4.リック(5)~(12)

「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は焦って水鏡を閉じた。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。


「ああああああああ!?、あん!?」

 何が起こったかわからず、俺は奇声を上げた。周囲からおかしな顔で見られている。

 それでさえ恐ろしいことになっていたウエイトレスの視線が、さらに大変なことになっている。

 俺はサービスされたコーヒーを分捕り、ウエイトレスの目を見ないようにしてすすった。

 ウエイトレスは、大層怪訝な様子で去って行った。


 これはどういうことだ? 何がおきた? 仕事はうまくいった。また戻ったのか!?

 せっかく、いい酒飲んで、いい気分になってたのに・・・・・。


 さすがに萎えた。俺もういい。


「いいか、10時になったら・・・・・・」

「わかっている。」

「・・・・30分後に、俺がアレを・・・・・」

「・・・・・」

「水中地区の・・・・・・」


 もう、お前らも勝手にしてくれ。

 俺はダイナーを出て、巡回潜水艦乗り場へ行く。海上ポータル行きの乗合潜水艦に乗船した。


 今回はサロマナに帰って寝よう。






「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じた。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。


 俺はサービスされたコーヒーを分捕り、ウエイトレスに目も向けずにすすった。

 ウエイトレスは、不機嫌そうな様子で去って行った。


 なんとなく、嫌な予感はしてたんだが、当ってしまった。何もしてない。何もしてないのに戻る。

 恐らく何かのレガシによる現象だが、俺は"想起の水鏡"の能力で巻き込まれているんだろう。はた迷惑な・・・・・。


 水鏡を起動する。この水鏡は過去しか映らない。だが、何かの影響で俺が記憶を持ってループしているなら・・・・・・。

 今日の俺が映った。サロマナに帰り、不貞寝している俺だ。

 そう、過去に経験した、"未来"の俺が映っている。しかし"前回"より前は映らない。今回の周回で上書きされていくようだ。


 これが手掛かりになるか? このループの原因になっているレガシを探し出して止める。そうしないと俺はこのループを抜け出せない!!


 俺は船でアクトルガスを出立し、水鏡を確認しながら、周辺星系を調べまわった。




「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じた。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。

 静止しているウエイトレスを尻目に、即ダイナーを出る。海上ポータルへ移動、再び船に乗る。次は逆の方角を調べる。




「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じた。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。

 静止しているウエイトレスを尻目に、即ダイナーを出る。海上ポータルへ移動、再び船に乗る。次はもっと遠くを。




「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じた。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。

 静止しているウエイトレスを尻目に、即ダイナーを出る。海上ポータルへ移動、再び船に乗る。次は・・・・・。



「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じた。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。


 ああ・・・・、これ何回目だ? 10回か、11回か?

 結局、あちこち飛び回り、水鏡で見て回ってみた。しかし何も手がかりが無い。前回の"未来"が見えても結局何もわからない。



 俺はダイナーから出て、近くの酒場に入る。

「なんでもいい、強い酒くれ。」

 ヤケ酒だ・・・・・。





「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じた。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。


 俺はダイナーから出て、再び近くの酒場に入る。

「強い酒くれ。」





「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じた。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。


 俺はサービスされたコーヒーを分捕り、ウエイトレスに目も向けずにすすった。

 ウエイトレスは、不機嫌そうな様子で去って行った。


 このままじゃ永遠に脱出できない・・・・・・。



====================



「ラファちゃんにも、勇介君同様の処置を施すよ。」

 僕らは今、地球にいる。

 ラファは僕の婚約者として同行することが許可された。しかし、レガシハンターとして活動する上では、やはり身体強化は必要だ。

 彼女のフォースロードとしての能力はデウスマキナのもたらす影響下限定だ。一旦ミルーシャから出てしまうと、ただの女の子になってしまう。


 なので、ラファにも僕同様の処置を行ってもらうべく、一旦地球に戻ってきたのだ。

「それと、ラファちゃんはミルーシャでは主に直剣を使った戦いをしていたんだよね? ということで、専用の武器を準備しておくよ。」

 さすがRim、いろいろと気が利く。


「ん? 勇介君に来客だよ。」

「え? 誰ですか?」

「リックと名乗っているね。」




 僕は宇宙船ドックに赴く。

「よぅ、ユウ、久しぶりだな。」

 接舷した小型艇から、リックが片手を上げながら降りてきた。

「久しぶり・・・・。僕としても、こう堂々と乗り込んで来られると対処に困るんだけど。一応、レイヴンはお尋ね者だと思うんだが・・・。」

 レイヴンは盗賊として、銀河連邦で手配されている。

 すると、リックは右手を掲げる。そこには"想起の水鏡"を持っていた。

「すまねぇ、どうしても協力してほしいことがある。手伝ってくれたら、水鏡は渡す。」

 リックが取り引きを申し出てきた。リックの取り引きって、信用していいのか悩むんだよね・・・・・。

「・・・・・・、とりあえず、話を聞こうか。」





 中央設備棟の談話ルームにて、リックから一連の状況を聞いた。ちなみにラファは既に処置が開始されており、ここにはいない。

「10周以上ループしてると?」

「ああ。それで、原因を探すのを手伝ってほしい。」

 リックはずいぶんと神妙だ。延々と続くループにかなりまいっているようだ。

「といわれてもなぁ、どうやって調べるか・・・・・・。」


「ちょっと、借りてもいいかな?」

 少し離れて聞いていたRimが歩み寄ってくる。

 水鏡をリックから受け取り、蓋を開けて覗き込む。

「・・・・・・、確かに、未来の様子が確認できるね。」

 そう言ったきり、Rimはしばらく黙って水鏡を見続けた。Rimが覗き込む水鏡に映像が、ものすごい勢いで切り替わっている。何かを調べてる?


「うん、わかった。」

「え!!」

「なに!?」

 僕とリックは、そろって驚嘆の声を上げた。


「宇宙各地の映像を確認した。記録されている映像の長さに、極わずかだけど差がみられる。おそらくはループの影響が伝播していく時間差なんじゃないかな。」

「ということは?」

 僕は先を促すように、Rimに問いかける。

「だから、記録されている映像が一番短い場所が、この事態の中心地だ。」

 そういって、Rimは水鏡を僕たちに向ける。

 水鏡には、黒髪を短く刈り込み、がっちりした体格の男が映っている。

 射撃練習をしているんだろうか? ちらりと見えた男の左手、手のひらには渦巻き模様が付いていた。


「おそらく中心地は彼だ。」

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