8.ガスの海へ

 壁の薄い場所を突き破り、ヴァリアントが洞窟内に侵入していた。

 やはり飛行タイプがいたか。

「アイ! 重火力型射出!」

『かしこまりました。』


 壁の穴に殺到していたヴァリアント共を力任せで外に叩きだす。

 僕も外に飛び出す。


 少し上の斜面に手頃な岩を見つけた。

 岩を落とし、壁に開いた穴を塞いでおく。


 同時に下の入り口からラファも飛び出してくる。



 山の周囲は歩行タイプと飛行タイプのヴァリアント共に包囲されていた。


 そこへ卵型コンテナが降下してくる。ちょうどいい、これで下の入り口も塞いでやる。

 コンテナ落下位置を調整し、洞窟入り口にふたをした。しばらく中で待っていてくれ。


 コンテナが展開される。中には二人分のエグゾスーツが格納されていた。


 ヴァリアントたちが襲い掛かってくる。

「ラファ!」

「いえす。」

 コンテナからアームが伸び、スーツが装着される。


 ヴァリアントの鎌が振り下ろされる。

 振り下ろされた鎌は到達することなく、コンテナ内から飛び出したソード群によりヴァリアントはバラバラになった。


「切り刻め、ソードサテライト。」

 周囲のヴァリアント共はソードサテライトで切り刻まれる。


 上空からヴァリアントが1体、急降下攻撃を仕掛けてくる!

