7.パロユーロ突入

 場所がアステロイドベルトであったことが幸か不幸か。

 偶然衝突した小惑星にそのまま取りつき、エンジンを停止して身を隠した。

 レーザーの光が目くらましにもなってくれたようで、敵はこちらを見失ったようだ。


 ソレイユの被害状態はかなりひどい。

 2基の推進用重力ドライブのうち1基は大破したため切り離してしまった。もう1基もかなり調子が悪い。せっかく南極基地で直したのに。


 さらに、3基あるジェネレータの1基がこれまた大破。爆発を起こしたため船体にも大穴が開いている。2基はそれなりに動いているが、どちらもご機嫌斜めだ。

 超高出力レーザーの直撃を受けた船体下部は貨物室だった。航行への影響は少ないが、食料品や水、修理部品などの備品の多くを失ってしまった。


 さらに悪いことに、貨物室には封印用ボックスに入れた"回帰のらせん"も積んでいたが、それも流出してしまった。

 今からあの宙域に戻ることもできない。現時点では回収は絶望的だ。なんのためにロスタコンカスまで来たのか・・・・・・・。



「以上が、現在の状況です。」

 被害状況などの報告を兼ね、大統領に現状を説明した。

「そうか、いろいろと苦労を掛けて申し訳ない。」

「いえ、こちらこそ、軍の方々が身を挺して逃げ道を作っていただいたおかげです。」

「うむ。彼らとその遺族には、できる限りの補償をしよう・・・。」

 彼らのためにも、大統領を無事送り届けないとな・・・・。


「この先、敵の目を掻い潜るために、少しずつ小惑星を移動させて距離を取り、安全圏まで行ってから離陸します。」

 今飛び立つと、敵の監視に引っかかる可能性がある。地味だが、小惑星に張り付いたまま移動するのが安全だ。

「その後、パロユーロへ向かいますが、エンジンも不調なため数日はかかる見込みです。さらに、先ほどの戦闘でかなり物資を失ってしまったので、食事や水は最低限しかご用意できない状態です。」

「この状況だ、生きて辿り着けるだけでもありがたい。よろしく頼む。」




「今回は少々無理をさせ過ぎたな、いつぶっ壊れてもおかしくない状況だ。」

 ジェネレータルームでシステムチェック中のサイトウさんは、そうつぶやいた。

「何とか持ち直せませんか・・・・?」

「やっては見るが・・・・・、物資もない、設備もない、ではやれることは限られるわなぁ。」

 そもそもジェネレータの備品なんてそんなに持ってきていないしなぁ。毎度毎度、サイトウさんには無理難題をお願いすることになってしまう。

「すみません。」

「い、いや、ユウ坊が気に病むこたぁねぇよ。まあ、やれるだけやってみるからよ。」

「ええ、お願いします。」

 なんとか、やれることをやるしかない。




 ジリジリと小惑星を移動させ丸1日ほどたった頃、ソレイユを離陸させた。

 ジェネレータは相変わらずご機嫌最悪で、出力が一向に上がらない。ドライブは1基しかないため、加速も遅い。


 幸い、追手がかかることもなく、また、哨戒部隊に遭遇するなどという出来事も無く、ユピテルガザを目視できる距離まで来ることができた。

 ただ、万全なソレイユなら1日で辿りついただろう行程を、2日以上かかってしまった。



『閃光確認。おそらくパロユーロ基地においてガルロマーズと交戦している戦闘光と予想されます。』

 やはりここも戦場になっていた。念のためナリアさんに聞いてみたが、「今回は連絡方法がありません。」と言われてしまった。南極基地の時みたいにはいかないか。


『パロユーロの周回軌道以下まで接近できれば、恐らく基地との交信も可能です。』

「なら、突破して降下するしかないか。アイ、操艦を頼む。僕は外で盾をする。」

『かしこまりました。』

 出撃のために席を立ったところで、ブリッジの扉が開いた。

「砲台なら我々が出よう。」

 ガーランド中尉たちが狙ったようにブリッジへ顔を出す。

「すみません、お願いできますか?」

 僕が恐縮しつつお願いすると、ガーランド中尉は僕の肩を叩きながら答えた。

「俺たちは護衛隊だ。何を遠慮することがある? 大統領を護るために戦うのが仕事だ。ユウスケ殿が気にすることは無い。」

 僕の中で、まだマーシャル中佐達の犠牲を消化しきれていない。そんな僕の内心に気が付いたのだろう。ガーランド中尉は励ますようにそう言った。


「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。」

 ガーランド中尉は気前よく「任せろ」と言いつつ、ブリッジを出ていく。僕も後に付いて格納庫へ向かった。



 ガーランド中尉たち4人はソレイユの艦上に取りついた。僕も防衛型スーツで出る。すぐにフライングシールド30枚を展開した。

「アイ、適宜、重力場電磁防壁を展開してくれ。ただし、速力維持が優先だ。この際多少の被弾は仕方ない・・・・。」

『かしこまりました。』


 パロユーロに近づくにつれ、より状況が明らかになっていく。

 パロユーロには大気層がなく地表は水と氷に覆われている。ロスタコンカス軍は星の内部に設備を張り巡らし、基地化、要塞化しているらしい。


 パロユーロの周回軌道はガルロマーズ艦艇でひしめき合い、次々と攻撃のために降下していっている。

 だが、パロユーロ基地側もただ攻められているわけではない。

 星のあちこちに大がかりな対空防御設備があるらしく、降下したガルロマーズ艦艇を次々と迎撃している。



 そんな砲煙弾雨の中、ソレイユはパロユーロに接近、ガルロマーズ艦艇に紛れるように降下していく。

 早くもというべきか、やはりというべきか、ガルロマーズ艦艇からの砲撃が降ってくる。フライングシールドで防ぐ。

『対象群からの攻撃行為を確認、対象を敵性勢力と断定、サポートAIによる代理承認、制圧許可。』


 まだ高度はかなり高い状況だが、ガルロマーズ艦艇が周囲を囲むように展開してくる。

「無理に落とそうとしなくていい! 敵を近づけさせないように牽制を優先しろ!!」

 ガーランド中尉の檄が飛ぶ。


「右舷、艦艇から狙われているぞ、牽制しろ!!」

「中尉! 後方からも敵が!!」

「ドーゼ、お前は無理をするな! 狙える敵から狙え!!」


 ソレイユの高度を落としていく、そろそろ基地との交信もできるはずだが・・・・・。

『パロユーロ基地からの誘導情報受信。宇宙船ドッグ入口まであと10分。』

「基地と連絡できました! 10分で基地入口までたどり着きます!!」

 10分耐えればいい。声には出さないが、その思いは全員が共有した。


「アイ、できるだけ高度を落とせ! 今のままでは、上下前後左右の全方向から狙われる!」

『かしこまりました。』

 艦上のメンバーを振り落さない程度に蛇行しつつ、ソレイユは高度を下げていく。

「すまんユウ坊! これ以上はジェネレータの出力が上げられん! いつ火を噴いてもおかしくない状態だ!」

 サイトウさんから悲鳴に近いような通信が届く。

 その間にも、後方から戦闘機3機がしつこく追ってくる。上空は敵ケインズ級2隻に押さえられている。

 振り切ろうにも振り切れるだけの速度が出ない。

「サイトウさん、できるだけ、なんとかお願いします!!」

 言いたくはないが、この状況では精神論のようなお願いしかできない。



 絶え間ない砲撃銃撃が殺到する。フライングシールドが次々と破壊されていく。残りはもう10枚だ・・・・・・。


『進行方向! 新手です!!』

「見つけたぞ!」

 ソレイユ船首が巨大な人型に衝突し、船全体が激しく揺れる。

 あれは、大型エグゾスーツ!? 肩が赤い・・・・・、くそっ、また奴か!!


「私は運がいいようだ。こんなところで再びまみえるとはな。」

『対象を同様の敵性勢力と断定、制圧許可適用。』

「アイ、ドレッドノート射出!!」

『かしこまりました。』


「こいつは僕が押さえます、ソレイユをお願いします!!」

 ガーランド中尉にそう言い残し、僕は大型赤スーツに体当たりする。

「うおぉぉぉぉぉ!!」

 SDモードを起動、大型赤スーツをソレイユから強引に引きはがす。


 ソレイユの格納庫が展開、ドレッドノートが射出される。ドッキングブースへ転がり込むようにに飛び込む。リンク接続!

『ドレッドノート起動しました。』

 大型赤スーツが腰のガトリングを掃射してくる。フライングシールドで防御。背後がソレイユではうっかり回避できない。

 肩に搭載されている発生装置から重力場電磁防壁を展開、大型赤スーツにまっすぐ突撃する。

 大型赤スーツは後退しつつ、砲撃とガトリングを撃ち放ってくる。続けて防壁で防ぐ。防壁は展開限界で消滅する。


『ソレイユ側面から大型ミサイル多数接近!!』

「防壁は!?」

『ジェネレータが限界です。防壁展開できません。』

 僕はドレッドノートの防壁を再展開し、ミサイルの前に立ちはだかる。防壁に大型ミサイルが着弾、巨大な爆炎が広がる。

 ミサイルが1基抜けていく。

「しまった!」

 格納庫部分に着弾、ソレイユが大きく傾く。

 ドレッドノートも激しく揺られる! 左肩にアラート。

「よそ見とはつれないな。」

 背後から、大型赤スーツの超振動ブレードが左肩を穿っていた。

 右裏拳を放つ! だが、肩のシールドで防がれ距離を取られる。その流れで砲撃される。躱しきれず着弾、ドレッドノートの各部位にアラートが灯る。


「ユウ!!」

 ドーゼの声!?

