11.ディフェンダー

 帰りの道すがら、サヤにも鎌を持たせてみた。

 しかし当然ながらピンクの刃は発生しなかった。やはり俺だけか。


 一部のスキルが稼働していたりするし、これもミルーシャと関係していると考えるのが自然か・・・・・。



 避難所に近づくにつれ、「警戒」がチクチクと危険を知らせてくる。その理由は避難所の1kmほど手前で判明した。


 避難所は昆虫型の怪物に包囲されていた。自衛隊が避難所の周囲に展開し防衛していた。

 機関銃程度ではなかなか奴らにダメージを与えることができないようで、牽制しつつ侵入を防ぐことに徹している状態のようだ。


 避難所に攻め込まれるのも時間の問題だな・・・・・。


「ど、どうしよう、あそこには友達もたくさん居るのに!」

 俺は友達居ないなぁ、などと思いつつも見捨てるつもりは無かった。


 だが、どうする。そのまま外から突っ込むか? サヤも居るしな・・・・・・。



 俺は急いで家の場所まで戻る。そこには先ほど倒した銀巨人の死骸が残されていた。


 銀巨人は上空から落下してきた。それに戦闘中も地面から少し浮いて滑るように攻撃してきた。

 つまり、あいつには飛行能力があったということだ。


 鎌からピンクの刃を出し銀巨人の体を切り開く。体の内部も銀色だ。血が流れたりしないのは助かるな。さすがに血みどろでの解体はできる気がしない。


 死骸の体内をまさぐりながら、ピンクの光を出すときの要領で手当たり次第にあちこちの器官に力を流してみる。



「ヒロム、な、なにしているのかな・・・・・?」

 サヤが引きつった表情で聞いてくる。

 死骸を切り刻んで中に手を突っ込んでる。確かにやってることはかなり猟奇的だな。見た目が機械っぽいから助かっているが。


 俺だって今の状況をあまり考えないようにしているんだ。

 自分の中で"必要なことだ"と割り切って続ける。



 背中あたりにある筒状の器官に力を流したとき、銀巨人の死骸が少し浮いた。

 これか。


 銀巨人の体から筒状の器官を切除、適当なヒモを使って自分の背中に括り付けた。

 ついでに奴の両手の刃も加工して、二刀流の剣にした。


「よし、行こう。」

「う、うん。」

 サヤが今更ながらドン引きしているようだ。

 良く思われたいと思っているわけではないが、少し悲しい気分になった。



 サヤを抱きかかえ、背中の装置に力を流す。

 体がふわりと浮きあがる。ミルーシャで使った重力操作の術法と似ているな。

 少しずつ加速し、避難所を目指す。




 避難所では、依然として自衛隊が昆虫型怪物の侵入を阻むべく防衛を行っていた。

 避難所の上、高度30mほどの高さから侵入し避難所の建物近くへ着地する。


 俺の侵入に気付いた自衛隊員が驚愕の視線で見てくる。

「サヤ、中に入ってろ。」

 サヤは無言で頷き、建物に走っていった。



 俺はソウルバーストをイメージし、全身に力を行き渡らせる。体が仄かに光る。


 腰に差していた二刀を抜き、自衛隊員たちの頭の上を飛び越える。両手の剣からピンクの刃を発振させる。

 そのまま接近してきていた昆虫型怪物の頭部を十字に切り裂く。


 自衛隊員たちの前に着地、背後から息をのむような気配が感じられた。

 たぶん、彼らも化け物を見るような目で俺を見ているのだろう。


 先ほど別れ際に見せた、サヤの怯えるような表情が脳裏をよぎる。

 別に人の視線など気にするつもりもない。つもりもないが、なぜか苛立つ。



「お前らのせいだし、八つ当たりじゃないよな。」

 俺は間近にいた怪物1体に急接近、首を斬り落とす。



 「加速」のスキルが稼働しているのか、敵の動きが緩慢に見える。


 さらに別の怪物に接近、鎌を振り上げた段階で前足を切り落とす。続けて胴体も十字に四散させておく。


 背後に「警戒」の反応。飛行能力で振り返り、鎌を打ち払いつつ頭部を一突きにする。

「おぉぉぉぉぉっ!!」

 体を回転させ、真っ二つに斬り下ろす。


 昆虫型怪物の群れの中を縫うように進みつつ、次々と斬り伏せていく。と、剣が受け止められる。

 銀巨人が紛れていたようだ。


 銀巨人が振りかぶった隙に胴体を横薙ぎで切り払う。上半身が落ちる。

 その背後から更に銀巨人が数体近づいてくる。


「いいぜ、とことん相手してやる!」








 白い部屋だ。四隅には監視カメラが設置されている。

 観察されているのだろうか。見てても俺は何も楽しいことはしないぞ?



 あれから延々3時間ほど怪物を切り裂き続けた。気が付くと周囲には怪物の死骸だけとなり、動く怪物は居なくなっていた。



 避難所に戻ると、自衛隊は俺に銃を向けてきた。まあ、当然だよな・・・・・。

 俺はそのまま拘束され、外が見えない輸送車に乗せられた。



 車に乗り込むとき、遠巻きにサヤの姿が見えた。悲しそうな顔で俺のことを見ていたっけ。


 とりあえず、避難所の人たちが護れたんだから、よかったよな・・・・。



 その後どこかわからない場所に連れて来られ、少々身体検査と採血などされたのち、この部屋に押し込まれた。

 丁度いいから休もうかとも思ったが、体が興奮状態なのか眠気が来ない。



 何時間たったか。外はどうなっているのか。みんなは無事だろうか。

 父さん、母さん、サヤ・・・・・。


 俺はなんでサヤを気にしてるんだ?







