7.害虫侵入

「ワスン!!」

「ドルコン・・・?」

 感動の再会・・・・か? ドルコンの権幕にワスンって子の方は少々戸惑っているようだが。とりあえず無事でよかった。



「長!!」

 年配のガソーシャ人にジョピンさんが近寄りつつ声をかける。

「おお、ジョピンか!」

 長と呼ばれた人は、モルドーニャの長イグールさんと同じくらいの歳だろうか。見るからに疲労困憊な様子だ。



「この状況!? 住民たちは無事なのですか!?」

 モルドーニャで見たときは数体だったヴァリアントだが、ここでは大量だ。やはりコアとの距離か。


「おまえも見ただろう、あの怪物だ。3日ほど前に集落が襲われ、何とかこの洞窟に逃げ込んだのだ」

 長は苦々しい表情で続ける。


「残念ながら、無事ここまでたどり着けたのは住民の3割ほどだ。他の者たちは皆を逃がすために・・・・・・。」

 長は沈痛な面持ちだ。確かに洞窟内を見ても男が少ない。先ほど洞窟の入り口でヴァリアントを追い払っていたのも女性だったようだし。


「そうでしたか・・・・・。」

 ジョピンさんも全く知らぬ中でもないのだろう、辛そうな表情だ。



「それはそうと、なぜジョピンがここへ?」

「モルドーニャもあの化け物に襲撃されました。イグール様がルイルージャを心配されて、俺に様子を見てこいと。」

 長の表情にやや驚愕が映る。


「ぬぅ、モルドーニャは無事だったのか?」

「被害は出てしまいましたが、なんとか。彼らの協力もありまして。」

 ジョピンさんは、僕らを軽く指しつつ説明している。長は覗うような視線を向けてくる。



「ああ、そうだ。長、紹介します、ユウ殿とラファ殿です。」

 ジョピンさんが僕らを長に紹介してくれる。


「ルイルージャの長、ルオウだ。初めてお目にかかる。」

 ルオウさんは値踏みするように僕らを見てくる。割と遠慮のないタイプだな。



「この二人は旅人なんですが、やつらを退けるのに力を貸してくれたのです。」

 ジョピンさんが助け舟を出すように、補足してくれる。


 ルオウさんは小さく「旅人?」と呟きつつ、懐疑的な目を向けてくる。

 やっぱり旅人は相当珍しいらしい。まあ、ガスの海に囲まれていては旅もままならないよなぁ。



「やることはむちゃくちゃですが、彼らは腕も立つ。この危機の助けにもなるでしょう。」

 持ち上げられてるのか、けなされてるのかよくわからない。

 しかし、短い期間ではあるが、ジョピンさんは一応信用してくれているようだ。


 ルオウさんは「うむ」と何か納得したように口を開く。

「今は、人同士で疑いあっている場合ではないか。ルイルージャはご覧の状況だ。我らにも手を貸してもらえると助かる。」

 ルオウさんは手を差し出してくる。僕は握手に応じる。


「よろしくお願いします。早速ですが、奴らはどの方角から来るのか、わかりますか?」

「奴らの来る方角に、何かあると?」

 ルオウさんは探るような視線を向けてくる。


「巣があると、考えています。僕は奴らを一匹残らず倒したい。」

 ルオウさんは一瞬考える素振りを見せたが、すぐに答えてくれた。


「おそらくは南西だ。最初に集落に姿を見せたのも南西側だったしな。」


 視界にモルドーニャとルイルージャを現す地図が表示される。

 モルドーニャからは北西方向、ルイルージャからは南西方向へ線が伸びる。その交点部分。


『ジジルア中佐へ連絡します。』

 僕は内心で「頼む」と呟いた。




「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 その時、洞窟内に悲鳴がこだました。



====================



「ワスン、よかった・・・・。」

 ワスンの姿を見たら、思わず抱きしめそうになった。が、それは寸前で思いとどまった。さすがにそれは恥ずかしくて無理だ。

 両手をしっかりと握るだけにしておく。


「どうしたの? なんだか、らしくないよ、ドルコン。」

 ワスンが不思議そうに問いかけてくる。


 改めて言われてみると確かに。いつもはもうちょっとかっこよくしてたな・・・・・、だんだんと恥ずかしさがこみ上げてきた。

 今更考えると、勢いで両手を握ってしまったのも少々気恥ずかしい。焦って手を離す。



「そ、そうか? まあ、無事でよかったな。」

 ワスンは少し笑った。笑顔を見たら、俺も少しうれしくなった。


「ふふ、ありがとう・・・・、でも、お父様もお母様も・・・・・・。」

 笑顔が見れたと思ったら、すぐに俯いてしまった。


「おじさんとおばさんが・・・・・!?」

 以前、ルイルージャに来たときに笑顔で出迎えてくれた二人の姿が浮かぶ。 

 くそっ! あの化け物どもめ!!



