5章 独行の技師

1.脱出、ロスタコンカス

 惑星ロスタコンカス。150年ほど前に銀河連邦へ正式加入。当時、既に惑星の人口は飽和状態を迎えていたという。


 その50年後、いよいよ惑星のキャパシティが人口増加に耐えられなくなったとき、「ガルロマーズ」への移住を計画。

 ガルロマーズをテラフォーミングし移住を実施。彼らは居住圏を拡大することで、人口問題を解決したと考えていた。


 しかし、環境改造したとはいえガルロマーズの環境は良好とは言えず、加えて、ロスタコンカス支配下の植民地のような扱いであったため、移住者たちの生活は苦しいものとなった。


 そこから更に50年。ロスタコンカスへの逆移住も認められない中、ガルロマーズ住人達は次第に不満を溜め、大小様々なトラブルや衝突が増える。


 押さえつけられた住民たちの不満は"独立"という方向性で一気に噴出。ガルロマーズは独立を宣言し、ロスタコンカスとの戦争状態に突入した。


 戦況は泥沼化、5年に渡る戦争によりロスタコンカス星系全域は大いに荒れた。奇しくも、この戦争によりロスタコンカス星系の総人口は30%減り、向こう100年は人口問題は起こらないと言われるほどであったという。


 この状況に至り銀河連邦が介入、終わりの見えなくなっていた戦争を停戦に持ち込む。ガルロマーズは"特別行政区"として、暫定的自治権を認められることになった。



 ここまでが歴史の教科書に綴られている過去、そしてここからは新たに紡がれる歴史。



 特別行政区として自治が認められているとはいえ、結局ロスタコンカス支配下であることに変わりは無く、ガルロマーズ住人達の不満は解消されていなかった。

 再び支配される"恥辱の歴史"を歩む中、新たな"仇敵"として銀河連邦を加え、彼らは再び50年に渡り憤懣を溜めることとなった。ただひたすらに怒りを発露する時節を待ち・・・。






「ガルロマーズの戦力は想定以上です。いつのまにあれほどの装備を整えたのか。」

 大統領補佐官らしき男の1人が漏らす。


 ここはドーゼの家だ。室内に大統領、補佐官二名、護衛の隊長らしき男1名、ナリアさん、僕、ドーゼ、の7人が居る。

 外で立ち話して、誰かに見られても面倒なので、ドーゼの家に入ってもらったのだが、正直狭い。

「ロスタリーナの空港、基地、警備隊詰所、いずれも連絡が取れません。おそらくは制空権も押さえられているでしょう。」

 護衛の隊長が報告する。さっきは国営放送で声明も放送されていたいし、完全に都市を制圧されている状態だ。


「政府内にガルロマーズへ通じている者がいたに違いない、そうでなければあれほどの装備を・・・・。」

 補佐官は相変わらずガルロマーズの装備が気に食わないようだ。

「今はそれはいい、今後どうやって立て直すか。それが重要だ。そのためにも今は脱出が最優先だ。」

 大統領が補佐官を諌め、話題を戻す。


「現状、ロスタリーナ近郊の艦船は、全てガルロマーズに押さえられていると予想されます。ここはユウスケ様にご協力いただき、惑星を離脱するのが最も現実的かと愚考します。」

