10.開戦を告げる閃光

 プラント攻略に向け、その手前10万kmほどの位置で艦隊を再編成中だ。

 彼らが囮となってくれたおかげで、主力艦隊は損害無くここまでたどり着いた。


「ゴーシュ少将、ソレイユが合流したとの連絡が入りました。」

「そうか、ほぼ予定通りのタイミングだな。」

 信用していなかったわけではないが、囮の過程で撃墜されてしまうのでは? という懸念はあった。

 だが、しっかり合流してきた。驚異的戦果だ。


「それゆえに恐ろしいがな・・・・・・。」

 今は彼らが友軍である幸運を喜んでおこう。



「艦隊の編成状況は?」

「8割ほどです。予定誤差ありません。」

「ソレイユは中央下部に編成させろ。遊撃として動いてもらおう。」

 こき使うようだが、せっかくの戦力だ。有効活用させていただこう。



 今のところ作戦は順調だ。だが、本番はここからだ。

「よし、作戦第二段階は予定通り、二○三○に・・・・・、」


 突然の輝き。ブリッジの全モニタが白一色に染まる。あらゆる警報が鳴り響く。

「なんだ、何が起きた!!」


 その声に応える者はおらず、ブリッジは丸ごと閃光に塗りつぶされた。



====================



「発射完了。システムの冷却を開始します。」

 この"ファクトリー"を攻めようなどと、無謀なことを。

 しかし、この"ファクトリー"の重要性に気付かれたとなると、そろそろ手を引く頃合いか。


「敵の被害は?」

「敵艦艇の48%が消滅。」

 さすがに全滅まではいかなかったか。


「第二射まではどのくらいだ?」

「冷却と再充電に約1時間です。」

 ふむ、さすがに敵もあの場所で1時間待つことはしないだろう。


「小惑星群に潜伏している全艦艇に攻撃要請。"ファクトリー"からもクローンスーツ隊を200出せ。敵の残存を殲滅しろ。」

 あの敵を食い破り、ロスタコンカス星系から脱出させていただこう。

 "独行の技師"さえあれば、別の場所でも商売はできるからな・・・・・。


「ドニスガル様、シャルト少佐が出撃許可を求めています。」

 試作品の"テスト"に使ったパイロットか。

「好きにさせろ。」

 被検体としての役割は終わった。後は本人の好きにしたらいい。



====================



 ブリッジのメインモニタには、編成中のロスタコンカス軍主力艦隊が映っている。

『集合地点まで残り1000kmです。』

 よかった、ちゃんと集結時間には間に合いそうだ。


 ちなみに、艦長席にはラファが座り、シロップ多めのアイスティを飲んでいる。そのため僕は操舵席に着席している。

 いいんだよ、僕は愛妻家なの!



『艦隊司令より連絡。艦隊布陣の中央下部へ編成せよとのことです。』

 見渡しの良い場所へ誘導された。縦横無尽に動き回れということだろうか・・・・。


 その時、モニタに映る主力艦隊群を白い閃光が射抜く。

「なっ! あれは!!」


 僅かな時間で閃光は消えた。しかし、閃光が過ぎ去ったあとには何も残っていなかった。

「しゅ、主力艦隊が・・・・。」

 おそらく艦隊の約半数が今の閃光で消えた!


『発射点確認・・・・・・、発射点はプラントと考えられます。』

「あれはまさか、あの時の!?」

『恐ろしく高出力のレーザー兵器と推測されます。アステロイドベルトにてソレイユが被弾した兵器と同等と推定。ただし、威力は比較になりません。』

 確かにあの時のレーザー兵器は、これほどの広範囲を焼き払うほどの規模ではなかった。照射範囲が段違いだ。



「艦隊の指揮はどうなっている!?」

『・・・・・・・・・、ダメです。艦隊旗艦が轟沈。現在は通信状況も混乱しています。』

 見事に中枢部分を撃ち抜かれたようだ。状況の復旧にはしばらく時間がかかりそうだ。 


『敵艦艇確認、小惑星帯から多数出現。さらにプラントからエグゾスーツ多数発進!』

「やはりこの隙を見逃してはくれないな。ラファ! 出るよ!!」

「あいあいさー」

 ラファはドリンクを艦長席のホルダにセットし、すぐに立ち上がる。




 僕らは早々にハーキュリーズとドレッドノートアトモストで出撃した。

「敵は既に部隊を展開してきている! 貴殿らは中央の無事な艦艇と共に、敵の侵攻を押えてくれ!」

「わかりました。」

 混乱中ではあるが、一部の艦は独自に迎撃を取りつつある。そんな1隻から迎撃依頼の通信が来た。


 とりあえず、ガルロマーズが艦艇やエグゾスーツを多数展開してきていることから、先ほどのレーザー攻撃の二射目は無いと考えていいだろう。

 なので、まずは敵の侵攻を食い止め、ロスタコンカス軍の建て直しを図る必要があるだろう。

 


