10.プラズマブレード
「ヤマモト?」
俺は足を止め、改めて確認する。間違いなくヤマモトだ。
倒れている女子生徒をかばうように、あの怪物に立ちふさがっている。
何をしている!? 死ぬだけだぞ!?
いろいろな思考が頭を駆け巡る。俺は気が付くと駆け出していた。
怪物が鎌のような腕を振り上げる。
俺は怪物の側頭部に飛び蹴りを食らわせる。怪物はたたらを踏む。
驚くほど体が軽い。とっさのこととはいえ、地上高2mはあろうかという怪物の頭部までジャンプし飛び蹴りができた。
体を見下ろすと、ほんの少しだけ金色に光っていた。これは、ソウルバースト状態?
ミルーシャでもないのになぜ!?
「アイダ君!!」
「キシャァァァァァァァァァッ!!!」
後ろからヤマモトの声と同時に、正面の怪物が奇声を上げる。
怪物の両鎌からピンク色の光が漏れる。あれは触れたらやばそうだ。
思い出せ! ミルーシャでの戦いを!!
怪物が鎌を振り上げる。動きが見える!
振り下ろされる鎌、ピンクの光が出ていない部分を手で弾きつつ、側面に回りこむ。怪物の腕を抱え込み、体を回す勢いでへし折る!
前足の1本をもぎ取ってやった。ピンクの光が消える。硬くていいなこの足。利用させてもらおう。
再び怪物が残った前足を振り下ろしてくる。
体を半身にし、紙一重で振り下ろしを回避する。ピンクの光が放つ熱波がわずかに体を焼く。
もぎ取った足を剣として、怪物を逆袈裟斬りに切り上げる。
ギャリギャリと金属を削るような音、さすがに奴ら自身の足でも外殻はそう簡単には切れないか・・・・、だが!
全身の力を足に集中させる。切り上げた勢いのまま後ろ回し蹴りを放つ。
胴体に蹴りを受けた怪物は、地面を滑りながら校門当たりまで吹き飛んでいった。
蹴った自分も一瞬唖然とした。が、今のうちだ。
「立て! 逃げるぞ!!」
今だに腰を抜かしたように座っているヤマモトと女子生徒を無理やり立たせ、俺たちは走って逃げた。
本当は家に向かうつもりだったが、二人の女子生徒を連れて行くわけには行かない。
避難所に逃げ込んでいた学校の教員たちに二人を預け、俺はこっそりと避難所から抜け出した。
これで家に向かう・・・・・・・、つもりだったんだが。
「なんで着いてくるんだ!?」
なぜかヤマモトが着いてきた。
「アイダ君、1人で危ないよ? 自衛隊も来てるし避難所に居た方がいいよ。」
「俺はどうしても家に用事があるんだよ。」
「私だって家には帰りたいよ? でも今は危ないよ!」
ヤマモトは少し悲しげな表情をしつつも、意思の強そうな表情で俺を見てくる。
うむ、どうしたものか。銀河連邦の機関員と連絡できるって言っても信じないだろうしなぁ。
「どうしても行くなら、一緒に行く。2人の方がきっと安全だよ。」
決して引き下がらない、そう言いたげな表情だ。
しかたない。
「隠れろ、逃げろ、と言ったら、ちゃんと言うことを聞いてくれよ?」
俺はため息をつきつつも、連れて行くことにした。
学校から逃げる時には響いていた警察や消防のサイレンは、既に響いてこない。
代わりに銃撃音や爆発音、何かの破壊音がどこかから響いてくる。
怪物と自衛隊が戦闘状態に入っているようだ。
俺は自身の能力を確認しつつ、街中を進む。
先ほどの戦闘で、「ソウルバースト」のようなものが発動するのはわかった。これにより身体能力が強化されていた。
それと、気配察知のような能力が使えるようで、怪物の接近がなんとなくわかる。これもミルーシャで使えた「警戒」のスキルと似ている。
あと、軽い擦り傷や切り傷もすぐに治ることから、「自動回復」スキルも動いているっぽい。
どうやらミルーシャで使えた一部のスキルが稼動しているようだ。
これまでもこの星でスキルや術法を試したことはあったが、発動したことは無かった。
理由は分からないが、状況的には怪物の出現と関係していそうだな・・・・・・・・。
ヤマモトはこわごわしつつ俺の後についてくる。
「怖いなら避難所に居たらよかったのに。」
「だ、大丈夫だよ!」
ヤマモトは無理やり背筋を伸ばし歩き出す。しかし視線は周囲をさまよったままだ。かなり警戒しているな。
俺は「警戒」で奴らの接近がわかるからなぁ。なんか申し訳ない。
「私のことは、サヤでいいよ。」
ヤマモトが唐突にそんなことを言い出す。
急にどうしたんだ? まさかつり橋効果とか言わないよな?
