2.惑星アルソリド

 僕らはソレイユのブリッジに居る。メインモニタには黒と茶色に覆われた惑星が映っている。


 惑星アルソリド、惑星と言うにはやや小柄でいびつだ。重力が安定しておらず、場所によってかなり偏りがあるらしい。

 一応大気層はあるが、重力が不安定であるために常にかき回され激しい気流が発生しているらしい。


 一風変わった惑星だが、最大の特徴は地表近くの風景だ。なんと地表も隆起した山や丘も、全て立方体を積み上げたような様相らしい。

 なぜこのような造形になるのか良くわかっていないようだ。だが、不安定な重力や磁場の影響ではないかと言われている。


 そして、こんな環境でも生物が住んでいる。もちろんのこと、それら生物も皆立方体なんだそうだ。なんだこの惑星。

 さすがに知性体は存在しないらしいが、もしこれで知性体まで居たらレガシの介在を疑う。



『勇介様、外部通信です。お繋ぎしますか?』

 待ち合わせ相手かな?

 そう、惑星アルソリドの周回軌道において待ち合わせ中なのだ。


「おまたせしてしまったかな? 銀河連邦宇宙軍 第三艦隊 第14戦隊 司令官 ジジルア・ガルバルアだ。」

 モニタには色白で綺麗な金髪の男性が映る。かなり美形だな。温厚そうな雰囲気ではあるが、その目はなかなかに鋭い。

 一番の特徴はその耳だろうか。長くとがっている。見た目はまるでファンタジー作品で見かけるエルフのようだ。

「ユウスケ・アマクサです。いえ、僕もつい先ほど、到着したところです。」

 ジジルアさんの制服にある階級章を見る、たしかあれは中佐だったか。かなり偉い人だった。


「それはよかった。銀河連邦管理者からの要請を受諾し、第14戦隊はユウスケ殿のレガシ探索に協力させていただく。武力制圧が必要な場合には、私に攻撃要請をしてくれ。」

「はい、わかりました。よろしくお願いします。」

 結構話しやすそうな人で安心した。


「それで、早速だが、これからどうするのだ? 我々はレガシの探索は経験が無いからな。ユウスケ殿が探索方針を立ててほしい。」

 前言撤回、かなり話の分かる人のようだ。仮にも一軍の指揮官が、ただのレガシハンターの意見で動くと言ってくれている。


 正直、銀河連邦軍との共同作戦と聞いたとき、僕のような外様が指揮に口出ししたら嫌な雰囲気になりそうだなぁと思っていた。

 だから、衝突はしないまでも、友好的な雰囲気にはならないだろうと予想していた。

 しかし蓋を開けてみれば・・・・・。連邦軍の雰囲気ってこんな感じなのかな・・・・?


「飛来したレガシの詳細もまだわかっていません。ですが、この惑星は幸い知性体が居ません。なので状況確認も兼ねて、手分けして捜索をしたいのですが。」

「わかった。では第14戦隊の7隻の艦艇のうち、4隻を降下させ捜索に当たらせよう。残り3隻は周回軌道に残り、予備兵力とする。これでいかがかな?」

「はい、よろしくお願いします。」

 その後、ソレイユ+4隻での調査範囲の割り当てを決める。


「ご存知とは思いますが、この星の原生動物に対しては攻撃が禁止です。ただし、レガシ由来の敵性勢力であれば、破壊も可能となります。何かの敵性勢力発見時には、管理者に判定を依頼してください。」

「わかった。部下にも周知しておく。」

「よろしくお願いします。」

 通信を終了する。ジジルアさんが協力的な人でつくづくよかった。



 それにしても、ジジルア中佐はずいぶん若そうに見えたが、あの若さで中佐とはすごい。

『ジジルア・ガルバルアはカルミーニ人です。カルミーニ人は見た目の特徴もさることながら、長命であり老化の遅い種族としても有名です。データベースの公開情報によると、ジジルア・ガルバルアは128歳とのことです。』

