7.ドーゼ(3)
すぱーん。丸めた雑誌で頭を叩かれた。
「んんがぁ。」
うつ伏せで寝ていた俺は、がばっと顔を起こした。アリューだ。
「毎日毎日、ちゃんと自分で起きなさいよね。」
アリューだ。
「・・・? どうしたの? 変な顔して。」
ああ、俺はまたダメだった・・・・・、またアリューを死なせてしまった・・・・・。
どうしたらいい、どうすれば救える?
アリューは食卓にあるコンビニ弁当の入れ物を見ている。
「もう、ちゃんとしたご飯食べなきゃだめだよ。」
「あ、アリュー。」
「なぁに?」
「今日、アリューに付いて行きたいんだが、いいか?」
「え?」
俺が何を言っているか分からない、といった表情だ。
「いや、アリューの働いているところ、見てみたいんだ。」
「え、でも、そんな、普通だよ? だいたい、ドーゼも仕事でしょ?」
「今日は・・・・、休みに、なったんだ。代休だよ、ほら、この間休日に出勤したから。」
少々苦しいが、とりあえず取り繕っておく。
「でも、関係者じゃない人は入れないし・・・・・・。」
アリューは相当困惑顔だ。
「そこを何とか! この通り!! 絶対に邪魔しないから!!」
俺は床で土下座をして頼み込む。
「ちょ、ちょっと、やめてよ・・・・。」
アリューは焦って俺を起き上がらせようとするが、俺は頑なに土下座をやめない。
「もぅ、どうしちゃったのよ・・・・・、わかったよ・・・・、でも絶対に見つからないように、こっそりよ。」
「ああ、ありがとう!! 絶対見つからないようにする!」
俺は勢いよく顔を上げて礼を言う。
「ちょっと見たら、すぐ帰ってよ?」
俺は急いで着替え、外で待っていたアリューと合流する。
官邸までの道のりを二人で並んで歩く。こんな普通なことも、今までやろうとはしてなかった。
ただ一緒に歩くだけ。それだけでも今はとても貴重な時間を過ごしているように感じられた。
俺、なんでもっとアリューと過ごす時間を持たなかったんだろう。俺にとってこんなに大切な人なのに・・・・・。
アリューを助けたら、この気持ちを伝えよう・・・・。だから必ず救う。
アリューは先に官邸の中へ入っていった。俺は官邸裏手にある業者向け搬入口の前で待つ。
専用のIDが無いと職員用入口からは入れないからだ。なので、出入り業者の振りをして中に入れてもらう。
道を挟んだ反対側から、業者向け搬入口を見る。トラックがそのまま中に入れるほどの大きな搬入口だ。
その搬入口脇の扉からアリューが顔を出す。俺を見つけると小さく手招きしている。
俺は周りに気を付けつつ、道を渡り、アリューが顔を出していた扉から中へ入る。
アリューは既に着替えており、スカートの長いメイド服を着ている。
ループして何度も見ているが、改めて見ると・・・・・。
「・・・・・かわいい。」
声に出てしまった。
「えっ!? な、なに言ってるの!?」
アリューが赤面しながら慌てている。
「あ、いや、その、普段見ない恰好だから・・・・・。」
もう、やめてよね。と小声でいいつつ、でも満更でもない様子でアリューは先に行ってしまう。
俺は周囲を気にしつつ、アリューに付いていく。
とりあえず、各室の掃除を行うようだ。
道具倉庫から掃除機や埃とり用ワイパーなどを持ち出し、調度品の埃を落としたり、床に掃除機をあてる。
見ているだけも悪い気がしたので、アリューを少し手伝う。
アリューと一緒に掃除をしている。なんだか妙な気分だ。子供のころ学校で一緒に掃除をしていた頃を思い出す。
「アリューさん。」
俺は驚愕して振り向く。そこには、前回話をした執事風の壮年男性が立っていた。
「あ、ど、ドラスマリオさん・・・・・。」
この人はドラスマリオと言うらしい。
「この方はどなたで?」
「あ、その、彼は・・・・。」
しまった、この人には、見つかってはいけなかったようだ・・・・。
「彼は、友人で、その、どうしても私の仕事ぶりを見たいというので・・・・。」
「ドラスマリオさん!」
俺は意を決して、壮年男性あらため、ドラスマリオさんに話かける。
「なんでしょうか?」
「今日、ガルロマーズの軍隊がここを襲撃します。その前にみなさん避難をお願いします。」
ドラスマリオさんは表情を変えない。このあたりは経験豊富な執事という感じがする。
アリューは驚愕に目を見開いた状態で、俺を凝視してくる。ごめん、アリュー、なんとかできる可能性があるなら、試したいんだ。
「ずいぶんと、奇妙なことをおっしゃいますな。そのような動きがあれば、既に政府機関が把握していることでしょう。」
ドラスマリオさんは少し間を開け、さらに続けた。
「しかし、私はそういったお話は伺っておりませんし、避難も指示されておりません。あなたは政府の専用機関よりも、そういった情報にお詳しいので?」
未来を見てきたんだから間違いない。しかし、どうやって説明しようか。どう言い募っても信じてもらえそうにない・・・。
思い切って言い出してみたが、少々早まったかもしれない。
しかし言い出してしまった以上、押し切るしかない!!