 だか、胴体に巨大なプラズマブレードが突き刺さり、くの字に折れ曲がる。

 そのまま流れるように真っ二つに両断される。


「おれのつるぎの、さびになりたいやつは、だれだ。」

 ラファさんや、ものすごく棒読みですよ。あと、ブレイヴセイバーは錆びません。


「さて、害虫駆除といきますか。」








 第14戦隊旗艦のブリッジ。僕はジジルア中佐と相対していた。


 立体地図が表示され、モルドーニャ、ルイルージャとマーカーされた島が表示される。ガスに沈む地形も造形されている。


 ルイルージャから南西に数kmの距離、ガスの海の中に赤いマーカーが表示される。

「無人機での探査により、コアを発見した。」


 ジジルア中佐は立体地図の赤いマーカー部を指しつつ述べた。


「深部ですね。」

 そう、ガスの海でもかなり深い部分だ。奴らは腐食しないらしい。なんかずるいな。



「うっかりコアに攻撃すると、アルソリドの時の様にコアの打ち上げが始まる公算が高い。」

 立体地図のコアが上昇する。


「打ち上げ時の爆風によりガスの海が大きく波立つ。」

 ガスの海に波が立っている。

 ガスの津波はモルドーニャ、ルイルージャの集落まで到達している。


「これはあくまでも予測だが、両集落は全滅する可能性がある。」

 立体地図の島は、ガスで覆い尽くされてしまっている。


「つまり、コアに攻撃を悟られないように攻撃しないといけないってことですか・・・・・。」

「そうなるな。」

 なかなか困難なミッションになりそうだな。



「とはいえ、攻撃しないことには始まらない。そこでだ。」


 立体地図、コアを中心とした広い領域に円状の部隊配置が表示される。


「コアから10kmの距離を取り、部隊を展開。まずはヴァリアントの拡散を押さえる。さらに、」


 ガスの海深部にルートが表示される。


「少々リスキーだが、ガスの海深部にある海溝を進行し、コアを直接攻撃、打ち上げが始まる前に叩く。」

 コアのマーカーに×印が打たれる。


 その後、周囲の部隊が円を縮め、中心の部隊が周囲に広がっていく。


「外の包囲を縮めつつ、内部からもヴァリアントを攻撃し、殲滅する。」

 ヴァリアントのマーカーは全て消滅した。



「君には、コア攻撃部隊を率いてほしいのだが、どうかな?」

 レガシの有無も確認しなくてはいけないし妥当な人選だな。少々危険なのが玉にキズ・・・・・、いや、改めて考えると、いつも危険ばっかりか。


「わかりました。それで行きましょう。」

「うむ。作戦詳細は追って送信する。」

「よろしくお願いします。」


 僕は通信を切断。フルフェイス内に表示していたブリッジの様子が消え去る。

 シジルア中佐側も、僕のホログラムは消えてるだろう。


「作戦、きまった?」

 僕の雰囲気で悟ったのか、傍らに腰掛けていたラファが聞いてきた。


 僕たちはルイルージャの集落から南西方向の岸壁に座っていた。

 島の中はヴァリアントの死骸まみれだ。島をうろついていた奴らは一匹残らず殲滅した。


「うん、決まった。」

 僕は立ち上がる。先ほどまで居た山の洞窟方面を見る。


「彼らにはバタバタのまま去ることになってしまうけど、仕方ないか。」

「早くコアを始末するのが、彼らのためにも、なるよ。」


「・・・・・・、だな。」








『スーツの耐腐食処理も2時間ほどしか持ちません。短時間での任務遂行が必須です。』

「わかってるよ。焦らずゆっくり急いで行きますよ。」

 第14戦隊でも精鋭と言われる部隊を連れ、僕らは海溝を歩いている。


 海溝と言っても、ただの浅い谷だ。せいぜい20mほどだろうか。

 谷の上にはヴァリアント共がうろついているため、僕らは極力音を出さないように歩く。

 幸い、ガスにより視界が悪いため、ちょうど良い目隠しになっている。


 既にヴァリアント共の包囲は完了しており、これ以上のヴァリアントの拡散は防止している。あとは、僕らがコアを破壊すればいいのだ。


 僕は視界に映る立体マップを確認する。既にコアまでは2kmを切る位置まで接近しているはずだ。

 しかし、ガスにより視界が通らず、依然としてコアは視認できていない。



 さらに進む。谷の上から聞こえるヴァリアントの歩行音は明らかに密度を増している。

 かなりのヴァリアントが谷の上に居るようだ。

 僕らはことさら気配に注意し、谷を進む。



 ガスの中、うっすらとコアのシルエットが確認できるようになった。

 ここまでくれば、一気に強襲してしまうことも可能か・・・・・・。

 その時、谷の上が騒がしくなる。


 谷底に居た部隊全員は静止し、息を飲む。


「キシャァァァァッ!!!」

「キシャッ、キシャァァァァァッ、キシャァァァァァッ!!!」

 奴らの鳴き声とともに、金属同士をぶつけたような音が何度も響く。これは・・・・ヴァリアント同士で争っているのか?



 僕たちは谷底で身動きせず、事態が収まるのを待つ。相変わらず喧噪が続く。


 ガチンッ! と言う何かがぶつかり合うような大きな音と共に、谷の上から何かが落下してくる。


 ヴァリアントの1体が落下し、谷底に衝突する。僕らは瞬時に周囲の岩陰に隠れた。


 落下してきた個体はヴァリアント同士で争ったためか、体中がひび割れ6本脚のうち2本が折れている。が、まだ生きているようだ。僅かに動いている。


 谷の上は静かになった。どうやら突き落した方は去ったようだ。



『対象群を過去判定済みの敵性勢力と断定、銀河連邦管理者からの破壊許可適用。』

 破壊は可能だが、できればそのまま息絶えるか、立ち去ってほしいところだ。



 そんなことを考えていると、落下してきたヴァリアントが立ち上がった。


 残った4本の脚で体を支え、頭部らしき場所をきょろきょろと動かす。

 しばらくすると、谷の壁面に足を突き刺し、ゆっくりと登り始めた。



 ヴァリアントはほぼ谷の上まで登り切った。何とかやり過ごせたか・・・・・・。

 と、その時、最後の最後で足を踏み外し、ヴァリアントは再度落下してきた。



 僕の目の前だ。どこが目だろうか。頭部の前後も良くわからない。が、明らかに僕を凝視している。たぶん、目が合った。

「キ、キシャッ」

 頭部にプラズマブレードを突き立てた。そのまま全身を切り刻む。



 コアを確認する。気づかれたか!?


 しばし凝視する・・・・・・・・、コアには動きが無いようだ。よかった・・・・・・。





 次の瞬間。


 コアに僅かだが、筋状の光が走る。

 花弁が・・・・・・・・・・、開いていく!!!

「全員攻撃開始! 突撃だ!!!」


 谷底から全員が一斉に飛び立ち、コアに向けて攻撃しつつ接近する。

 僕はグラビトンレイをチャージする。


「キシャァァァァァァァァァッ!!!」

「キシャァァァッ!!!」

「キシャァァッ!!!」

 周囲のヴァリアントも一斉に反応する。完全に包囲されている!


 グラビトンレイを撃ち込む! だが、花弁がどんどんと開口していく。

 グラビトンレイにより花弁の一部は分解されるが、巨大すぎて破壊しきれない。


「アイ!! ドレッドノートだ!!!」

『かしこまりました!!』


 僕は持ってきていたフライングシールド20枚全てを花弁の周囲に展開。


「連結型Gプリズン!!」

 20枚で連結したGプリズンを展開、花弁を拘束する。



 花弁の開口動作が停止する。フライングシールドがブルブルと震える、花弁が徐々に開口しようとしている。Gプリズンの出力が足りないか!!


 僕はGプリズンの外周部に接触、エグゾスーツの重力ジェネレータを接続し、直接動力供給を行う。


 ヴァリアント2体が僕に向かって飛びかかってくる。

 ぐっ! 今避けられないぞ!