「んな!」

 まじでそんなファンタジーな種族が居たとは宇宙は広いな・・・・・、ん? カルミーニって前にどこかで聞いた気が・・・・・・。

『惑星カルミーニは"天墜の梢"の暴走により崩壊しています。現在、カルミーニ人は様々な星系へ移住し、生活しています。』

 そうだった、以前カルミーニ崩壊で行方不明になった"天墜の梢"の捜索任務を受けたんだった・・・・・。

 もしかして、ジジルア中佐がすごく友好的だったのって、そのあたりの事情が絡んでたり・・・・・・? 考え過ぎかな。



 そういえば、さっきからラファが静かだな。艦長席を振り返る。

 いつもどおりにシロップ多めのアイスティを飲みながら、鷹揚に頷いている。あれは・・・・・、何も考えてないな。

 とりあえず、小難しいことは僕に任せるってことだな、たぶん。



 レーダーの反応では、第14戦隊の艦船も降下準備に入っているようだ。

「アルソリドに降下する。」

『かしこまりました。』

 アルソリドの大気層へ、ソレイユは降下していく。






 情報では知っていたが、アルソリドの地表近くは予想以上に不可思議な空間だった。

 地表から隆起する山や丘は当然立方体を積み上げたような形状なのだが、空中にも多量に立方体が浮いているのだ。

 これもやはり重力が安定しないことが関わっていそうだが、とりあえず理由については触れないでおこう。


 多量の立方体が空中に浮遊しているため、飛行には非常に気を使う。まるで小惑星帯の中を飛んでいるかのようだ。


「ギュァァァァァァァッ!!」

 ソレイユの後方から何かが追跡してくる。まさか・・・・・・・、いや、あれはこの惑星の原生動物だな。

 立方体を何個も繋げた竜のような生き物(?)が追いかけてくる。


 浮いてる立方体をジグザグで回避しながら、竜(?)を引きはがす。

 お、どうやら近くの立方体の影に別の生き物が隠れていたようだ。これも立方体だな・・・・・。

 四角い竜はそれを一口で飲み下し満足気だ。


「この星、不思議過ぎて"不思議"以外の感想が湧いてこない。」

「かわいい。」

「えっ!?」

 急いでラファを見る。顔を逸らしている。まさか飼いたいとか言わないよな・・・・・。



『探査中の他艦船からの情報共有。原生動物以外の生物と遭遇。管理者の判定により撃破しています。』

 お、早速遭遇情報が来たか。

『連続で数件、交戦情報が共有されています・・・・・・・、接近警報!』

「キシャァァァァァァァッ!!!」

 さっきと鳴き声が違う。別の生き物だな。

 メインモニタに拡大映像が映る。先ほどとは著しく形状の異なる生物が地表を駆けてくる。この星の生物ではなさそうだ。

 刺々しく長い脚が6本、全体的に昆虫的なフォルムをしている生物だ。金属光沢を持つ物質で全身が構成されているらしく、銀色一色だ。


 昆虫的な生物は飛び上がり空中に浮く立方体に着地、そのまま次々と空中の立方体を飛び移りながらソレイユに接近してくる。

「シールド!」

 フライングシールドを展開、昆虫的な生物がソレイユに飛びかかろうとしたところをシールドで防ぐ。

 カァン! と小気味良い音を立てシールドに衝突した昆虫が落下していく。

『対象からの敵性行動を確認、対象を敵性勢力と断定、銀河連邦管理者へ攻撃許可要請・・・・・要請承認、破壊許可。』

 お、いきなり破壊が許可された。


 昆虫的な生物は再び飛び上がってくる。今度はレーザーで迎撃。体に何個も穴をあけ墜落していく。

 それ以上は動かないようだ。よかった、高速回復などの能力は無いようだ。


「あいつは、7時半の方向から来たな。そっちへ行ってみるか。」

『かしこまりました。』

 昆虫的な生物がやってきた方向へ向かってみることにした。



 進んでいくと、その後にも数度昆虫的な生物に遭遇した。徐々に遭遇間隔が縮まり、遭遇する数も増えてきた。

 この星の原生動物が襲われているところも目撃した。惑星イノマスは壊滅したというし、この星も今まさに食い荒らされている最中のようだ。

 早めになんとかしたほうが良さそうだ。



 敵に飛行するタイプが居ないため相手にするのは楽だが、それにしても数が多い。

 あれから更に敵は増え、今はレーダーに20ほどの反応がある。

「こっちが当たりかな・・・・・。」


『他の調査中艦船との情報共有。』

 メインモニタに惑星のマップが表示される。

『当艦含め全艦艇の進行状況から、敵中心地の位置が推測できました。』

 惑星マップの5つの点から線が伸び、1か所で集合する。


『おそらくはこの地点に敵の中心となる何かが存在すると予想されます。』

 何が居るのか不明だが、キーとなる何かは居るのだろう。





 一言で表すなら巨大な花のつぼみだろうか。

 金属光沢を持つ銀色の花びらで覆われたつぼみが屹立している。直径200mはあるだろうか。ソレイユよりも大きい。

 そして、そのつぼみの周囲から昆虫的な生物が生み出されている。どうやらあの巨大つぼみが中心とみていいようだ。


 第14戦隊の艦船2隻は、既に巨大つぼみと戦闘中だ。一番乗りできなかったか。

『対象を同様の敵性勢力と断定、銀河連邦管理者からの破壊許可適用。』

 現存する兵器ではレガシを破壊することはできない。なので、もし巨大つぼみの中にレガシが在ったとして、あれを破壊してもレガシは壊れない。

 ということでとりあえず破壊して、それからレガシをゆっくり探しましょう。


 残り2隻もこちらに向かっているようだし、撃破には時間はかからないだろう。

 ソレイユも参戦すべく、巨大つぼみに向け接近していく。



 突然、巨大つぼみが花開き大輪の花を咲かせる。中心には一回り小柄な卵のような物がある。これも銀色一色だ。

 巨大卵は下部から白い蒸気を吹き出し始めた。

 次の瞬間、巨大卵の下からまばゆい光があふれ大量の蒸気が噴き出す。そして巨大卵が少しずつ持ち上がっていく。

 花びらを残し、巨大卵は瞬く間に上昇してく。まるでロケットの打ち上げのように・・・・・。

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