3.リック(3)(4)

「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は焦って水鏡を閉じた。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。


「ああ、ありがとう。」

 早々にウエイトレスを追っ払う。


 これはどうしたらいいのだろうか。間違いなく時間が戻った。仕事に失敗したからか?

 いいだろう。今度こそやってやる。




 もう、尾行はしない。毎回同じなのはわかった。俺は事前準備を済ませ奴らが来るのを待ち伏せる。

 午後三時過ぎ、巨大な金庫頭が近づいてくる。予定通りだ。


 運搬用潜水艦の後方ハッチが展開され、金庫の巨人はそこに頭を突っ込む。胴体部が崩れ落ちた。

 俺は他の潜水艦の影に隠れて奴らの作業を見守る。後方のハッチが閉じられ、潜水艦が動き出す。


 さて、んじゃ行きますか。

 俺は携帯式魚雷発射管を構える。携帯式対戦車ロケットのように肩に担いで発射する魚雷発射管だ。

 発射管横に取り付けられているサイトを覗き、奴らの運搬用潜水艦をロックオン。魚雷を発射する。


 魚雷後部のスクリューが推進を生み出し、潜水艦に向け突進する。潜水艦後方に着弾し衝撃波が広がる。衝撃で周囲の潜水艦が潰れて崩壊する。

 俺もうっかり吹き飛ばされそうになった。少しばかり周りに被害が出てしまったが・・・・・、気が付かないフリしとこう。


 魚雷はあと二本用意していたので、それも発射しておく。二発目は潜水艦の前方部、三発目は一発目の穴の中へ入り込み、潜水艦を内部から爆破した。




 少々やりすぎたか・・・・。奴らの潜水艦はバラバラだ。周囲の潜水艦もバラバラだ。

 具体的な状況は伏せるが、盗賊団も全滅した。いろいろと漂ってた。


 残骸の中に金庫が残っている。さすが銀行の金庫、頑丈だな。


 さて、金庫をどうするか考えてなかったな。

 とりあえず、その辺に落ちている鉄パイプを拾って、ぶっ叩く。だめだ。

 金庫の扉に差し込み、テコの原理で開けないか試してみる。開かない。

 動かせないか試してみる。押す、動かない。引く、動かない・・・・・・・。

 俺一人で運ぶには、大きすぎるな。



 その辺の潜水艦で引っ張るか。どれか動くやつ。

 俺はまだ無事な潜水艦をあれこれ物色する。どれもちゃんとロックがかかっている。ハッチが開かない。

 さっき拾った鉄パイプでドアをこじ開けられないか試す・・・・・・・。


 警報音が周囲から鳴り響く。警備艇が10艇ほど周囲に停止する。中からアクトルガス人の警備隊員がゾロゾロと出てくる。

「動くな!!」

 数十人の警備隊が、俺に向けて水中銃を構えている。俺は両手を上げた。




 留置場の鉄格子が締められた。一応、身の潔白を訴えてみる。

「いや、銀行を襲ったのは俺じゃないっての。」

 俺をここまで連行した警備隊員二名が、「なにいってんの?」と言いたげな表情で俺を見ている。


 しまったな。盗賊団を倒すことしか考えてなかった。次はもう少し、後のことも考えておこう・・・・・・。

 しかし、これでまたループしなかったら、俺詰むな。


 俺は留置場で来ないはずの明日を考えつつ、いや、来られたら困る明日にヒヤヒヤしつつ、時間をつぶす。

 鉄格子の外、壁に掛けられている時計を見る。19時を回った。そろそろ・・・・・・・。





「ああ~ん」

 ダイナーに嬌声が響き渡る。俺は水鏡を閉じる。

 すぐ横で俺にコーヒーをサービスしていたウエイトレスが固まっている。


「ああ、ありがとう。」

 早々にウエイトレスを追っ払う。さすがに慣れた。


 今度はもう少しマシな方法にしよう。




 俺は事前準備を済ませ、奴らが来るのを待ち伏せる。

 午後三時過ぎ、巨大な金庫頭が近づいてくる。相変わらず予定通りだ。


 運搬用潜水艦の後方ハッチが展開され、金庫の巨人はそこに頭を突っ込んだであろう、衝撃が伝わってくる。

 皮ジャケットの人形二人組が、潜水艦の運転室へやってきた。

 後方ハッチが閉じる音、続けてモーター音。格納庫内の排水ポンプが動いているようだ。



 俺はリモコンのスイッチを入れる。潜水艦船内に爆発音が響く。格納庫に仕掛けた小型爆弾だ。これで、金髪男とローブ姿の人形は片付いただろう。

 人形二人組は音に動じることもなく、潜水艦を操作し続けている。

 俺はプラズマナイフを起動し、一人の背後に歩み寄る。俺は潜水艦運転室に潜んで待ち伏せていた。


 プラズマアークの刃で手早く両手を落とし、続けて頭部を斬り落とす。このくらいしておけば、さすがに動けまい。

 もう一人が俺に気付く。飛びかかってくるのに合わせ、こちらも両手と首を落とす。対処が分かっていれば、こいつら大したことないな。



 潜水艦ごといただけたので、このままトンズラさせてもらおう。

 潜水艦の自動運転装置で海上ポータルを目指す。海上ポータルとは、アクトルガスの宇宙港などが設置されている人工島だ。俺の船もそこに停泊している。



 さて、ポータルに着くまでに、金庫の中身とご対面しようか。俺は潜水艦の格納庫に移動した。爆弾はしっかり仕事をしてくれたようだ。


 通常、銀行の金庫は電磁防壁が展開されている。しかし、建物から無理やり引きちぎられてきた状態であるこの金庫は、電磁防壁が切れている。これならプラズマアークで斬れる。

 プラズマナイフで金庫の扉を焼切る。扉を外すと、中身は散乱し、ひどい状態だ。


 金目の物を物色するか。俺一人では全部は持っていけないからな。お、これは宝石か。こっちには貴金属だな。


 そういえば、サロマニック商会のドニスガルは何が目的で金庫破りをしたんだ? 儲かってそうだったし、金目当てではないだろう。

 そんなことを考えつつ、金庫を漁っていると、奇妙な物体があった。

「銀色の卵?」

 直径20cmほどの卵だ。金属のような銀色一色で、殻はかなり固そうだ。金庫の中身が散々シェイクされても壊れていない。


 金目の物・・・・・、なのか?

 とりあえず持って行ってみるか。





 潜水艦が浮上する。海上ポータルに着いたようだ。船舶用ドックへ入る。潜水艦とはここでおさらばだ。俺は手ぶらで潜水艦を下りる。

 俺の船は宇宙艇ドックに停めてある。出立手続きをし、俺は自分の船で海上ポータルを出た。


 しばらく海上を飛行し、波間に漂う布袋を拾い上げる。戦利品はここに浮かべておいたのだ。

 そのまま大気圏を離脱。俺はアクトルガスを後にした。



 いろいろあったが、何とかうまくいったな。それにしても、これは水鏡の新しい力なのか? 俺、何かやったっけ? まあ、追々調べてみるか。

 とりあえず、戦利品はサロマナの闇市で捌いて金に換えよう。

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