5.上陸阻止

「奴らは必ず北西の岸壁から来るんだ。」

 ジョピンさんと現地に向かいながら"奴ら"の話を聞いていた。



 最初に現れたのは数日前。奴らの1体が岸壁を昇り姿を現した。

 岸壁からあんな化け物が来るとは思わず、集落にかなり接近されるまで気が付かなかった。


 最初に遭遇したのは、森で狩りをしていたグループだった。

 それなりに腕が立つ男衆数名が1人を残して全滅した。残った1人により急報が届き、集落の男手を総動員し迎え撃った。


 何とか罠に嵌め、数回にわたり巨石をぶつけることで退治できた。しかし迎撃に当たった43名のうち約半数が犠牲となった。



 見たことのない化け物の襲来は悲劇だった。しかし、ギリギリだが退治することができた。集落は悲しみに暮れてはいたが同時に安堵も感じていた。

 再び化け物が来ないとは言い切れない。しばらくは北西の岸壁を監視しようと決まった。


 当初はただ、安心を得るため程度の心づもりだった。しかし翌日、再び岸壁を昇ってくる化け物が発見された。

 集落は絶望に包まれた。しかし長の呼びかけにより、男も女も無く全員で迎え撃つこととなった。


 岸壁で待ち構え登ってきた化け物を落す。ただそれだけだ。何度も叩き落とすことで化け物も徐々に弱り、いずれ昇ってこなくなる。



「ここ数日は、それで凌いでこれた。だから、あんたたちも、登ってくる化け物を叩き落としてくれ!」

 アルソリドでもヴァリアントとは戦ったが、光学兵器があればそこまで苦戦する相手ではなかった。

 しかし、ガソーシャ人の武器は石器もしくは鉄器だ。それでも1体撃破しているのは驚異的戦果と言っていいだろう。



 北西の岸壁にたどり着くと、既に10人以上の住民が岸壁の際に立ち、下を覗き込んでいる。

 一部、取り乱している住民も居る、なにやらずいぶん慌てているようだが・・・・・・・。


「どうした!」

 取り乱している住民の1人にジョピンさんが話しかける。

「な、なに!? 3体だと!?」

 ジョピンさんも焦って岸壁から下を覗き込んでいる。


 僕もジョピンさんの横から崖下を覗く。間違いないヴァリアントだ・・・・・・。すごいな、ほぼ垂直の壁を昇ってくるぞ、あいつら。

 3体のヴァリアントが岸壁をよじ登ってくる。そうか、今までは1体しか来なかった奴らが、一気に3体来たので取り乱しているのか。

『対象群を過去判定済みの敵性勢力と断定、銀河連邦管理者からの破壊許可適用。』

 破壊OKだ。


「大丈夫です! いつも通り落とせば3体程度何とかなります!!」

 僕は周りの人達を激励しつつ、一抱えもある石を持ち上げる。

「さぁ!! 石を落として奴らを叩き落としましょう!!」

 僕は奴ら目がけ石を落す。

 他の住民たちも、今気が付いたようにバタバタと動き始め、次々と石を投げ落していく。

 ヴァリアントに石が命中し、よろめいている。


『アイ、ソードサテライト起動。』

『ソードサテライト起動します。』

 フローティングバイクに取り付けておいたソードサテライト4基を起動する。

 周りの人達に見つからないように迂回させ、崖にあるくぼみ、上からだと死角になる位置にソードを待機させる。



 住民が落とした石がヴァリアントに命中し、ついに岸壁から剥がれ落ちていく。

 落下するヴァリアントをソードで貫通する。住民に気付かれないようソードサテライトは最高速で通過させる。


 ヴァリアントの頭部らしき場所、腹部らしき場所など数か所を貫いておいた。たぶん仕留めたろう。



 同様に2体目も叩き落とし、落下の途中にソードで貫く。

 最初の1体は落下したっきり戻ってこない。どうやらうまく止めを刺せているようだ。



 ついに3体目も岸壁から剥がすことに成功した。だいぶ近くまで昇ってこられてしまったが、これで撃退できたな。

 落下して少し距離が離れてからソードで・・・・・。


 3体目の背中が展開する。あれは羽根!? 落下速度が緩まり、再び上昇してくる!!