 唐突に白い部屋の扉が開く。

 一人の女性が立っていた。スーツの上から白衣を着ている。仕事のできる女研究者って雰囲気だ。


「初めましてヒロム・アイダ君、私はアヤナ・サカザキ、ディフェンダーの研究員をしています。よろしく。」

 サカザキさんは俺に近づき、握手を求める。


「よろしく。」

 俺は一応握手に応じて置いた。ディフェンダーってなんだ?



「こんな場所に閉じ込めてごめんなさいね。順番に説明したいんだけど、何から聞きたい?」

 サカザキさんはどこから出したのか、椅子を取り出して座りながらそんなことを言いだす。

 俺の方から質問するスタンスで行くのかよ・・・・。


「ディフェンダーってのは?」

 サカザキさんは、「おおー、そうか、そこからか!」と言いたげな表情だ。たぶん、この人ちょっと残念な人だな。


「以前から、惑星外生命体の存在は考えられていたの。そこで非公表ながら国境をまたいだ協力機関が設立された。それがディフェンダー。ただ、」

 ため息を一つつきつつ説明が続く。

「まさか、こんな大規模で一気呵成な侵略は想定してなかったけどね。」

 サカザキさんはやれやれと言いたげだ。


 国レベルでは宇宙人の存在はある程度把握されてたってことか。ってことは、"管理者"ってのとも連絡が取れるんだろうか?



「それなら、銀河連邦に救援を要請したらいいんじゃないか?」

 サカザキさんはポカーンとしている。小奇麗な女性がしてはいけない表情の一つだな。俺そんなに変なこと言ったか?


「ぎんがれんぽう? え、どういうこと? あなた、何を知っているの!?」

 ん? なんか話に祖語があるな・・・・。もしかして藪蛇?

 宇宙時代未満の文明人には、銀河連邦とか説明したらダメって言ってたな。というか、俺に説明してよかったのか? アマクサよ。


「ねぇ、どういうこと? なにか知ってるの?」

 サカザキさんは立ち上がり、俺に詰め寄ってくる。サカザキさんの質問が止まらない。たしか俺が質問するはずだったんだが・・・・。

 どうしよう、というか、俺、銀河連邦関係ないし、言っちゃってもいいよな?



 仕方なく、ミルーシャでの一連の顛末と銀河連邦や管理者、そしてレガシハンターの存在などを一通り説明した。


 残念ながら、俺が取りうる通信手段を失ったことも伝えた。

 っていうか、なんで俺が説明側に回ってるんだよ・・・・・・。


 サカザキさんは説明の途中から唖然とした表情となり、今は力なく椅子に腰を下ろしている。



「なんてこと・・・・・、宇宙にそれほど高度な行政機関があるなんて、にわかには信じられないわ・・・・・、それに、異世界が存在する可能性は以前から言われていたけど、それは別惑星だったということ・・・・・?」


 サカザキさんは口に手を当て、ぶつぶつと独り言を言い続けている。

 もう、俺の質問に答えてくれないなら、ここから出してくれないかな。



「でも、なんとなくあなたが力を使えた理由の推測がついたわ。」

 唐突に俺の方に話が戻ってきたな。確かに俺もそれは気になっていた。


「ミルーシャのデウスマキナだったっけ? それが供給するエネルギーシステムと同様の仕組みが、今この星にはあるのよ。」 

「それは・・・・・?」


「侵略者たち、ああ、私たちはアレをインヴェイダーと呼んでいるんだけど、彼らの個体には動力部が無いの。」

 そうなのか。銀巨人を解体したときには・・・・・・、いや、俺にはどれが何の器官とかわからないな。


「どうやら、アメリア北部にある"本体"から、地殻下の層を通じて惑星全体にエネルギーを供給する"インフラ"のようなものが構築されているみたいなのよ。」

「それと、俺の力に関係が?」

「たぶん、あなたもそのインフラからエネルギーを得ているんだわ。おそらくはミルーシャの仕組みと近い構造なのでしょう。」

 それで急にスキルが稼働したのか。


 強化系のスキルしか稼働しないのは、ミルーシャとの環境の違いってことか・・・・。

 インヴェイダーから力を得ているってのは、あまり気分が良い物ではないが。





「そろそろ、俺からの質問を再開してもいいか?」

 待っていても質問タイムが再開されないし、強制的に話題を切り替える。


「あ、そ、そうだったわね。いいわよ。」

「と、言っても、聞きたいのは後一つだけど。俺はこれからどうなるんだ?」

 サカザキさんの瞳に挑戦的な火が灯ったように見えた。足を組み直し、改めて試すように俺を見つつ問いかけてくる。



「ディフェンダーに入らない?」

 サカザキさんの居る組織か。組織について具体的な話は何も聞いてないな・・・・。


「ここに捕まってる時点で、"入らない"っていう選択肢は無いんだろ?」

「え、あるわよ? ただし、その場合は"ご協力"いただく間、ここに居てもらうことになるけどね。」

 結局自由にはならないじゃないか。



「"入る"としたら、俺は何をするんだ?」

 サカザキさんは頬に指を当てつつ答える。


「そうね、本当はこの研究所でガッツリ身体を調べさせて? と言いたいところだけど、」

 おい、どのみち拘束、っていうか監禁されてるじゃないか。


「今の状況を考えると、インヴェイダーを単身で3ケタも殲滅できる戦力を閉じ込めておくのは、得策じゃないわね。」

 そんなに倒したっけ? 数えてなかったからな・・・・。


「なので、ディフェンダーの戦闘部隊に所属してもらうことになるかな。」

 どちらにしろ、俺は奴らを倒すつもりだったし、選択肢は無さそうだ。


「わかった。ディフェンダーに参加する。」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る