6.アステロイドベルト

 俺は"ファクトリー"のコントロールルームで資源の収集状況を確認する。

「アステロイドベルトに転がっている石ころを集め回るだけでは、レアメタルはほぼ収集できんな。」

 やはり、"惑星"を採取せねば足りないか。


 コントロールルームの隅、闇が深まる。その途端、部屋全体に覆うような圧迫感が広がる。

 俺は軽く深呼吸をし、"圧迫感を感じている"ということを相手に悟らせないように声をかける。

「お久しぶりですね。プロト様。」

「ああ、久しいのぅ。」


 部屋の隅、闇の中から、真っ黒な女が現れる。

 黒髪の直毛はあまりにも真っ直ぐだ。光沢もなく、まさしく漆黒だ。

 真っ黒な長袖ワンピースを纏い、黒い手袋、黒いタイツまで身に着けている。

 唯一黒以外である顔は対照的に白く、整った顔立ちも相まって、神々しさすら感じさせる。


「ご要望の品、手に入れておきました。」


 保管庫の扉を開き、中に保管されている品の中から1つを持ち出す。

 水で満たされた瓶、その中には白銀に輝く卵が入っている。


 プロトの元まで近づき瓶を渡す。近くで見るプロトは更に美しさが際立つ。思わず息を飲みそうになるところをぐっとこらえる。

「おお、これが"白銀の侵略者"か。約束の品、確かに受け取った・・・・・・ん?」

 プロトが窓の外、広がる星の海に視線を移す。

「客人のようだ。」


 内部通信を知らせるアラームが鳴る。

「失礼。」

 プロトに断りを入れ、通信を開く。

「なんだ。」

「ドニスガル様、接近する艦隊があります。」

 艦隊だと? このあたりはロ軍もガ軍も展開していないはず。だからこそ、ここで資源採掘を行っていたのだ。

「どこの艦隊だ?」

「識別はロスタコンカス軍です。艦艇5内 ケインズ級4 不明1です。」

 それほどの大艦隊ではないか。既に相手にも気付かれているだろう。ならば、消えてもらおう。


 部屋の隅を見やると、そこには既に闇は無くなっていた。どこからともなく、プロトの声が響く。


「うふふふ、客人のおもてなしに忙しいようだのぅ。此方は離れて見ておるとしようか・・・・・。」



====================



「気づかれてると思う?」

『既にレーダーで確認できる距離です。おそらくは向こうも既に補足しているものと予想します。』

 迂闊だった。ガルロマーズから一番遠い航路ということで、油断があったのかもしれない。こんな場所で所属不明部隊と遭遇するとは。

 いや、しかし、直径100km以上あるとはいえ相手は石ころに擬態しているし、どのみち近づくまでは気が付かなかったか・・・・・。


 形状からみて相手は艦船ではなく、恐らくは宇宙ステーション、いや要塞と言うべきか。

 外見上は巨大な石ころにしか見えない。だが、内部の動力反応はとんでもないことになっている。

 石ころのホログラムに50隻からの大艦隊が隠れている、と言われても信じられるレベルだ。


 ものすごく逃げたいけど、逃がしてもらえないんだろうなぁ、たぶん。

 内部の動力反応が急激に慌ただしくなっている。戦闘配備へ移行したようだ。



「こちらシグナス艦長マーシャルだ。エアフォースワン、聞こえるか。」

 分隊で指揮を執っているマーシャル中佐から通信だ。

「こちらエアフォースワン、どうぞ。」

「敵要塞は既に戦闘準備を開始している。こちらはたったの5隻、できれば戦闘は避けたいが・・・・、そうもいかんようだ。」

 マーシャル中佐の声は淡々としている。

「そこで、シグナスとデルファイナスが殿として後方を守る。エアフォースワンはドラードとボーランズを連れ、空域を全速離脱しろ。」

 殿って・・・・、戦術素人の僕でも、それが高い確率で死ぬ作戦であることは容易に想像できる。


「で、でもマーシャル中佐!」

「我々の任務は大統領を安全にパロユーロまでお送りすることだ。だから・・・・・・、」

『後方、大型の熱源反応多数。』

 後方!?