「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 その時、洞窟内に悲鳴がこだました。


「なんだ!?」

「上から?」

「キシャァァァァァァァァァァァァァッ!!!」

 洞窟内の上に向かう通路の先から、甲高い鳴き声が響いてくる。


「そんな、下の入り口から入り込まないように食い止めていたのに!」

「ワスン! 隠れていろ!!」

 俺は上に向かう通路を駆ける。

 その間にも、通路の先から悲鳴や何かの壊れる音が聞こえる。



 洞窟内の開けた空間に出た。

 最初に目にぶら下がっている人の脚。あの化け物が女性の胸を貫き、そのままぶら下げていた。

 化け物の後ろに外の景色が見えた・・・・・、洞窟の壁を破壊して侵入してきたのかっ!!



 壁の穴の外、そこには更に薄膜状の羽根を羽ばたかせ、宙を舞う化け物共が居る。



 俺はその光景に気圧され、茫然としてしまった。


「ぁ、ぁ、」

 俺のすぐ横から、呻くような声がした。

 右を振り向くと、そこにはまだ無事な女性と子供が残っていた。部屋の隅で子供を抱えるように震えている。


「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」 

 俺は近くにあった燭台を手にとり、化け物に飛びかかっていた。

 俺の体より巨大なソレの胴体部に向け、燭台を振り下ろす。


 硬質な衝突音が響いたが、化け物の胴体にはキズ一つつかない。


 奴が多脚のうち1本を振るう!

 その脚は俺の胸を強かに打ち付け吹き飛ばす! 壁に背中からぶつかった。

「うがっ! がはっ」

 衝撃で肺の空気が吐き出される。


 壁の穴には、内部に入り込もうとする化け物が殺到している。我先にと中へ押し入ろうとしている。

 ぐっ、まずいぞ!


「ドルコン!!」

「ワスン!? 来ちゃだめだ!!」

 室内の化け物はワスンに向き直り、近づいていく。


 やらせねぇ!! 絶対やらせねぇぞ!!

 体を無理やり起こす。肺が空になっている状態で無理やり動いたため、胸の奥がギシリと痛む。が、そんなことは気にしていられない。


 化け物が鎌を振りかぶる。

「ワスン!!」

 ワスンの前に躍り出る。燭台で鎌を受け止める。と、止められた!


 しかし、鎌からピンクの光が漏れる。

「うぐぁぁぁぁっ!」

 熱風が吹き出し肩が焼かれる。声が漏れる。

「ドルコン!!」

 後ろにワスンが居る、絶対に・・・・・引けない!!


「下がれ、今のうちに・・・・。」

 もうどれほども持ちそうにない・・・・・。



 もう片方の鎌が振り上げられる。ピンクの光が漏れる。ああ、まずい・・・・。



「かっこよかったぞ、少年。」

 化け物の頭部が跳ね上がる。一瞬遅れて、化け物は顎を殴られたのだと気が付いた。

 目の前にいつの間にか男が立っていた。


 こいつは確か、ユウと呼ばれていたか。



 ユウはくるりと回転し、化け物の胴体に強烈な後ろ蹴りを入れる。化け物が壁の穴に向かって水平に吹き飛ぶ。

 内部に侵入しようとして穴に詰まっていた化け物共に衝突する。



 聞いたことのない甲高い音がユウの体から漏れる。直後、ユウの姿は掻き消え、壁の穴に詰まっている化け物共に拳と蹴りの嵐を叩き込んでいた。

 化け物共は外に吹き飛ばされていく。再び壁の穴からは外の景色が見える状態になった。


「彼女をしっかりと護ってやれ。」

 そう言い残し、ユウは外に飛び出していった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る