15.脱出チーム結成

『ロスタコンカス星系からの脱出は困難な状態です。』

 アイの言葉に少々茫然自失となっていると、女性の父親が近づいてきた。

「そういえば、名も名乗りませんで、すみません。アリューの父でルカルドと言います。」

「わざわざありがとうございます。ユウです。」

 ルカルドさんは昔は体格が良かったのだろう、骨格はがっしりしている雰囲気だ。しかし今は体が悪いのか、全体に肉付きが悪く細い。

 それに顔色も優れない。それは体調だけが原因ではないのかもしれないが。


「ユウ様に折り入ってお願いが。」

 ルカルドさんは窪んだ眼に鋭い光を宿しつつ、僕に話す。

「ご覧のように、今この星は危険な状況です。演説では体の良いことを言ってますが、実際にはどうだか・・・・。」

 現状はまさに戦時下であり、相手は占領軍に当たる。市民に何かの"間違い"が起こっても不思議はない。


「ユウ様は星系外からいらしたお方とお見受けします。どうか、このアリューと、そこのドーゼを連れて行ってはくれないでしょうか?」

「へ!?」

「え!?」

 二人はそろって素っ頓狂な声を上げる。仲いいな。


「お父さん! 何言ってるのよ! お父さんはどうするの!?」

「ここに残ればどうなるか・・・・。しかし、わしは長旅には出られん。だから、若いお前たちだけでも外へ逃げろ。」

「いや! お父さん一人置いていけない!! 私も残る!」

「アリュー、聞き分けておくれ・・・。」


 二人のやり取りに、ドーゼはおろおろしっぱなしだ。ルカルドさんの言うことはもっともだ、しかし、僕はだんだんイライラしてきた。


「わかりました。」

 イライラしていたせいか、思っていたよりも硬質な声が出てしまった。

「ドーゼさん、アリューさん二人を連れて行きましょう。」

「っ!!」

「おお、ありがとうございます。」

 アリューは息を飲み、ルカルドは礼を述べてくる。


「わ、私はいかない!!」

 アリューは否定の言葉を述べてくる、が、僕は無視して続ける。

「ただし! ルカルドさんも一緒にです。でなければ、僕は引き受けません。」

「っ!!」

 今度はルカルドさんが息を飲んでいる。やっぱり親子だ、似てるな。


「し、しかし、わしは長旅には・・・・。」

「なら、ここで死ぬんですか? どうせ死ぬなら、娘さんと一緒に逃げて、死んでください。」

 自分で言っててもかなりの極論であり、暴論だとは自覚している。が、あんな自己犠牲で救われたら、救われたほうが気に病むだろう。


「・・・・、確かに、ここで諦めるなら、やれるだけやってから諦めてもいいかもしれませんな・・・。しかし、良いのですか? ユウ様への負担が増えてしまうのでは?」

「二人も三人も一緒です。」

 僕は無茶言った手前、強がっておいた。

「ただ、アリューさん、道中のお父さんの具合は常に見ておいてくださいね。」

 と、いいつつも、体調管理については自信ないので、そこは手伝ってほしい。

「も、もちろんです!!」

「なら、問題ありません。」

 よく考えると、巨大な墓穴を掘ったような気がしないではないが、こういうのは諦めて切り替えるのが大事だな。




『接近警報。室外、玄関脇に1名隠れています。』

 集音センサー、サーモカメラの両方で人物の存在を確認した。明らかに気配を殺して接近してきている。

 やっと話がまとまったと思ったら、今度はなんだ?


 僕は玄関横まで移動し、扉越しに話しかけた。

「何か御用ですか?」

 ゆっくりと扉が開かれる。僕はいつでも防御できるよう、警戒を切らずに構える。


「失礼いたしました。わたくし、ナリア・リッサリングと申します。マーニバスラ大統領の秘書をしております。」

 扉の向こうには知的な印象を纏う女性が立っていた。20代後半くらいかな。ブラウンの髪はアップでまとめ、フレームの細いメガネをかけている。落ち着いた色のスーツを着こなしている。


「あいにくと、僕はこの家の住人ではないですので、住人を呼んできますね。」

 とりあえず、「にげる」コマンドを選択する。

「いえ、あなた様にお願いがあり、お伺いさせていただきました。」

 しかし回り込まれた。

 クーデター発生の状況で、大統領秘書からのお願い。嫌な予感しかしない。



「先ごろの官邸での戦闘の折、ガルロマーズの部隊から大統領を防衛いただいたのはあなた様かと推測しておりますが、いかがでしょうか?」

「さて、どうだったか、ちょっとログを調べてみます。」

 すっとぼけておく。

「・・・・・・、では外に置かれているエグゾスーツはあなた様の持ち物ではないということですか?」

 そうだった、バレバレの物証が外に置いてあった・・・・・。

「・・・・・、僕に何のお願いですか?」

 うーん、聞きたくない。


「既に首都ロスタリーナ全域、いえ、ロスタコンカス全域がガルロマーズにより掌握されている状態です。」

「そのようですね。」

 アイさん情報です。

「銀河連邦へ救援を要請しようにも通信妨害が行われており、ガルロマーズの勢力圏を突破する必要があります。」

「現状ではなかなか厳しいでしょうね・・・。」

 他人事で受け答えしておく。


「つきましては、"天墜落とし"として名高いレガシハンター様に脱出のご助力願えたらと考え、ご挨拶に伺いました。」

 とても不穏な単語が聞こえた。天墜がなんだって?


「えっと、その、天墜落としって・・・・。」

「先日のセントラルにおけるレガシ暴走事件において、単機でレガシを鎮圧されたと・・・・。」

 僕に変な二つ名がついてる!!

『あだ名が付くとは、勇介様も有名になりましたね。』

 望んでないっす・・・・。



「ご存知のようなので補足しますけど、僕はレガシハンターです。なので、軍事行動への加担はできないですが・・・・・。」

「存じております。ですが、大統領は現在"命を狙われて"おります。人命救助として、安全な場所まで護送をお願いいたしたく。」

『明らかに人命が脅かされる状況において、救助することは活動規範に含まれます。』

「現在、最寄の基地も全てガルロマーズに押えられており、首都からの脱出すら不可能な状況です。何卒お願いいたします。」

 そのとき、アパートから見下ろす道路上、エグゾスーツ3体に護衛されつつ移動してくる大統領他、数名が見えた。

 可否を聞くまでもなく、もう来てるじゃないか!



「はぁ、で、どこまで行けばいいんですか?」

「ロスタコンカス星系、第5惑星ユピテルガザの衛星パロユーロです。そこにロスタコンカス軍最大の軍事基地があります。」

 ユピテルガザって、ロスタコンカスから数億kmくらいあるんじゃないか?

『約8億kmです。』

 超光速ドライブ使えればすぐなんだけど、通信妨害張られてる状態だとたぶん使えない。



 超光速ドライブは進路の安全チェックが必須だ。安全チェックには、Gネットのプロトコルと同様の重力波を用いている。

 しかし、今ロスタコンカス星系は通信妨害により重力波がかく乱されている。そのため、恐らくは進路の安全チェックができないだろう。

 となると通常航行で向かうことになるか。8億kmは数日かかるなぁ。



 なんだか、墓穴を掘り抜いて、地下空洞に300m位落下したような気分だ。しかし、どうせ僕自身も脱出しないといけないしな・・・・。

 ここは切り替えて、張り切ってロスタコンカス脱出といきますか。

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