 横合いから巨大なプラズマの刃が伸び、2体を串刺しにする。

「旦那様は、私が護る。」

「すまないラファ、少しの間頼む!」


「まかされた。」

 ラファはサムズアップし、近寄ってくるヴァリアントを次々と切り裂いていく。


『ドレッドノート接近!』

「動力供給はそのまま、スーツ解除!!」

 僕は重火力型をそのままに、軽装甲スーツで飛び出す。

 重火力型を踏み台にして一気にガスの外まで飛び出す。



 海の上に大型コンテナ、そこからドレッドノートが落下してくる。


 重力ドライブを操作し、空中で軌道修正、ドレッドノートのドッキングブースへ飛び込む。

 同時にサイトウさんから通信が入る。

「ユウ坊! ドレッドノートは耐腐食処理をしてねぇ。10分程度しかもたねぇぞ!!」

「10分以内に済ませます!!」

 サイトウさんの怒鳴るような警告に応えつつ、ガスの海に飛び込む。


 すぐに腐食が始まり、ドレッドノートの全身からイエローアラートが挙がる。



 コアが・・・・・・、見えた! まだ花弁は開き切っていない!


「アイ! グラビトンテンペスト!!」

『かしこまりました。グラビトンテンペスト、発射体勢に移行します。』

 ドレッドノートの姿勢が固定される。

 花弁の開く速度が上がっている。Gプリズンが限界か!


『SDモード起動・・・・、直列重力子コンデンサを重力子圧縮システムに直結、連装チェンバーへのエネルギー供給開始、キャノンバレル展開、』

 両肩のグラビトンレイ2門が展開される。

 Gプリズンがついに破壊され、花弁が一気に開いていく。


『反動制御用重力アンカー発射、連装チェンバー1番から20番まで充填100%、発射どうぞ。』

 大輪の花の中、巨大卵は下部から白い蒸気を吹き出し始めた。


「全員離れろ!!」

 周囲に居た友軍が一斉に離れていく。


「発射!!」

 連発されるグラビトンレイの嵐が巨大卵に殺到する。

 卵は上部からどんどんと削り消えていく。

 巨大卵の下からまばゆい光があふれる。と、同時に卵は半分以下まで分解され、漏れた光は弱まり消えていく。


 巨大卵はそのまま分解の嵐に飲み込まれた。






「今回もレガシはありませんでしたか。」

 ガソーシャでの件を管理者に報告中だ。

 やはり今回のコアにもレガシは無かった。

 

 ちなみに、コアの発射を阻止したのはもちろんだが、ガスの海が津波も食い止めることができた。


 我が物顔で闊歩していたヴァリアント共は、前回同様コア破壊後には全て停止していた。これらもいずれ崩れ去るだろう。



 ドルコンたちがどうなったか、改めて確認してはいない。

 現地知性体との接触は本来は禁則事項だしね。


 許嫁との仲は気になるところだが、うまくいくことを祈るに留めておこう。



 ガソーシャでの戦いの顛末を思い出しているうちに、管理者が話を進めていた。


「こうなると、やはり行方不明の1つの行き先を追う必要がありそうですね。」

 毎回行方不明になるコアがかなり怪しい。


 間違いなく隠ぺいするような機能を有しているんだろう。

 隠ぺいする必要があるということは、それだけ重要なコアだということだ。


「行方不明のコアについては、引き続き捜索を行います。」

 お? てっきり行方不明のコア探しが次の任務かと思ったが・・・・。


「現在、コアの行き先が判明している場所については対応中です。なので、二人には少し行ってきてもらいたい場所があります。」 

「え、どこですか?」


「ミルーシャです。」



====================



「一斉攻撃だ!!」

 ヴァリアントコアに向け、全員で一斉攻撃を加える。

 ヴァリアントコアは炎に巻かれ崩壊していく。



 崩壊したコアに近づき残骸を調べる。やはりレガシは無いか・・・・・。


「だが、これでここの任務は完了・・・・か。」

 ここロストコロニーは母星が滅亡してしまい、取り残された人工居住地だ。


 ここに飛来したヴァリアントコアによって、細々と暮らしていた人々はほぼ全滅してしまった。


 この場所が非常に資源に乏しい場所であったが故に、コアは十分に成長できなかったようだ。前回のコアに比べ、かなり小柄だった。


 それは幸だったのか不幸だったのか・・・・・、コアを破壊できたが、素直に喜べない結果となってしまったな・・・・・。



「・・・・・・、引き上げるか。」

 俺は立ち上がり振り返る。


 そこには、銀河連邦軍の部隊が居る・・・・・・、



 はずだった。


 暗闇に異様に白い顔だけが浮かんでいる。

 いや、全身黒い衣服の女だ。白い顔だけが異様に浮いて見えたのだ。


 女の周囲をよく見ると、銀河連邦軍の部隊だったモノが散らばっている・・・・・。



「な、なんだ、おま・・・・!」 

 俺はそれを言い切ることができなかった。

 視界は白い触手のようなもので埋め尽くされていた。






「うふふふふふ。」

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