6章 白銀の侵略者
1.リフレッシュ休暇
「勇介君、もう放課後だよ! いいかげん、起きなよ!」
「んぁ?」
教室にはまばらに人が残っているが、一様に帰り支度をしている。
いつの間にやら、授業もホームルームも終わったらしい。
「そんなに寝てばっかりだと、成績が下がるよ? 幼馴染として心配だよ!」
目の前の女子生徒は、楽しげにそんなことを述べてくる。
「あー、そうっすね、アイさん、ありがとうございます。」
「それはそうと、帰りにカフェ寄ってかない? 期間限定商品があるんだぁー。」
女子生徒は僕の発言など無かったかのように続ける。
「留学生のラファちゃんも誘ってさぁ!」
「いいっすね、アイさん。ラファもどう?」
「ん、いく。」
突然だが、うちの学校はブレザーだ。
茶色に近い金髪で、顔立ちも欧米風なラファのブレザー制服姿・・・・・・・・・・、うん、いい。
「ちょっと、勇介君? 私の時と反応違いすぎない? 顔緩み過ぎ。」
「いいんだよ、可愛いんだから。」
「ん、これぞ愛。」
少し頬を染めたラファもいい。
「へぇへぇ、ごちそう様。早くしないと、先行っちゃうよ!」
「あ、アイさん、少々お待ちを。」
「・・・・・、いい加減、ロールプレイに付き合ってください。」
女子生徒の声色が急激に冷え込む。やばい、アイさん怒らせた。
「わるかった、すぐ行くって。」
ロスタコンカスでの「一か月紛争」終結後、管理者から休暇をもらった僕たちは、ジアースへ戻った。
僕も現実のジアースはあまり見て回っていなかったので、Rimに案内してもらいつつ現実のジアース観光をした。
その後、僕の育った環境を見てもらう意味でも、一時的に仮想世界での高校生活を満喫していた。
ラファは、僕の家にホームステイ中の留学生「ラファ・アルジール」という設定で、一緒に学校に通っている。
そして、なぜかアイさんは近所の幼馴染「中見愛」として、シレっと混じってきていた。
「なかなかいいね、この"抹茶クリームかぼちゃ小豆キャラメルペペロンチーノ"!!」
「いや、誰の趣味だよ、それ。まさかRim!?」
「ん、悪くない。甘みと辛みの絡みが。」
「だめだ、二人に付いていけない・・・・・。」
二人は奇天烈なスパゲッティを賞味している。
「明日には、外に戻らないとな・・・・・。」
「うん。」
「そうね。」
ラファとアイさんも食べつつ返事を返してくれる。
食べる姿はあまり見ないようにしよう。僕にはその光景は衝撃的過ぎる。
「なんか、僕の里帰りに付き合わせたみたいになったけど、ラファはリフレッシュできた?」
「うん、こんな暮らし、したことなかったから、とっても、楽しかった・・・。また、来たい。」
気に入ってもらえたならよかった。
「よぉし! 最後のカラオケいこー! 歌いまくるぞー!!」
アイさん、中ではいつもテンション高めですね。
カプセルのハッチが開く。真っ白な部屋が少し目に眩しい。
「やあ、おはよう。」
「おはようございます。」
Rimが目の前に居た。いつも通りの半透明姿だ。ここはジアース連邦中央管理棟の一室だ。
「あのスパゲッティは無いです。」
「あはは、ジョークアイテムのつもりだったんだけどね。まさか気に入る人がいるとは・・・・・。」
『味のバランスが絶妙に調整されていました。』
あぁ、そうですか。
僕はカプセルから身を起こし、少し体を伸ばす。
「どうだい? 休暇は楽しめたかい?」
「ええ、おかげさまで。」
ロスタコンカスでの戦いで、僕は思った以上に気持ちが荒んでいたようだった。
今なら仮想世界に戻る人達の気持ちが分かる気がする。あの環境はなんだか安心感がある。
「目覚めたら連絡してほしいと管理者から言伝をもらっているけど、大丈夫かい?」
「ええ、大丈夫ですよ。ラファも大丈夫?」
「うーん、あと5分ー。」
ラファもだいぶ感化されてるな。
「だいぶリフレッシュできたようですね。」
通信室にて管理者と対面している。
「僕、そんなに危なげでした?」
「ええ、かなり表情は険しくなっていました。が、十分に休めたようで何よりです。」
管理者にもだいぶ心配かけてしまったみたいだ。なぜかラファがブンブンと音がしそうなくらい頷いている。
「す、すみません、ありがとうございます。」
「勇介は成績優秀なレガシハンターです。心と体のメンテナンスはしっかりしてくださいね。」
か、管理者に褒められた上に、労われただと!?
