8.ドーゼ(4)

 すぱーん。丸めた雑誌で頭を叩かれた。

「んんがぁ。」

 うつ伏せで寝ていた俺は、がばっと顔を起こした。アリューだ。


「毎日毎日、ちゃんと自分で起きなさいよね。」


 アリューだ。


「・・・? どうしたの? 変な顔して。」


 どうやっても救えない。どうしたらいい。どうしたらアリューは死なずに済む?


 官邸では守れない・・・・・・。




 なら、官邸に行かなければ?



 俺は急いでベッドから出て、物置を漁る・・・・、あった。

「ドーゼ? 朝からどうしたの?」

 俺は訝しむ顔のアリューに接近し、抱き着く。

「え!?」


 戸惑っているアリューを手にしたロープで拘束する。ここは少々強引になってしまうが、我慢してくれ・・・・。

「な、なにしているのよ! やめてドーゼ!!!」

 非難の声を上げるアリューを無視し、力に任せて無理やり縛り上げる。

「やめて、お願い!! やめてーーー!!!」

 アリューの叫び声がだんだんと大きくなる。怪しまれて誰かに通報でもされたらまずい。

 俺はアリューを縛るだけでなく、猿轡もかませる。

「んーっ! んーっ!!」

 これで、アリューを官邸に行かせずに済む。





 最初、アリューはとにかく暴れ、騒いで、逃げようとしていた。が、しばらくすると諦めたのか静かになった。

「今日、官邸はガルロマーズの軍隊に襲われるから、行っちゃダメだ。」

 俺は、今日既に何度目かになる説明をしていた。アリューは仇でも見るかのような目で俺を見てくる。


 くそっ! 俺だって、こんなことしたくない。でも他にアリューを救う方法が思いつかない!



「んんんー、」

 アリューが何事か言っている。なんだろうか?

「騒ぐなよ?」

 アリューが頷く。俺は猿轡を外す。


「ちょっと、トイレ行きたいんだけど。」

 少し考える。しかしトイレを我慢させるのも無理だろう。

 仕方なく胴体を縛っているロープは解く。両手は縛ったままだ。

「これは外してくれないの?」

「悪い、そのまましてくれ。」

 この部屋の間取りは玄関のすぐ脇がトイレだ。俺はトイレの前まで連れ立って移動する。途端、アリューは一気に玄関の扉に手をかけ逃走を図る!

 すぐに押さえつけ、再び拘束する。

「んぐっ、んーっ!!! んっ!!!」

 猿轡を噛ませる。わが幼馴染ながら、油断ならないな。




 そろそろ15時か・・・・・。

 官邸が襲われ、アリューが殺害されるのが19時ころ。まだ4時間ある・・・・・。


 そんなことを考えていたとき、突然玄関の扉が破られる。

「警備隊だ!」

 武装した警備隊員が数名飛び込んでくる。俺は咄嗟にアリューを抱えて逃げようとした。その時、窓からも警備隊員が飛び込んでくる。

 俺は瞬く間に捕縛され、手錠をかけられた。


 俺はアリューとは別の警備隊車両に乗せられ、警備隊詰所へ連れて行かれた。

 警備隊詰所に着くと取調室へ連行された。私服の警備隊員からアリューを監禁した動機について聴取される。

「えーっと、つまり、17時ごろにガルロマーズが大統領官邸に攻めてくるから、君はアリューさんを監禁したと、そういうことかね?」

「何度も言ってるじゃないですか! だから、みなさんも武器を準備して・・・・・、」

「で、なんでそれを知ってるんだったっけ?」

「だ・か・ら! 今日を何度も繰り返してるから、実際に見たんです!」

 聴取している警備隊員は、まるっきり俺の言葉は信じていないようだ。

 くそっ、こんなところでこんなことをしている場合じゃないのに!!


 その時、外から爆発音が響き、警備隊詰所の建物が大きく揺れる!

「な、なんだ!?」

 俺の取り調べをしていた隊員と、書記をしていた隊員が顔を見合わせる。

 少しの間ののち、

「お前はここでおとなしくしてろ。」

 二人はそう俺に言い残し部屋を出て行った。ご丁寧に外から施錠されている。



 部屋の外に耳を澄ますと、どうやら警備隊詰所の建物内で銃撃戦が始まっているようだ。立て続けの銃撃音が響いている。

 そうか、ここも襲撃される場所だったか・・・、まずい、アリューは今どこに!?



 こうなっては、もはや手段は選んでいられない。俺は扉に何度も体当たりをする。

 だめだ、かなり頑丈な造りだ。体当たりで扉を壊すのは無理そうだ・・・。

 俺は聴取に使っていた机を壊し、脚を外した。机の脚をバール代わりにしてドアノブ周辺を何度も叩く。

 扉を無理やり歪ませ、ボルト部の引っかかりを外して無理やり扉を開いた。だいぶ時間がかかってしまった・・・・。



 普通ならこんなに派手に扉を破壊していたら、すぐに警備隊員が飛んでくるだろうが、今はそれどころではないらしい。

 俺は手錠をはめられたまま廊下に躍り出た。右にも左にも廊下が続いている。また左右を選ぶのか・・・・・。



 俺は左に進む。銃撃音が近くなっている気がする。すると、正面の曲がり角に数名の人間が姿を現す。あれは・・・・・、アリュー!?

 警備隊員5名に守られながら、アリューがこちらに向かって来ようとしていた。

「アリュー、」

 しかし、俺の姿を見て足が止まる。完全に警戒されている。無理もないか・・・。

 警備隊員たちも緊迫した様子で銃を構えている。そうか、俺は取調室から逃亡した逃亡犯だったな、そういえば。



 その時、アリューと警備隊員の後ろから、ガルロマーズの兵隊たちが姿を現す。

「後ろだっ!!!」

 警備隊員は俺が叫ぶより早く後ろに気が付いていたが、それ以上にガルロマーズの兵隊が放つ銃弾の方が早かった。


 警備隊員3名が倒れる。残り2名も銃を構えるが、射撃前にガルロマーズの兵隊により射殺される。

「アリュー!! 逃げろ!!!」

 だが、俺の警告も空しく、アリューが銃撃され、倒れる・・・・・。


 左手、渦巻き模様が光りを放った。






 すぱーん。丸めた雑誌で頭を叩かれた。

「んんがぁ。」

 うつ伏せで寝ていた俺は、がばっと顔を起こした。アリューだ。


「毎日毎日、ちゃんと自分で起きなさいよね。」


 アリューだ。


「・・・? どうしたの? 変な顔して。」


 またダメだった・・・・。あんな手段を取ったのに、失敗した・・・・・。


 俺はふと、武器マニアの同僚を思い出した。



 そうだ、力づくでも、なんとしても、運命を変えてやる・・・・・。

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