11.大統領先行誘拐作戦
「ああ~ん」
ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じる。
すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。
「ああ、ありがとう。」
早々にウエイトレスを追っ払う。
俺は雑事には目もくれず、海上ポータルへ向かう。ロスタコンカスへ向かうためだ。
巻き戻りの中心地がロスタコンカスのドーゼだと分かったのは、ジアースのRimというAIが調べた結果だ。
前々回の周回でジアースのユウを訪ねた際に調べてもらったんだが、水鏡で確認できる映像の長さが場所ごとに違ったらしい。人間には分からない差だな。
それが分かればこっちのもの。その時はテキトーな内容でユウを煙に巻いておいて、次の周回、つまり前回の周回だが、ロスタコンカスへ行ってみた。
場所を調べながら向かったため少々時間がかかってしまい、ドーゼと合流した時はかなり物騒な状況だった。官邸を襲う武装勢力と戦闘をしていやがった。
どうやら官邸内にお目当ての女が居るらしく、それを助けたいと必死のようだ。
俺としては早々に諦めてもらうのが手っ取り早くていいんだが、奴の強い執着心のためにレガシが癒着していることからも、その方向性での解決は難しそうだった。
お前の都合で延々巻き込まれる俺の気持ちにもなってほしいもんだが・・・・・・。
まぁ、ここはリック様がちょちょいと解決して、ついでにレガシも頂いてしまうのが、お互いのためだよな。
奴はその後は、女とアレするでもナニするでも好きにしてくれ。これぞWin-Winってやつだな。
俺が居た惑星アクトルガスからだと、惑星ロスタコンカスはかなり距離がある。二回目なのでスムーズに来れたとは言え、到着した時は既に宇宙標準時で13時を回っていた。
ちなみに、各惑星系の首都は、原則宇宙標準時に沿った時間形態をとっている。これは豆知識な。
ロスタコンカスの首都ロスタリーナにある宇宙港へ入港、前回聞いておいたドーゼの家に向かう。
「本当にきたのか。」
ドーゼが家の扉を開けながら俺に言い放つ。ごあいさつな奴だ。
さっさと諦めてくれれば楽なのに、付き合ってやるんだからありがたく思えよ。まったく。
ドーゼの案内で武器を調達する。骨董品みたいな武器ショップだな。光学兵器がさっぱり置いてない。
再び大統領官邸前だ。さて、どこから侵入したものか。俺は水鏡を開き、官邸周囲の動きを確認する。
「それは何を見ているんだ?」
ドーゼが覗き込もうとしてくる。俺は体をずらし見えないようにブロックした。
人の鏡を覗こうとは、マナーのなってないやつだな。人の携帯覗き見するタイプか?
官邸の裏側に業者用の搬入口がある。そこはトラックの荷台を壁に接続させ、荷台から官邸内へ直接荷下しをするらしい。これは使えそうだ。
大統領官邸から少し離れた道にかかる歩道橋の上に来た。
俺は水鏡でターゲットのトラックを探しながら、ドーゼに話しかける。
「いいかー・・・・、もうすぐ来るトラックの上に飛び乗るぞ。」
「はぁ!? トラックに!? 飛び乗ってどうするんだ?」
いちいちうるさいやつだ、説明するのが面倒になったので、適当にあしらう。
「乗ってみりゃわかる。」
俺は水鏡の映像を進めたり戻したりしながら、官邸に向かうトラックを探す。
「あーっと、このトラック・・・・・、じゃない、」
そう言っている間に、トラックが歩道橋の下に差し掛かる。
「・・・・、あ、これだ、これに乗れ。」
「えっ!」
俺は即飛び乗る。ドーゼが一瞬遅れて飛び乗ってきた。なかなか思い切りがいいな。
ドーゼは着地に失敗し、危うくトラックから転げ落ちるところだった。
「もうちょっと早めに言ってくれ!!」
ちゃんと間に合うようには言ったろ?
