6.浮き船

「そうか、ヴァリアントと遭遇したか。」

「ええ、既に被害も出ています。早急にコアを見つけ潰す必要があります。」

 住民たちに隠れ、僕はジジルア中佐に連絡していた。


「一応手がかりとして、この場所から北西方向にコアが有る可能性が非常に高いです。」

「わかった。ガスの中を無人機で探査させておこう。」

「よろしくお願いします。」

 数に限りはあるが無人機での探査も可能だ。ただ、1時間ほどで腐食し墜落してしまうため、やみくもに使うわけにはいかなかった。

 しかし、多少ではあるがコアの位置を絞り込めたこともあり、無人機でも探査をしてもらうことにした。





 岸壁に戻ると、ジョピンさんとラファが出発の準備をしていた。

 浮き船を貸してくれるとのことで、岸壁に括り付けられている1隻に荷物など積み込んでいる。

 やはり飛行船っぽい形状の風船の下に、小舟がぶら下がったような形状をしている。

 結局どうやって進むんだろう。操縦の仕方を知らないけど、どうしたもんか・・・・。


「準備はできた。いつでも行けるぞ。」 

 ジョピンさんが浮き船の横に立ち、僕に告げる。表情は硬い。まだあまり信用されてないのだろう。

「どうする、最初はどちらからやる?」

 う、何をやるんだろうか? 何であっても僕はできないな。

「あ、すみません、ジョピンさんからお願いしていいですか?」

 ジョピンさんは少し意外そうな表情をしたが「わかった」と告げ、浮き船に乗り込む。


 ジョピンさんは浮き船の船尾部分に乗っている。前に乗ればいいのかな・・・・・・?

「どうした、早く乗れ。」

 ラファと軽く頷きあい、小舟に乗り込む。


 僕らが乗り込んだことを確認し、ジョピンさんがもやいを解く。浮き船が少し浮き上がる。

 ジョピンさんは両手を広げ、羽ばたき始めた。浮き船が進み始める。


 おおーっ! そうやって進むのか!!



 興味津々で見ていたら、ジョピンさんに変な顔をされた。いかんいかん。ここはポーカーフェイスにしとかねば。



 チラチラとこっそり盗み見した結果、いろいろと分かった。


 浮き船の船尾は運転手専用席のようだ。方位磁石が取り付けられており、マップを置くための台もある。

 舵は無いが、方向転換は羽ばたきにより調整するようだ。手漕ぎボートみたいな感じだ。


 この星は大気の流れが弱く風が少ない。そのため、このような推進方法でも十分飛行できるのだろう。

 ガソーシャ人は独力で飛ぶだけの力を無くした分、熱気球の原理で浮力を確保する方法を考え出したということらしい。



「ふぅ、そろそろ交代してくれるか?」

 出発してかれこれ1時間、ジョピンさんもだいぶお疲れのようだ。

「わかりました。」

 僕は小舟の上で立ち上がり、ジョピンさんと交代すべく船尾方向へ移動する。

 船体の真ん中あたりですれ違ったとき、少しバランスを崩し船が揺れた。

「うぁ!」


 僕らは静止する。

「今、何か言いました?」

「いや、俺は何も。」

「私も、何も。」


 小舟の左右には外付けの荷物入れが数個括り付けてある。

 3人の視線は、その1つに注がれる。


 荷物の蓋を開ける。

「・・・・・・。」

 中にはドルコンが納まっていた。


 ゴン! といういい音がする。ジョピンの拳骨がドルコンの頭に落ちた音だ。

「いってぇ! やばい、落ちる! こんな場所で殴るなよ!!」

「なぜついてきた! いつの間に入り込んだ! どうやって抜け出してきた!!」

 ジョピンさんは興奮のあまり、ドルコンの襟首をつかみガクガクと揺さぶっている。


 ジョピンさん、とりあえず落ち着こう。船が転覆する。

 あと、締め上げられては答えられないし、そんなに一気に回答もできないと思う。


 僕はジョピンさんの肩を押さえ、「まあまあ」と落ち着かせる。

 ドルコンはとりあえず解放されたが、ジョピンさんのあまりの激高ぶりに顔を青くしている。


「ジョピンの、言うとおり、なんだ。わ、ワスンが・・・・・、ワスンが心配なんだよ!!」

 ドルコンが正直に白状した。

 ジョピンさんは額に手を当て渋い表情をしている。


「頼む! 俺も連れて行ってくれ!!」

 ドルコンがジョピンさんに土下座している。

「はぁぁぁぁ~、今更戻るわけにもいかないか・・・・・、仕方ない。」

 ジョピンさんは盛大にため息を吐きつつ告げる。その言葉にドルコンは顔を上げる。喜色満面だ。

「恩に着る! 早速俺が操縦するぜ!!」

 ドルコンが操縦席に移動しようとする。が、僕は襟首を掴んで持ち上げる。


「んが! 何すんだてめぇ!」

「お姫様を助けるために急ぐんだろ? なら僕が操縦する。」

 舳先側に座っているラファの前にドルコンを下す。


「お姫様は、王子を、待ってるぜ。」

 ラファがサムズアップしつつドルコンに言った。ドヤ顔だ。ラファなりの激励かな・・・・・・。


 僕は操縦席に座る。さて、急いで向かいますか。

 擬態しているに過ぎない僕らの両腕には、ジョピンさんの両腕みたいな推進力は期待できない。なので、

「重力ドライブON。」

 僕は小声でつぶやく。

『バックパック内重力ドライブ起動します。』


 羽ばたくような振りをし、軽装甲エグゾスーツの重力ドライブで浮き船を加速させる。

「う、うぉぉぉぉぉぉ!!」

 ドルコンが奇声を上げながら小舟の縁にしがみついている。ジョピンさんも驚愕の表情だ。

 このまま一気にルイルージャまで行く!!







「あ、あれは!!」

 ルイルージャがあるという島が見えてきたが、近づくにつれ深刻な事態が判明してきた。


 島中、見える範囲に多数のヴァリアントが闊歩しているのだ。これでは集落は・・・・・・・。ドルコンも絶望の表情だ。



「いや、まだだ!!」

 ジョピンさんが声を上げ、中央部にある山を指す。山は島の中心から槍の様に突き出している。


 ジョピンさんが指したあたりを拡大表示する。山の中腹あたりに洞窟がある。

 洞窟の中には・・・・・・、ガソーシャ人だ! 這い上がってくるヴァリアントを突き落とし、洞窟を死守しているようだ。



「山の洞窟だ! まだ生き残りが居るぞ! でも、どうやってあそこまで行けば・・・・・。」

 ドルコンが力強い声を出すが、途中から勢いが落ちて行った。


「つかまってろ! このまま行く!!」

 重力ドライブを吹かす。少々稼働音が漏れるが、この際仕方なし!!


 重力ドライブで浮力も追加し浮き船の高度を上げ、島をうろつくヴァリアント共の頭の上を通過する。

 下からヴァリアントの叫び声が響く。浮き船に向けて威嚇を行っているようだ。飛行タイプが居ないのが幸いだ。



『対象群を過去判定済みの敵性勢力と断定、銀河連邦管理者からの破壊許可適用。』

 同様に破壊許可が下りたが、まずは洞窟へ!



 浮き船の高度をぐんぐん上げる。山の洞窟目がけ突っ込んでいく。

 洞窟側のガソーシャ人も突っ込んでくる浮き船に気が付いたらしく、奥に逃げ込んでいく。


 浮き船を徐々に横へ傾ける。

「飛べ!!」

 浮き船が洞窟の少し下の斜面に衝突! と同時に、全員が浮き船から飛び出し宙を舞う。

 浮き船の衝突でヴァリアントを1体叩き潰してやった。



 全員そのまま洞窟へと転がり込む。僕とラファは洞窟内にしっかり着地した。

 ジョピンさんは転がりつつも受け身を取った。ドルコンはそのまま壁まで転がった。


 すぐに洞窟の入り口から外を伺う。

 ひしゃげた浮き船はそのまま斜面を滑り落ち、多数のヴァリアントを巻き込みながら山の麓へと消えていった。よし、洞窟近くのヴァリアントは大方巻き込めたようだ。

 横合いから顔を出したヴァリアント1体の横面をひっぱたき、叩き落としておく。



 洞窟内に向き直る。一同が唖然とした表情で僕を見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る