 ナリアさんが大統領に提案している。大統領も鷹揚に頷いている。

「ユウスケ殿、銀河連邦機関員であるあなたを巻き込んでしまい申し訳ないが、お力を貸してはいただけないだろうか。この通りだ。」

 大統領からも直接お願いされてしまった。

「わかりました。できる範囲で、協力させてもらいます。」

「ありがとう。」「ありがとうございます。」

 大統領とナリアさんの両方からお礼をいただいた。



 しかし、結構な大所帯になってしまったな。

 大統領、大統領補佐官らしき男2名、大統領秘書ナリアさん、大統領の護衛3名、ドーゼ、アリュー親子、総勢9名だ。

 ロスタコンカスを離脱するにも、まずはソレイユに搭乗する必要がある。現在、ソレイユは衛星軌道上を周回している。

 僕単独であれば、エグゾスーツで上空へ大ジャンプし、大気層ギリギリでソレイユに拾ってもらって離脱するんだが、この状況ではそうもいかない。



「どこかに宇宙船を降ろして、乗り込む必要がありますね・・・・・。」

 本来であれば、宇宙港に寄港するところだが・・・・・。

「現在ガルロマーズが市内全域を掌握しています。外出禁止が発令されていますので、とても宇宙港までは・・・・。」

 ナリアさんが教えてくれる。

「宇宙船が着陸できるようなスペースも、このあたりには無いぞ、たぶん。」

 ドーゼが補足してくれる。

 郊外まで出れば空き地もあるだろうが、外出禁止の状況で、総勢10名がぞろぞろ移動したら見つけてくださいと言わんばかりだ。


『現在位置から東に1kmほど、片側3車線の大型幹線道路を確認。道路を利用してのタッチアンドゴーを提案。』





「30分後、幹線道路上に宇宙船を強制着陸させます。準備はいいですね?」

 幹線道路まで密かに移動しておき、ソレイユ着陸後に即座に乗り込む。

 当然ソレイユの突入はガルロマーズに補足されるだろうが、アイさんの予測ではソレイユの最高速なら振り切れる想定だ。


 ドーゼとアリュー親子が住んでいたアパートを出発する。徒歩メンバーの周囲を僕含めたエグゾスーツ4体で囲い移動する。

 エグゾスーツの1体が話しかけてくる。

「俺はハッシュ・ガーランド、ロスタコンカス軍中尉だ。そちらの二人はギリアン・バーリゴル少尉にアイヴィ・モント軍曹。本隊から離れ、大統領護衛任務を行っている。」

 官邸での戦闘から大統領を逃がすため、本隊とは別行動ってとこかな。

「僕はユウスケ・アマクサです。よろしくお願いします。」

 改めて自己紹介しておく。護衛隊とは連携する場合も出てくるだろうし、しっかりコミュニケーションはとっておこう。

「ああ、よろしく。」



 市内は閑散とし、静かだった。遠くでわずかに銃声が聞こえるか。

 交差点などでは、ガルロマーズに発見されないように注意して進む。


 ソレイユ着陸予定の幹線道路が見えた。脇道から顔を出し幹線道路を確認する。道路には車は走っていないし、走ってくる気配もない。

 僕は時間を確認する。

「あと2分・・・・。」

 見えた。ソレイユが高度を落とし、道路に突入してくる。

『既に敵性勢力により補足されています。現在こちらに向かって周囲から艦船が接近中。』

「時間がありません、着陸したら急いで乗艦を!」

 僕は全員に改めて指示を送る。全員が頷く。


 ソレイユはランディングギアを展開しつつ、幹線道路に突入してくる。

 減速もそこそこにギアが道路に接触、ガリガリと激しく道路が削れる。


 ソレイユは街灯やガードレールを巻き込み破壊しながら近づいてくる。公共物を破壊してすみません。でも大統領のためなんで、ご勘弁ください。



 ソレイユは狙い通り、僕たちの目の前でぴったりと静止した。ハッチが開く。

「急いで搭乗を! ガーランド中尉たちは格納庫へ!!」

 全員が小走りで乗り込む。護衛隊の3人も最後まで残っていたが、順番に格納庫へ入っていく。


『艦艇接近。』

「シールド!!」

 ソレイユのフライングシールドが展開される。ガルロマーズのものと思われる戦艦から艦砲射撃。シールドに被弾し爆発を起こす。

 周囲の建物が爆風で揺さぶられる。

「発進だ!!」

 ソレイユは再び地面を削りつつ、一気に加速する。僕も格納庫へ飛び込む。

 ソレイユは低空で建物を盾にしつつ加速していく。ガルロマーズ戦艦からの砲撃は周囲の建物やシールドで防ぐ。


「みなさん、まずはダイニングルームのシートに着席を! 直ぐに惑星から離脱します。」

 僕はエグゾスーツを装備解除しブリッジへ移動、艦長席に座る。

 艦首を上げる。ソレイユが上昇してく。さらに仰角を上げていく。

 このまま惑星から離脱だ。




 船内に爆音、激震が伝わる。

『外壁損傷、気密に問題発生。このままでは惑星外へ離脱できません。』

「砲撃か!?」

『いえ、内部からの爆発です。』

 ダイニングルームから内部通信が入る。

「すまないユウスケ殿!」

 ガーランド中尉だ。

「補佐官の1人が自爆した。大統領を護るために部屋の外に出すのが精いっぱいだった。申し訳ない!」

 なんてこった・・・・・。

「アイ、状態は!」

『エンジン等には問題ありません。外壁の補修が必要です。』

「サイトウさん!!」

「今取り掛かるところだ! 30分くれ!!」

 30分か、ガルロマーズが待ってくれるかな・・・・。


『6時方向から敵性艦船接近 ケインズ級2。』

『3時方向から敵性艦船接近 ケインズ級1。』

『9時方向から敵性艦船接近 ケインズ級2。』

『12時方向から敵性艦船接近 カリーナ級1、ケインズ級1。』

 包囲されたか。

『12時方向カリーナ級から停船要請。』


 突破するしかないか・・・・・。

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