「こ、これは、どこに隠れていたのだ!?」


『後方、こちらを囲うようにケインズ級が6が展開、その更に後方にはカリーナ級1』

 下方は密度の高い小惑星帯だ。どうやらその小惑星の影に隠れていたようだ。

 前方には要塞、後方には大量の敵艦、完全に袋のネズミか。


『砲撃来ます。』

「フライングシールド!」

 後方、扇状に展開している敵艦から砲撃が殺到する。シールドを広く展開、ソレイユ以外の艦船への着弾も防ぐ。あちこちで爆発が発生する。

『対象群からの攻撃行為を確認、対象を敵性勢力と断定、サポートAIによる代理承認、制圧許可。』

 シールドは10基しかない、あまり持たないぞ・・・・。


『前方要塞から高エネルギー反応!』

 何かくる!

「前方! 重力場電磁防壁展開!」

『展開します!』

 要塞から長距離粒子砲が照射される! 重力場電磁防壁と粒子砲が衝突、激しく粒子が飛散する。


「エアフォースワン、上に逃げるぞ!」

 下にある小惑星帯はとても戦闘速度で航行できない、逃げるなら上しかないか。

「船首を上げろ!」

 メインモニタの映像が下に流れていく。


『再度、要塞から高エネルギー反応!』

「防壁!」

 防壁を展開する。しかし要塞の粒子砲はソレイユではなくドラードを撃ち貫く。くっ! 防壁はソレイユにしか展開できない!!

 ドラードは紙細工のように崩れ、轟沈していく。

「要塞から粒子砲が来ます! ソレイユなら防げますから影に入ってください!!」

 3隻が要塞からの斜線が通らないよう、ソレイユの影に入る。


「最大戦速! 後方の敵艦に牽制射撃しつつ宙域を離脱するぞ!!」

 マーシャル中佐から指示が飛ぶ。その間も敵艦隊からの砲撃は激しさを増す。だんだんと包囲が狭くなっている。

『シールド損壊率68%』

 ソレイユのシールドも残り3分の1か。


『敵要塞、大量の熱源を射出・・・・・、エグゾスーツです。数はおよそ300。』

 まだそんなに戦力があるのか!?


「エアフォースワン行け! ここは3隻で食い止める! 大統領を護れ!!」

 シグナス、デルファイナス、ボーランズの3隻が速度を緩め、回頭する。

「マーシャル中佐!!」

「辛い役割を押し付けてすまん。我々のためだと思って・・・・・、協力してくれ、ユウ君。」

 ぐっ、マーシャル中佐は、軍人として当たり前の覚悟をしているのだ。僕には、この覚悟を止めることができない・・・・。


「わかりました、全速離脱します!」

「頼んだぞ。」


 ソレイユがさらに加速する。後方の状況をモニタに映す。3隻は周囲から砲撃の猛攻を受け、徐々に船体が破壊されていく。

 1隻が轟沈する。光輪と粉塵にまみれ崩れ落ちていく。

 さらにもう1隻が・・・・・、

『要塞から高エネルギー反応!!』

 どっちが狙いだ!? ソレイユか、それとも2隻のケインズ級か!?


「防壁を!」

 要塞から光、ソレイユの船体から轟音が響く。船体が焼かれている!?

『船体温度異常! 外壁第1層融解!』

「防壁が効かない!?」

『対象はおそらく超高出力レーザーです。重力場電磁防壁では遮蔽することができません。』

「シールド全機投入!」

 シールドを射線に滑り込ませ影にする。照射範囲が広いため、全てを防ぎきれない! 船体に振動、どこかで爆発が起こっている。

『第1重力ドライブ損傷重大、パージします!』

『重力ジェネレータ1号機破損、火災発生、消化、隔壁閉鎖します。』

 ソレイユ船体に激震が走る・・・・・・。

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