12.援軍(?)要請
「ラファちゃんにも、勇介君同様の処置を施すよ。」
僕らは今、地球にいる。
ラファは僕の婚約者として同行することが許可された。しかし、レガシハンターとして活動する上では、やはり身体強化は必要だ。
彼女のフォースロードとしての能力はデウスマキナのもたらす影響下限定だ。一旦ミルーシャから出てしまうと、ただの女の子になってしまう。
なので、ラファにも僕同様の処置を行ってもらうべく、一旦地球に戻ってきたのだ。
「それと、ラファちゃんはミルーシャで、主に直剣を使った戦いをしていたんだよね? ということで、専用の武器を準備しておくよ。」
さすがRim、いろいろと気が利く。
『勇介様、外部通信です。お繋ぎしますか?』
「ん? 誰?」
『リックとか、名乗ってますね。』
アイさん、相変わらずリック嫌いなのね。
僕はモニタのある別室へ移動した。
「よぅ、ユウ、久しぶりだな。」
画面に映し出されたリックが、片手を上げながら言う。
「久しぶり・・・・。こう堂々と連絡してこられると対処に困るんだけど。一応、レイヴンはお尋ね者だと思うんだが・・・。」
レイヴンは盗賊として、銀河連邦で手配されている。
「どうしても協力してほしいことがある。手伝ってくれたら、今追ってるレガシを渡す。」
リックが取り引きを申し出てきた。リックの取り引きって、信用していいのか悩むんだよね・・・・・。
「・・・・・・、とりあえず、話を聞こうか。」
リックから一連の状況を聞いた。
「10周以上ループしてると?」
「ああ、そのループ原因の解消に手を貸してほしい。」
リックは珍しく神妙だ。延々と続くループにかなりまいっているのか?
「で、そのループ原因が?」
「ああ、ドーゼという男だ。左手にレガシが癒着している。このレガシがループ原因だろう。あいつの想いを遂げさせてやれば、おそらく左手から回収できる。」
持ち主の強い思いにレガシが同調してしまっているということか。
「回収できたレガシはユウに渡す、という条件でどうだ?」
いつものように、大げさな身振りを交えつつ、リックが条件を提示してくる。リックとの取り引きは信用に欠けるんだよなぁ・・・・。
しかしレガシと聞いて動かないわけにはいかないか。
「わかった、協力するよ。で、何をするんだ?」
「女の救出だ。」
ラファは丁度処置が始まったばかりで意識が無い。本当はあいさつして出かけたかったが、仕方ない。
「すみません、後のこと、よろしくお願いします。」
「まかせてよ。」
ラファのことはRimに任せ、僕はソレイユで出航する。向かうのはロスタコンカス星系だ。
惑星ロスタコンカスの衛星軌道までやってきた。
リックの話には何か裏がありそうな気がする。万が一を考えてソレイユは衛星軌道で周回させておき、僕自身はフローティングバイクで宇宙港に入港することにした。
ロスタコンカスの首都ロスタリーナに降り立ち、大統領官邸前の自然公園へやってきた。
リックに指定された場所は、この公園のモニュメント前だったな。
『このモニュメントは、ガルロマーズへの移住を記念して制作されたものです。』
へぇ、そうなんだ。
『約100年前、惑星ロスタコンカスは人口問題を抱えており、その解決策として近隣の惑星であった"ガルロマーズ"をテラフォーミングし、一部人口を移住させています。』
地球でいうところの火星テラフォーミング計画みたいな話だな。
「おいおいおい、エグゾスーツはどうした!?」
久しぶりに会ったリックは、いきなりそんなことを言い出す。
「ちゃんと軽装甲は背負ってるけど?」
バックパックは背中に取り付けてある。リックは顎に手を当て、渋い顔でしばらく僕を眺める。
「・・・・・・、確か、スーツ呼べるんだよな?」
「呼べるけど・・・・・。」
ならいいかとか、ぶつぶつと呟いている。やっぱり何かあるな。帰りたくなってきた。
「あの、すみません、俺、ドーゼ・ローマルクです。」
リックの後ろにいた、もう一人の男が自己紹介をしてきた。
「あ、僕はアマ・・・・・・、ユウ・アマクサです。よろしく。」
どうせアマクサ・ユウスケは発音できないだろうから、諦めた。
「ユウさんですか、よろしくお願いします。」
「それで、リック、今から何をするんだ?」
実は、まだやることを聞いていない。
「17時ごろ、"テロリスト"が大統領官邸を急襲する。だから、その直前に侵入して、メイドの女を救出する。」
「テロリストから女性を救うってことか。」
「そう、そのままにしておくと、メイドの女はテロリストに殺される。だから、その前に助け出すわけだ。」
その女性が、ドーゼの想いの元ってことか。先に女性を逃がしておいてはダメなのか?