「驚愕が表情に出ていますよ・・・・・。」
こ、氷のような表情だ・・・・・。管理者も怒りが表情に出ていますよ・・・・・。
「冗談はこのくらいにしておいて、」
冗談!? そうは見えなかった・・・・・、(チラリ)いえ、なんでもないです。
「早速ですが、任務です。惑星イノマスが壊滅しました。」
うぁ、いきなり重そうな話だ・・・・・・。
「惑星イノマス、ですか?」
『惑星イノマス、非知性体のみが生息する惑星です。この惑星の生命体は、我々の基準からするといずれもかなり大型であることが特徴です。』
アイさん解説ありがとう。巨大な生物が生息する惑星か・・・・。
「続けていいですか?」
「あ、はい、すみません、大丈夫です。」
「惑星イノマスに生息した生命はことごとく死滅し、地上、大気などの環境も完全に破壊されました。今や死の星です。」
根こそぎ殲滅ということか、徹底しているな。
「知性体の存在しない惑星には、環境保全を目的とした監視衛星が配備されています。惑星イノマスにも衛星があり、壊滅する数日前にこのような映像を記録しました。」
管理者が映像を表示する。宇宙が映っている。特に何もないような・・・。
「わかりづらいですね。拡大しましょう。」
宇宙空間を映す映像の一部を拡大する。画質が荒いが、人が浮いている。黒い人?
「ここは監視衛星と同じ高度、つまり周回軌道です。そこに人影がありました。さらに、この人影、勇介とアイから報告のあった"プロト"と90%以上で一致します。」
「プロトが!?」
「はい、恐らくは今回の件に関わっていると考えられます。」
バキッという何かが潰れる音が鳴る。
「プロト、今度会ったら、私が斬る。」
ラファが、怒りでドリンクを握りつぶしている。いや、レガシハンターは許可が無いと斬れないからね・・・・・。
「惑星イノマス壊滅後、惑星から飛び去る影が確認されています。」
映像が切り替わる。白銀の卵のような物が飛んでいく映像だ。複数個ある。
「全部で5つですか?」
「はい、行き先をトレースしていましたが、2つについてはロストしています。しかし3つは行き先がわかっています。」
惑星イノマスを中心とした銀河星系マップに切り替わる。
イノマスから3つの線が伸び、3か所の惑星に刺さる。
「おそらくこれらの惑星では、惑星壊滅に追い込むような事態が発生していると予測されます。このうちの1か所、"惑星アルソリド"へと赴き、原因となるレガシを探索するのが任務です。」
「他の2か所は?」
「同時に別のレガシハンターに依頼します。」
確かに、順番に回っている時間の余裕はなさそうだ。
「なお、任務にあたり銀河連邦軍の1個大隊を付けます。惑星を壊滅させる何かの勢力に対しては連邦軍が武力制圧を行います。」
「戦いは連邦軍に任せ、僕たちはレガシ探索が主任務、ということですね。」
「はい。」
それほどに危険な敵が居る可能性が高いってことか・・・・・・。
「これらは全てダミーなのか、それともレガシ本体が存在するのか、それはわかりません。しかし放置しては被害が広がる一方です。迅速な任務達成を期待します。」
「わかりました。早速、惑星アルソリドへ向かいます。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます