10.ドーゼ(7)~(13)

 すぱーん。丸めた雑誌で頭を叩かれた。

 うつ伏せで寝ていた俺は、がばっと顔を起こした。アリューだ。


「毎日毎日、ちゃんと自分で起きなさいよね。」

「ああ、ありがとう。」

 俺がはっきりと答えたため、アリューは一瞬訝しんでいたが、すぐに表情は戻る。


 アリューは食卓にあるコンビニ弁当の入れ物を見ている。

「もう、ちゃんとしたご飯食べなきゃだめだよ。」

 そういいながら、アリューは入れ物を片づける。



「・・・・・、今夜、夕食、準備してあげるから、うち来なさいよね。」

 アリューはこっちも見ずに、俺の部屋を出て行った。



 俺は既に別のことを考えていた。




「いらっしゃい。」

 俺は前回、アラムドロの紹介で来たブルームの店に一人でやってきた。

 アラムドロと来たときとは違い、ブルームさんはかなり無愛想だ。


 店には様々な銃器火器が所せましと並んでいる。店主のブルームさんは店の一番奥、カウンターの向こう側に座り雑誌を読んでいる。

 あの雑誌は、前回アラムドロも読んでいたものだ。


「拳銃の使い方を練習したい、教えてもらえないだろうか。」

 俺はブルームさんにそうお願いをした。

「武器のレッスンは毎週水曜だ。明後日来てくれ。」

 ブルームさんは壁に貼られた、「銃器撃ち方体験」と書かれたポスターを指差しつつ言った。


 俺は封筒に入れた札束をカウンターに置いた。前回、銃器を買うのにも使った俺の全預金だ。

「どうしても今日教えてほしい。」

 ブルームさんは封筒を持ち上げ、軽く中を確認し、片眉を上げて俺を見る。

 しばし考え、ブルームさんは立ち上がる。

「こっちだ。」

 店の奥に案内される。店の奥は射撃場になっている。通常の体験会もここでやっているんだろう。




 夕方、俺は官邸に来ていた。

 すまないアリュー。しばらく我慢してくれ。


 俺は以前の誓いに従い、この光景を目にする。

 左手、渦巻き模様が光りを放った。





 俺はその後、4回ループし、小火器、重火器の練習、射撃精度を上げるための射撃練習などを行った。

 もちろん、夕方には官邸に赴き、必ずあの場には立ち会った。





 すぱーん。丸めた雑誌で頭を叩かれた。

 うつ伏せで寝ていた俺は、がばっと顔を起こした。アリューだ。


「毎日毎日、ちゃんと自分で起きなさいよね。」

「ああ、ありがとう。」

 俺がはっきりと答えたため、アリューは一瞬訝しんでいたが、すぐに表情は戻る。


 アリューは食卓にあるコンビニ弁当の入れ物を見ている。

「もう、ちゃんとしたご飯食べなきゃだめだよ。」

 そういいながら、アリューは入れ物を片づける。



「・・・・・、今夜、夕食、準備してあげるから、うち来なさいよね。」

 アリューはこっちも見ずに、俺の部屋を出て行った。



 俺はブルームさんの店に直行し、装備一式を購入した。

 その足でそのまま首都ロスタリーナ郊外まで移動する。既に使われていない採石場だ。


 俺はここで最後の確認をする。それぞれ武器の射撃練習、重火器の発射練習。そして、ある仕掛けのテストだ。


 俺は夕方になるまで採石場で過ごし、再び官邸を訪れる。


 俺は以前の誓いに従い、この光景を目にする。

 アリュー、次だ。次こそは・・・・・・。左手、渦巻き模様が光りを放った。





 すぱーん。丸めた雑誌で頭を叩かれた。

 うつ伏せで寝ていた俺は、がばっと顔を起こした。アリューだ。


「毎日毎日、ちゃんと自分で起きなさいよね。」

「ああ、ありがとう。」

 俺がはっきりと答えたため、アリューは一瞬訝しんでいたが、すぐに表情は戻る。


 アリューは食卓にあるコンビニ弁当の入れ物を見ている。