 一気に舞い上がり岸壁の上に着地した。間近でみると尚更昆虫っぽい羽根だな。



 僕は咄嗟に住民の前に立ちふさがる。ヴァリアントは巨大な前足を振り上げる。これはカマキリみたいだ。


 ヴァリアントの振り上げた前足から、ピンクの刃が発振する。プラズマブレードだと!? まずい、アレは受け止められないぞ!?

 プラズマの鎌が振り下ろされる。多少の負傷は覚悟するしかない!! 僕は両手を突きだす!

 瞬間、ヴァリアントの頭部に人の頭ほどの石が命中する。ヴァリアントが仰け反り、僕の目の前を鎌が通り過ぎる。


 その隙にソードサテライトで胴体を貫く! そのまま後ろ回し蹴りを叩き込む!

 僕の蹴りでヴァリアントの体が宙に舞い、崖下に向け落下していく。

 念のためソードサテライトで念入りに止めを刺しておく。


「危なかった。」

 どうやら背後からラファが石を投げつけてくれたらしい。助かった。


 アルソリドで遭遇したヴァリアントは飛行能力なんて無かった、もちろんプラズマブレードなどもっての他。

 なんか、こいつらパワーアップしてない?




 ソードサテライトが見られたかと思っていたが、気づいた人と気づかなかった人がいたため「見間違い」で押し通しておいた。高速で通過させたから良く見えなかったみたいだ。


 その後、小一時間ほど岸壁で様子を伺ったがヴァリアントは現れなかった。一部監視を残し、僕らは集落へ帰還した。







 集落に戻り、報告を兼ねて再び長のイグールさんと面会した。

「この島から北に行った所にルイルージャという集落がありましてな・・・・、」

 ルイルージャ? たしか、ドルコンがそんな名前を口走っていたっけ。


「化け物がやってくるのは北西、果たして北のルイルージャはどうなっておるのかと言う話になりまして。」

 ヴァリアントは北西から来ている。だが、アルソリドで見た数を考えると襲撃頻度がずいぶんと低い。コアはかなり遠くにありそうだ。

 どの程度の距離にあるのか知らないが、もしかすると北の集落は危ないかもしれない・・・・・。


「実は、既に物見をやったのですが・・・・・・、戻ってきておりません。」

「北の集落も、あの化け物に襲われていると?」

 イグールさんは神妙な表情で頷く。

「ええ、その可能性が高いのではないかと。ただ、現状この集落から何人も人手を出すこともできず・・・・・。」

 初回の襲撃でかなり被害が出たという話だしなぁ、確かに厳しいか。

「お二人にお願いするのはおかしいかもしれませんが、ルイルージャの様子を見に行っていただけんでしょうか。」


 コアの在り処が分かるかもしれないし、こちらとしては渡りに船だ。

「僕は奴らの巣を見つけて潰したい。ルイルージャがより巣に近い可能性があるなら、行ってきましょう。」

 一応、仇を追っているという体裁は繕っておこう。我ながら少々芝居がかりすぎかな・・・・?

「なんと・・・・・。」

 イグールさん、なんか随分と感動しているようだ。や、やりすぎたかな・・・・・。


「わかりました! ならば、道案内をつけましょう!」

「えっ!」

 フローティングバイクで向かうつもりだったけど、道案内が居たらバイクに乗れない。

「いや、大丈夫ですよ! 2人で行けますから!! それに人手が必要な時でしょう!?」

「なに、一人くらいなら大丈夫です。そうだ、ジョピンをつけましょう。あやつならば浮き船の操縦も上手い。」

 人手が足りないんじゃなかったのかよ!!

「浮き船もお貸ししよう。集落で一番速いのを準備させます。」

 もうイグールさんが止まらない・・・・・。



 その後、どんどん準備を進めるイグールさんに押し切られる形で、ジョピンさんと一緒にルイルージャへ行くことが決まってしまった。

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