「信じられないかもしれませんが、事実なんです!!」
ドラスマリオさんの表情に、初めてわずかに困惑が浮かんだ。
「うーむ・・・・・、根拠もなく、とても信じられる話ではありませんが、念のため、大統領補佐官にお伝えしておきます。」
「あ、ありがとうございます!」
ドラスマリオさんはそこまで言うと、アリューに向き直る。
「アリューさん、ここは関係者以外立ち入り禁止です。」
「はい。」
アリューはやや俯きつつ聞いている。顔はかなり無表情だ。
「今日のところは、私の心だけにとどめておきます。彼にはすぐにお帰りいただいてください。」
「はい、わかりました。どうもすみませんでした。」
俺もアリューと一緒に謝罪しておく。
「俺が、無理言ってついてきてしまったんです。どうもすみませんでした。」
ドラスマリオさんはため息を一つ、そして背を向けて歩いて行った。
「えっと、その、ごめん。」
アリューは無言だ。
無言のまま、アリューに促され、俺は業者向け搬入口から外へでる。
アリューは何も言わず、扉を閉めてしまった。
当然だが、かなり怒らせてしまったようだ。俺としてもこんなことは本意ではない。
それでも、アリューが助かる可能性があるなら何でもやってやる。
アリューを助けたら、今日のことはとにかく謝罪しよう。そのためにも、なんとしてもアリューを救う。
俺は再び道を渡り、業者が来るのを待った。搬入に紛れて再び中へ入り込もう。
アリューに外へ追い出されてから、かなり時間が経った。どうしよう。たびたび業者は来るんだが、忍び込めない。
大統領官邸だけあって、業者の出入りチェックは厳重だ。
朝、中へ入り込めたのは、アリューに手引きしてもらったからこそのようだ。
早くしないと、そろそろガルロマーズが攻めてくる時間になってしまう。こうなったら、また車で無理やり突入するか・・・・。
そこで俺はふと気がついた。別に無理して官邸に忍び込む必要はないかもしれない。
官邸の広い庭、大統領が跪いている。その後ろにはアリュー含む使用人たちが並んでいる。
大統領の頭が打ち抜かれた瞬間、俺は車で官邸の庭に突入する。
ガルロマーズの兵隊たちが車に銃撃を浴びせてくる。まずい、壊れそうだ!
何とかアリューの前に車を止め、運転席から飛び出す。
「アリュー!!」
「えっ!? ドーゼ!?」
アリューに飛びつき、後ろ手に縛られているのも構わず立たせる!
「早く!」
アリューを連れて車で逃げる!
アリューの腕を引き、車に向き直った瞬間、上空の無音ヘリから銃弾の雨が降る!!
車は紙細工のように穴だらけになり、爆発炎上した。
まずい、逃げる足を失った。こうなったら、走ってでも逃げる!
「走るぞ、アリュー・・・・、」
振り返ると、アリューは車のボディの破片を胸に受けていた。
「あ、ご、ごめん・・・・ね、ドーゼ・・・・・。」
「あ、あ、あ、」
俺は声が出なかった・・・・・。
左手、渦巻き模様が光りを放った。
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