「もう、ちゃんとしたご飯食べなきゃだめだよ。」

 そういいながら、アリューは入れ物を片づける。



「・・・・・、今夜、夕食、準備してあげるから、うち来なさいよね。」

 アリューはこっちも見ずに、俺の部屋を出て行った。


 今回で勝負を決める。俺はブルームさんの店に直行し、装備一式を購入した。何度目だろうか。慣れたものだ。

 俺はその足で一旦採石場へ移動する。そこで、前回何度もテストした仕掛けを作る。




 今は16時半。俺は官邸前にやってきた。奴らは17時ごろに官邸を襲撃する。

 俺は官邸の警備隊員に見つからないよう仕掛けをセットする。そして、俺自身は公園にあるモニュメントの影に隠れる。後は待つ。




「きたか。」

 無音ヘリ3機が上空を通過していく。俺は双眼鏡で無音ヘリの動きを追う。輸送ヘリ2機が官邸庭上空に滞空する。降下準備に入った。

 俺は手元のリモコンスイッチをONにした。30mほど離れた位置に設置してあった仕掛けから、対空ミサイルが発射される。


 そう、遠隔のミサイル発射装置を作っていたのだ。輸送ヘリの滞空高度は毎回見ていてわかっていた。だから斜角固定でミサイルを発射する架台を作った。


 対空ミサイルで輸送ヘリの1機が爆散、墜落する。護衛ヘリがすぐに機銃掃射を行う。だが、俺はそこにはいない。

 俺は対空ミサイルを取り出し、もう一機の輸送ヘリに向け発射する。2機目の輸送ヘリも爆発し墜落した。


 降下予定の兵隊たちは全滅した。やった・・・・・。護衛ヘリは、護衛対象が居なくなってしまったため、飛び去っていく。




 やったのか・・・・、これで、アリューを救えた・・・・・・。

 念のため準備した各種火器は無駄になってしまったな・・・、でも、これで済んだならいいか。


 官邸が騒がしくなっている。警備隊員も集まってきた。とりあえず逃げた方がいいか。



 その時、地面に衝突するような金属音が連続で響く。

 官邸に背を向け逃走しかけていた俺は、その音に振り返った。



 官邸前の道路、その路面を陥没させ、金属製の人型が何体も屹立している。あれは、エグゾスーツ!?

 さらに数回の落下音が響く。全部で15体のエグゾスーツ。


 エグゾスーツ部隊が一斉に銃撃を開始する。20人以上集まっていた警備隊員たちが瞬く間に削り取られ、赤いシミに変わる。

 こんな伏兵がいたのか!!



 俺はポケットに入れていた手榴弾のピンを抜き、エグゾスーツ部隊の中心あたり目がけ投擲した。

 間近で爆発するも、エグゾスーツにはあまり効果が無いようだ。


 モニュメントの影で、俺は対空ミサイルを準備する。今ならまだ気づかれてない。

 モニュメント越しにミサイルを構える。エグゾスーツ部隊の大半は既に官邸を攻撃している。5体ほどが公園側を警戒しているようだ。

 1体に照準しミサイルを発射する。見事に命中しスーツごと上半身が爆散する。ミサイルならやれる!


 しかし、居場所がばれた。モニュメントに銃撃の嵐が襲い掛かる。台座ごとモニュメントが削り取られていく。

 対空ミサイルなんてそんな何発も持ってきていない。さっきので最後だ。どうする。榴弾もたぶん効かない。機銃程度では歯が立たないだろう。


 くそっ! ヘリを落とすところまではうまくいった。あれ以上に戦力があるなんて・・・・・。

 2体のエグゾスーツが近づいてくる。どうする!



 俺はやけくそ気味にモニュメントの影から飛び出し、アサルトライフルを構えエグゾスーツに相対する。

 一瞬の間、エグゾスーツの胸から、蛍光ピンクの光を発する刃が生えていた。

 刃が引っ込むと、エグゾスーツが膝から倒れた。


 なんだ? 景色が歪んでいる? 何かが居るのか!?

