再び銀巨人に接近し、ソードで切り裂く!


「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「うぁぁぁぁぁ!!」

「あぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 後方の味方部隊から多数の悲鳴が上がる。


 振り向くと、空を飛ぶ金属製のタコが居た。多数の触手で味方兵を攻撃している。

 あれは飛行型か! 蛸なのに空を飛ぶとか・・・・・・。



 俺は飛び上がり、一直線にタコに向けて接近する。

 タコは俺に気付いたのか、触手3本を高速で伸ばしてくる。


 ロール機動で回避し、3本とも切り落とす!

「ギュルルルルルルルルル!!!」

 タコは奇妙な鳴き声を上げながら上空に逃げる。逃がさない!



 タコは全触手の先端にプラズマの刃を発振させ、触手を振り回す。

 触手が通過し、空を切る音が鳴る。


「見える。」

 触手乱れうちの隙間を抜け、本体に近づく。

 本体にソードを突き立てる。そのまま本体を両断した。


 タコは活動停止し、落下していく。



「ギュルルルルルルルルル!!!」

「ギュルルルルルルルルル!!!」

「ギュルルルルルルルルル!!!」

 頭上、更に10体近いタコが飛来していた。


「いいぜ、全員叩き斬る!」







 俺はディフェンダー本部へ戻ってきていた。侵攻していたインヴェイダーは押し返しシェルターに被害は出なかった。


 ただ、防衛に当たった自衛隊やディフェンダー部隊には多数の被害者が出た。


 俺は既にディフェンダーの戦闘員として何度も出撃し、そのたびに多数の敵を倒している。だが、味方は被害が拡大する一方だ。


 現在はインヴェイダーとの攻防もややこう着状態になりつつあるが、こちらは戦力が日々減り続け、向こうは次々と供給される。


 戦力の崩壊は時間の問題だ・・・・・。



「だいぶ疲れてるわね・・・・・。」

 俺の様子を見て、サカザキさんは心配げに声をかけてきた。


「そうでもない・・・・・・、そんなことは言ってられない。」

「あまり気負い過ぎないように・・・・・ね。」

 俺には力がある。力があってしまう。

 一番敵を倒し、皆を守らなければいけない、だが・・・・・・・。



「新しい部隊を設立するわ。」

 サカザキさんは唐突にそう言ってきた。

「インヴェイダー装備を主兵装とした新部隊よ。」

 "インヴェイダー装備"、そう、俺が開発部と協力して組み上げた装備はそう呼ばれていた。だが、


「装備は、俺以外使えないだろ。」

 確かにこの装備が誰でも使えれば、あんなに味方にも被害が出ないようにできるだろう。

 だが、防具はまだしも、武器については俺以外起動させることができない。


「ええ、今まではね。」

 今までは?

「君から採取した組織、"ミルーシャセル"と名付けたんだけど、これに適合できる"適合者"であれば、装備が起動できることが分かったの。」

「そ、それなら!」

「ええ、インヴェイダー装備を使う人員を増強して、大幅な戦力アップを図れる!」

 それなら、この状況も覆せるかもしれない!!


「既に数名、適合者を見つけているわ。さらに自衛隊やディフェンダーの部隊だけじゃなく、市民からも適合者を探しているところよ。」

 市民まで・・・・・・。今の状況では、非戦闘員などとは言ってられないか・・・・・。


「君にもその新部隊、"エクスタ"に参加してほしいのだけど?」

「ああ、もちろん参加させてもらうが、指揮なんかは無理だぞ?」

 以前の俺なら「指揮も任せろ」などと自信満々に言ってのけたかもしれないが、今はそこまで自信を持てないな。


「ええ、さすがに指揮は任せないわ。ただ、小隊長には就いてもらうけど。」

 装備の使用経験、実戦経験的に仕方ないか・・・・・・。

「わかった。」



「既に一部の適合者はこの施設に来ているの。早速だけど合流する?」

 これからチームを組むかもしれないメンバーだ。早めに顔合わせしておくべきだな。

「ああ、是非そうさせてくれ。」






「な・・・・。」

 今は丁度座学での装備説明中だったようだ。教室のような場所に20名ほどが並んで座り、開発部から説明を受けていたところだった。


 俺はその室内で、予想外の人物と再会した。

「ヒロム、無事で良かった。」

「サヤ、なんでここに・・・・・。」

 そう、サヤ・ヤマモトがそこに居た。


「もちろん、私も適合者だからだよ。」

 別れた最後の時、とても悲しげな表情のサヤが思い出される。


「死ぬかもしれないんだぞ・・・・?」

「シェルターだって、絶対安全じゃないよ?」

「奴らと戦うんだぞ!?」

「わかってる! 私だって・・・・、ヒロムと一緒に・・・・・、」

 だんだん声が掠れ、最後の言葉はほとんどささやき声だった。


 自然と俺の中でサヤは"護る対象"になっていた。だから戦場に出ることに抵抗感がある。だが、これは俺のエゴなのだろう。

 彼女自身は俺と共に戦いたいと願ったのだろう。


 これ以上かけられる言葉が無く、俺は立ち尽くしていた。



 沈黙を破ったのは、教卓に居た開発部のメンバーだ。


「あー、アイダ君? 説明の途中なんで、痴話げんかは外でやってくれ。」

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