「先に逃がしておくことはできないぜ? ループでもしてなきゃ、テロリストが来るなんて信じないからな。」
僕の考えを読んだように先回りされた。
なんだか微妙に釈然としないものを感じつつも、一応テロリストのことも聞いておく。
「テロリストは何者か分かっているのか? あと目的は大統領の命?」
リックはいつもながらにわざとらしい身振りで答える。
「さぁな、そこまでは俺たちも知らねぇ。それに、俺たちもそこまで手出しできねぇしな。」
確かに、僕もテロ対策や戦争行為はレガシハンターの任務外になってしまうので手出しできない。
「僕は何を手伝うんだ?」
「テロリストは"裏口"から攻めてくる。俺たちは正面側から逃走するから、退路を確保してくれ。」
正面側、公園から遠巻きだが見ることができる。警備の人間が立っている。
「警備の人には眠ってもらうとか、そういうことか。」
「そうなるな。」
任務内の許容範囲ギリギリだな。初めて使うけど、麻酔弾使うか。
「16時50分くらいには退路の確保を頼む。俺たちは別ルートから侵入して、女を探す。」
うん、ここまでは問題なさそうだが・・・・、なんだろう、すごく不安があるな。
「わかった。」
「そろそろ時間かな。」
僕は軽装甲エグゾスーツを展開する。
今まで使ったことが無かったが、このスーツの両手首から麻酔弾を発射できる。
この麻酔弾、相手がスーツを着ていれば当然効かないし、ミルーシャのクリーチャーやダークロード等にも効果が無い。
なので、これまで出番が無かった。
今回は、敵対者ではない警備の人にちょっと眠ってもらう、ということでこれを用いる。
『非殺傷装備による、任務上の障害排除と認定。サポートAIによる代理承認、発射許可。』
そうそう、これまでの任務経験が認められ、「制圧」までなら、アイさんが許可できるようになった。
これで、Gネットが繋がらない場所でも"制圧"は可能になった!
僕は公園から官邸を見る。鉄柵の門には両サイドに警備の人間が立っている。
僕は重力ドライブを吹かし、官邸前の公園から瞬時に警備の人に肉薄、至近距離で麻酔弾を撃ちこむ。
一人が昏倒する。頭を打たないようにゆっくりと地面に寝かす。
門の反対側に居るもう一人の警備が僕に気が付く。その瞬間に背後に回り込み、同様に麻酔弾で眠らせた。
二人を両肩に抱える。官邸の鉄柵は3mほど。これなら余裕だな。僕は鉄柵を飛び越え、官邸内に入り込む。
官邸内にある草むらに警備の人を隠す。
しばし周囲の状況を警戒するも、異常には気付かれていないようだ。
周囲に警戒しつつ、官邸の玄関近くまで移動する。近くにあった彫像に半身で隠れ様子を伺う。
今のところ動きはないな・・・・。
そう思っていると、官邸内部から銃撃音のようなものが聞こえてくる。戦闘になるとは聞いていないぞ? 何か予定外の事態か?
3階の窓が割れ、人が落ちてくる。壮年の男性? 僕は軽くジャンプし、空中で男性をキャッチ、ソフトに着地した。
『データベース照合、該当あり。氏名 デルモア・マーニバスラ ロスタコンカス大統領です。』
「うぇっ?」
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