 もう1体のエグゾスーツがその歪みに向き直るより速く、その歪みはピンクの刃を振るう。

 エグゾスーツの腰につけられている機銃ごと腕が切断され宙を舞う。流れるように胸を刺し貫く。


 歪みは残心することもなく、俺に近づいてくる。

「おい、逃げるぞ。」

 歪みが晴れ、黒いスーツに身を包んだ男が姿を現した。俺は男に腕を引かれ、公園奥へと逃げる。思ったより力が強い・・・。


 官邸が遠ざかる。また逃げるのか・・・、俺は。



 官邸からかなり離れた位置にある公園の窪地に身を隠す。

「だめだ、戻ってくれ、俺は、必ず最後を見届けないといけない・・・。」

「バカなこと言うんじゃねぇ。あんな危ない場所に戻れるか。」

 男が着込んでいる黒いスーツの仮面がフードに格納される。男はフードを外した。ずいぶんくたびれた雰囲気の男だ。

 髪はボサボサで無精ひげも生えている。


「あんた誰だ?」

「俺か、俺は・・・、トレジャーハンター レイヴンだ。」

「トレジャーハンター?」

「お前さんのソレを何とかするために来た。」

 そういうと、レイヴンは俺の左手を指差す。これを知っているのか!?

「もう、10回以上やり直してるだろ?」

「あ、あんた、なんでコレのことを!?」

 レイヴンはわざとらしい身振りでおどけて見せる。

「ま、いろいろとな。」

 胡散臭い男だ。自分の情報を開示するつもりはないらしい。



「お前のやりたいことは知ってるぜ?」

 俺の思考を中断するように、レイヴンが事情に踏み込んでくる。

「あの女を、助けたいんだろ?」

 その言葉は悪魔のささやきのように俺の耳に響く。俺は驚きのあまりレイヴンを凝視していた。


「そんなに驚くなよ。俺はただ、お前を手伝ってやろうってだけだ。」

 そんな都合のいい話があるのか?

「何が、目的だ? 見返りは何だ?」

 ますます怪しい。この男、何か裏があるように感じる。


「そう睨むなよ、見返りか、そうだな・・・・・。」

 レイヴンはわざとらしく顎に手を当て、考えるようなフリをしている。そして、俺の左手を指差す。

「終わったら、ソレを俺にくれればいい。あんたは女を助ける。俺はソレを手に入れる。お互いに幸せだろ?」

 レイヴンは指折り数えながら、条件を提示してきた。


 俺の左手にある渦巻き模様。これは確かに元々円盤状だった。今は手に直接模様が付いている。



「手から、取り出し方がわからない。これを渡せる保障はない。」

 レイヴンは少し考え、続けた。

「お前が望みをかなえれば、たぶん取れるんじゃないか? もしくは・・・・・、」

 レイヴンは俺に顔を近づけてくる。

「お前が望みを諦めればな・・・。」


 明らかに諦めることを期待している顔だ。

「あきらめない。俺は絶対アリューを救う。」

 レイヴンは再びわざとらしい身振りで、やれやれと言いたげな仕草をする。

「だから、手伝うって言ってんだろ?」

「でも、あんな兵隊は倒せない。官邸が攻められたら、アリューも救えない・・・・。」

 そう、まさか追加の戦力までやってくるとは思っていなかった。戦って守るのは無理かもしれない・・・・。



「軍隊と戦うなんざ、俺も御免だ。」

 でも、レイヴンはエグゾスーツを2体も倒していた・・・・・。

「お前はあの女が無事ならいいんだろ?」

「どういうことだ?」

「考え方を変えろ・・・・、どうせ、処刑されるんだったら、先に引き渡してやればいいだろ?」

「へ?」

 先に引き渡す? 何をだ?



「わからないか? 官邸を俺たちで落とす。それで、大統領をやつらに引き渡す、これで女は死なないだろ。」

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