俺たちは屋根の上に伏せた状態でトラックに運ばれる。トラックは無事官邸の業者搬入口に接続する。
ドーゼに合図し、官邸の2階部分に取りつき屋上にむけアンカーを発射。アンカーワイヤーをロープ代わりにして屋上へ上る。官邸が3階建程度の高さで助かった。
俺に続いてドーゼも登ってきた。ずいぶん息を切らしている。ああ、そうか、こいつは完全に生身だったな。
俺は非正規品だが、セルグリッドの生体強化が活きてるからな。
今はまだ15時。奴らが官邸を強襲するまで時間がある。あまり早く行動を起こしすぎると、想定外の横やりが入らないとも限らない。
動くのは奴らが来る30分前、16時半ごろだな。
はぁ、また待つのか・・・・・。
「そろそろいくぜ。」
俺はドーゼに声をかける。大丈夫か、こいつ。えらく青い顔して・・・・。緊張しすぎだ。
水鏡で大統領の居場所を確認。執務室らしき部屋の真上に移動する。
外壁を伝って窓から突入するためにアンカーを屋上にセット。ドーゼは持てる限りの武装をフル装備。俺もフードとフェイスガードをかぶる。
ロープで壁を下りる。執務室の窓の上で停止する。ドーゼに目配せ、頷くのを確認し、室内にフラッシュグレネードを投げ込む。
窓を割り、グレネードが中に飛び込む。中から閃光が漏れる。俺とドーゼは室内に飛び込んだ。
室内に居た護衛2名と、大統領の側近2名にはスタンロッドで気絶していただいた。大統領は後ろ手に縛って、拘束している。
「こんなにあっさりと・・・・・。」
ドーゼがなにやら感嘆の言葉を述べているが、とりあえず無視だ。
「お前たち、何が目的だ!」
「そりゃぁ、アレだ、俺たちはあんたには用はない。俺たちの後に来るやつに聞いてくれ。」
「お前たちの後だと!?」
そこまで会話しておいてアレだが、別に俺が細かく説明することもないので、ここでやめておく。
大統領が怒りの形相で俺を見ている気がするが・・・・・、これも無視だ、無視。
もうあまり時間も無さそうだし、さっさと大統領を連れ出して奴らに引き渡そう。
「いくぜ。大統領を連れてきてくれ。」
ドーゼに伝え、俺は執務室の扉をそっと開く。廊下には誰も居ない。プラズマナイフを取り出す。プラズマブレードは起動させない。
ドーゼを手招きし、部屋から出る。階段方向へ移動。
「とまれ!!」
後ろから声がかかる。とっさに大統領ののど元にナイフを当てつつ盾にする。
「そっちこそ動くなよ?」
じりじりと階段を下りる。
吹き抜けの玄関ホールの2階部分に出る。既に警備隊員と思われる連中が銃を構えている。が、大統領を盾にゆっくり階段を下りる。
「動くんじゃないぞ・・・・。」
ドーゼに扉を開かせ、正面玄関から外へ出る。
今まさに、無音ヘリからガルロマーズの突入部隊が降下してくるところだった。
俺は大統領を突き飛ばす。大統領は突入部隊の前に倒れ込む。
「なんだ貴様らは。」
突入部隊の隊長らしきやつが銃を向けつつ、俺たちに誰何してくる。
俺は両手を上げつつ、少し後退する。
「俺はなにも・・・・・」
その時、官邸の正面玄関が開き、警備隊員が飛び出してくる。
一瞬のにらみ合い。
大統領が頭を伏せたのを皮切りに、銃撃戦が始まる。俺とドーゼは左右に飛びのいた。
「今のうちに女を!」
そう言って銃撃戦から逃れようとしたが、ガルロマーズ兵は俺たちにも銃撃してくる。庭にあった彫像の影に隠れる。
「なんで俺たちまで狙うんだ、あいつら!」
警備隊員が次々と倒れる。警備隊と軍隊では装備が段違いだな。これなら警備隊員が全員倒れるまで待つのが良さそうか。
その時、官邸敷地の外、ロスタリーナ警備隊車輛が十台ほど到着する。中から警備隊員が出てきて、全員銃を構える。
官邸の中と外から、ガルロマーズ兵へ激しい十字砲火が展開される。
おいおい、戦闘が激化してるじゃないか。
ロスタリーナ警備隊の展開がこれまでより速い。これはもしかして、俺たちが大統領誘拐に動いた影響か?
ガルロマーズの戦闘ヘリが機銃を掃射する。警備隊車輛が次々爆発炎上する。警備隊では戦闘ヘリの相手は荷が重いようだ。
戦闘には付き合ってられないな。俺はそろりそろりと匍匐前進で庭の奥へ、官邸の影へと移動していく。
後方から激しい爆発音と爆風が吹き荒れる。戦闘ヘリがミサイルまで発射している。次々と警備隊車輛が破壊されていく。
戦況は一方的ではあるが、ロスタリーナ警備隊は次々と増援がやってくる。車輛が次々到着し、隊員もどんどん増える。
そこへガルロマーズのエグゾスーツ隊が到着する。
双方度重なる増援で戦況は激化の一途・・・・、ここだけ完全に戦場だな。
戦闘ヘリのミサイルが官邸入口に飛び込む。官邸内から業火のごとき爆炎が広がる。
「アリュー!!!!」
ドーゼが建物の中へ飛び込んでいく。あ、こりゃまずい・・・・・。
「ああ~ん」
ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じる。
すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。
俺はそのままテーブルに突っ伏した。
「引き渡し方法が悪かったか・・・・?」
大統領の引き渡しと、女の救出で二手に分かれないとダメだな、あれは。
なら、ドーゼを引き渡し側で・・・・・。いや左手のレガシが回収できないし、多分ドーゼもそこは譲らないだろうな。
かといって、俺が引き渡し側でもダメだ。あんな危ない場所はごめんだし、結局レガシが回収できない。
「あ。」
思いついた。
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