「か、勘違いしないでよ、ヤマモトよりサヤのほうが短くて、とっさのときに呼びやすいでしょ!」
言い訳まで・・・・・・。そんなフラグ立てなくていいのに。俺にはルーシアがいるし・・・・・。
ヤマモトの意図は良くわからないが、とりあえず乗っておこう。
「まあ、今は2人だけの仲間だし、信頼感は大事かな。」
「そう、それ、そう言いたかったの!!」
「なら、俺のこともヒロムでいい。」
「うん、わかったヒロム。」
妙に照れくさそうだ。照れるなら言わなきゃいいのに。なだかこっちまで照れくさくなる。
「ヒロムは、」
サヤは言葉のトーンを急に下げてきた。
「なんであんなに戦えるの? 体育の成績だってそんなに良くないはずなのに。」
当然気になるところだろうな。体育万年赤点の俺が急にあんな戦闘したら。
「・・・・・、話すと長くなる。今は時間が無い。またいずれ話すよ。」
どうせミルーシャに転移するなら、その後に話した方が理解しやすいだろう。
「わかった。必ずね。」
「ああ。」
俺はいよいよ行き詰ったかもしれない。
俺の家は残っていなかった。
この辺りで激しい戦闘が行われたようで、周囲の家も軒並み倒壊している。
両親は無事だろうか。遺体は見当たらなかった。どこかの避難所で無事だといいのだが・・・・・。
俺はしばらく家の残骸を漁り、パソコンを探し回った。だが、どこかに吹き飛ばされてしまったのか見当たらない。
俺はため息をつきつつ立ち上がる。
「サヤ、ごめん。無駄足になった。」
サヤは俺を気遣うような表情だ。親の形見でも探しに来たとでも誤解してそうだ・・・・。
上! 「警戒」が唐突に上方向への警告を発してきた。とっさにサヤを抱き寄せ、後方に飛びのく!
「え、そ、そんな、こんなところで・・・」
サヤが酷い誤解をしているが、無視だ。
上空から何かが地面にぶつかるように落着する。
銀色の何かが丸まっている。丸まった何かが伸び上がり、立ち上がる。
大きな人型だ。身長3mくらいだろうか。全身銀色、両腕には手は無くそれぞれ剣のようになっている。
目は無いが、明らかにこちらを見ている雰囲気だ。両腕の剣がピンクの光を発する。
「サヤ、逃げろ!」
銀巨人は地面を滑るように移動し斬りかかって来る!
サヤを後方に突き飛ばす。俺は敵に向かって走りつつ、怪物の鎌を取り出す。
銀巨人が右腕を振り下ろす。ピンクの軌跡が走る!
俺は左に回避し、敵の死角側へ入り込むと腰の後ろを斬りつける!
ガキンッと硬質な音がして鎌が弾かれる。やはり斬れない。
いっそ、ミルーシャの剣術系スキルが使えないだろうか。
試しにラピッドスラッシュの発動を念じてみるが・・・・・、だめだ、発動する気配は無い。使えるスキルと使えないスキルの基準が良くわからない。
すると、手に持っていた鎌からピンクの光が噴き出した。
「アレ?」
これって、奴らの腕が光るのと同じ?
俺が戸惑ってみているうちに、銀巨人が再び正面に立ち、右腕で切り下ろしてくる。
ピンクの光を発している鎌でそれを受け止める! ピンクの光同士が干渉し合い光の飛沫が漏れる! これなら!!
俺はつばぜり合いを透かして死角に回り込むと、敵の右足を切りつける。
鎌はスムーズに通過し、足を切り落とした!
倒れてくる銀巨人の右腕を根元から切り落とし、倒れた後に左腕も切断する。
「これで!」
胴体中央を突き刺す。しばしピクピクと動いたのち、銀巨人は動きを止めた。
「ふぅ。」
なんとかなった。
体を覆うソウルバーストの光を流すように意識してみると、ピンクの刃を発するようだ。
ますます原理が不明だが、このピンクの刃があればこいつらを倒せる。
アマクサと連絡ができないなら・・・・・・、俺が戦うしかないか。
俺は決意新たに、鎌を握り締める。
瓦礫の真ん中で、サヤは唖然として俺を見ていた。
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