 僕らの前方には20ほどのガルロマーズ艦艇が展開している。立体的三日月陣と言えばいいだろうか、すり鉢状に中央がやや後方になる状態で前進してくる。

 さらにその後方には数百のエグゾスーツが控えている。

「これを食い止めて、時間を稼げって?」



「私が、先に行って、船を落すよ、なので、だーりんはスーツを、お願いね。」

 指示系統が乱れている現状では、ロスタコンカス軍との連携も期待できないだろう。となると、結局そんな感じになってしまうな。

「わかった。」

 僕はとりあえず返事をした。試行錯誤を繰り返されている"僕の呼び名"については触れないでおく。


 僕の返事を聞くや否やラファのハーキュリーズは加速、あっという間にその姿は小さくなっていく。

 シールド10枚をラファに追従させてつつ、僕自身もラファの後を追う。




 ラファは三日月陣のすり鉢中心部へと飛び込んでいく。当然周囲から一斉砲火の的になるが、ことごとく華麗に躱していく。

 稀に肩にある"重力場電磁防壁"を起動するが、それも数えるほどだ。僕が追従させたシールドの出番がない。



 ラファのハーキュリーズは、僕のドレッドノートとほぼ同じ装備だが2点だけ違いがある。

 一つは、ラファ専用の大型剣「フォースロードセイバー」を装備していることと、もう一つはフライングシールドが無いこと。

 どうやらラファは浮遊系遠隔装備の操作に関する能力が絶望的なほどゼロらしい。

 サポートAIに操作してもらえば多少の防御ぐらいできそうなのだが、なぜかサポートAIでの操作すらできないらしい。


 ちなみに、ラファのサポートAIは僕のアイと同期しており、ラファもアイがサポートしてくれている。




 ガルロマーズは艦艇陣形の隙間を埋めるように戦闘機を飛ばしている。が、それらも含めてラファにかく乱され、撃墜されていく。

 三日月陣の中央部でラファが暴れまわり、陣形が乱れた。


「ここは任せた!」

「まかされた。」

 暴れまわるラファの横を抜け、三日月陣を突破する。目の前はエグゾスーツの大部隊だ。


 ソードサテライト20基全展開、全砲門展開、視界に次々とロックオンサイトが浮かぶ。

「よし、いくぞ!」


 ソードサテライト全基散開、フライングシールドも散開、各砲門から一斉射を吐き出しつつ敵スーツの大部隊へと突撃する。

 速度を上げて真正面から突撃! 敵機は正面からの突撃に怯んだ。その隙を突き、すれ違い様に数機のエグゾスーツを落とす。

 接近した敵機を落としつつ、大部隊の中を突き進む!


 背後から接近してくるエグゾスーツはソードサテライトにより十字に刻まれ四散する。


 左右の敵機が同時に射撃してくる。機体内にアラートが響く。体をねじり、ロール機動をとりつつ射線から体をそらす。同時にソードサテライトで左右の敵を両断する。

 再び背後、いや、前からも、右、左、上、下、あらゆる方向から一気に敵が殺到する。


 一気に加速! 前方の敵に肉薄する。スーツ越しでも驚愕しているのがわかるほどの距離。既に右手のブレードは敵機を貫いている。

 刺し貫いたまま回転、ブレードを引き抜きつつ蹴り飛ばし、背後からの攻撃の盾にする。


 距離を取りつつ射撃。接近してくる敵を足止めし、ソードサテライトで順に切り刻む。



 エグゾスーツの群れの中を縫うように飛び回り、目に付いた敵機を撃墜していく。

 敵兵の錬度が低いのか、敵の圧力が弱い。パロユーロを包囲していた敵の方がまだマシに感じる。




 視界の隅、敵機の隙間を赤い何かが通過する。

 意識を向けても何もない。気のせい?


 視線を動かすと、赤い大型エグゾスーツが急接近していた!


「見つけたぞ!!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る