 ソレイユを再度確認する、上方から敵ケインズ級がどんどん接近している。体当たりで止めるつもりか!!

 大型赤スーツが接近しつつ、ガトリングを撃ちこんでくる。フライングシールドで防御。

 くっ!! ソレイユが!!


 そこへ、一気のエグゾスーツが飛び込んでくる。

「ガーランド中尉!?」

「ソレイユを護れ! シャルトは止めておく!!」

 ケインズ級がソレイユに接触する、艦上にいたバーリゴル少尉、モント軍曹、ドーゼが投げ出されている。

 ソレイユが地面に押し付けられる、ガリガリと氷の地表を削っていく。


 敵ケインズ級に接近、船首やや下に体当たりする。

「SDモード!!」

 重力ドライブを全力稼働。ケインズ級を押し上げる。ドレッドノートの全身からアラートが上がる。左手はもげそうだ。


 ソレイユが再浮上する、しかし、加速できていない。もうドライブが限界か・・・・。



『新たな機影接近!!』

 なっ!!


『識別信号、ロスタコンカス軍です!』


 ドレッドノートが持ち上げていた敵ケインズ級に、連続でミサイルが着弾する。数機の戦闘機が交差するように通過していく。

《こちら、ディフェンスリーダー、ここは任せて早く基地へ!》

「助かる!」


 ソレイユは既に浮いているだけで限界の状態だ。

「全員、艦上へ!!」

 バーリゴル少尉、ドーゼが艦上に飛び乗る。ガーランド中尉は・・・・、モント軍曹が担いでいる?


 全員が飛び乗ったのを確認し、ソレイユの後ろからドレッドノートで押す!

 既に前方に宇宙船ドッグが見えている。

『SDモード、終了まであと10秒。』

 ソレイユの高度がどんどん下がっている。


「ぐっ、ユウ坊、すまん・・・、ガガッ」

 ノイズ混じりのサイトウさんの通信に続き、爆発音が聞こえてくる。

「さ、サイトウさん!?」


『ソレイユ、ジェネレータ停止、ドライブ停止、浮上システム停止、落下します。』

「くっ!!」

 ソレイユが落下を始める。ドレッドノートで強引に押す!

 ドレッドノートの左肩がもげて落ちた。船体に胸を当て、強引に押していく。

『SDモード、残り、5、4、3、』

 宇宙船ドッグまであと少し!!

『2、1、SDモード終了。』

 ドレッドノートの出力が落ちる、辛うじてソレイユは宇宙船ドッグのゲートを通過、ドッグ内に落着、そのまま床を削りながら滑っていく。


「もってくれよ!!」

 滑っていくソレイユの前に回り込み、ドレッドノートでソレイユを受け止める!!

 両ひざの関節部がアラートを上げると同時にねじ切れ破壊される。両ひざ下が無いままブレーキをかけ続ける。両ひざが床を削り、火花を散らしながら滑っていく。


 20mほど滑り、横倒しの状態でソレイユは停止した。



 併せるようにドレッドノートも停止した。ドッキングブースのハッチを蹴破り、外に這い出る。上になってしまったソレイユのハッチをこじ開け、中に入った。


 ジェネレータが停止しているため、船内は真っ暗だ。ダイニングルームの扉を力任せにこじ開けると、中はぎっしり詰まっていた。

「ああ、よかった、無事みたいですね。」

「・・・・・・・・、無事なんだが・・・・、早く、助けてくれ。」

 ダイニングルーム内には大統領と側近の面々が衝撃吸収材でぎっしり詰まっていた。



====================



「ふーんふ、ふふふふーん♪」

 水鏡を覗き込む。まばゆい光に焼かれる艦船が映っている。船底に穴が開き、多くの積荷が宇宙空間に漂う。

 その中の一つ。厳重に施錠された箱が破損し、中身が漂い出てくる・・・・。円盤だ。渦巻き模様の書かれた円盤が宇宙に放り出された。


 俺は水鏡を閉じ、船の外を見る。水鏡に映っていた箱と・・・・、そして円盤が漂っている。


 俺は漂っている円盤を手に取ると、船のハッチを閉める。

「そんじゃ、帰りますかね。」

 俺は再び水鏡を開く。

「進路上の障害物はー・・・・っと」

 水鏡で超光速ドライブ航路上の進路確認を行う。水鏡があれば、重力波妨害されてようが関係ない。


「よっと。」

 船は一気に加速し、ロスタコンカス星系を脱出した。

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