19.怪獣大決戦
目覚めると、ソレイユの医務室だった。無重力状態であることから、今は地上ではないらしい。
『おはようございます。』
「おはよう、アイ、今は宇宙?」
『はい、補給物資の受け取りもございましたため、衛星軌道を周回しています。補給は完了しています。』
どうやら、サイトウさんによる修理は無事完了し、航行能力も復活したようだ。
起き上がり、少し手足を動かしてみる、特に違和感は感じない。
『治療処置は完了しており、現在回復率は96%です。一部内臓で治療未完の箇所が残っていますが、出撃には問題ありません。』
ほぼ万全の体調にはなったかな。では、デウスマキナの場所まで行くとして・・・・・、
『緊急での報告事項があります。』
「はい?」
『約15分前、"捕食者"の復活を確認。現在ガイラ様が交戦中です。』
「なんだって!?」
僕は急いでブリッジへ移動する。
「状況を!!」
スクリーンに、惑星の全景が映し出され、一部分が拡大されていく。
『約16分前、強力な重力震を検知。小の月が地上に転移しました。観測から、小の月が"捕食者"本体であることが判明しました。』
遠距離の観測映像には、巨大な怪獣のようなものが映し出されている。
「緊急出撃!! 新型も出す!」
僕は、重火力搭載型エグゾスーツ装備で大気圏に突入した。
大気圏突入の最中、地上に閃光が走るのが見えた。天墜の梢を彷彿とさせる線状の光、嫌な予感しかしない。
対象までの距離が残り2000mを切った。最大望遠で確認する。
巨大怪獣"捕食者"、全身銀色の歪んだドラゴンのような形状をしている。その目の前にはクレーター状の穴、その中心部に人影、拡大、あれは・・・・・・・、ラファ!?
捕食者の口腔が開き、内部から光が漏れている、明らかな発射体勢!
「シールド!!」
追従させていた1つ目のコンテナを展開、内部のフライングシールド40枚を展開、そのうち10枚を先行させる。シールド10枚は超重力により強引に加速され、衝撃波を残して飛び去る
10枚でラファの前に重力場電磁防壁を構成する。間に合え!!
捕食者から閃光が放出される。照射寸前で防壁が間に合った。防壁が閃光と衝突し拡散する。エネルギーの余波が周囲に飛び散っている。
防壁の消失とほぼ同時、僕は減速もほどほどに、墜落するように着地した。着地の衝撃が全身を走る。地面はやや陥没していた。
立ち上がり捕食者と相対する。ちらりと後ろのラファを確認した。
全身血に塗れ、体中が傷だらけだ。鎧は全てが削り取られ、服もほとんどない半裸の状態。左腕はおかしな方向に曲がっている。
僕は全身の血が沸き立つのを感じた。
『対象群からの敵性行動を確認、攻撃対象は無差別と確認、』
周囲には、全身黒いやつらが取り囲むように集まってくる。捕食者の眷属か。
『対象群を危険度災害級の敵性勢力と断定、銀河連邦管理者へ攻撃許可要請・・・・・』
おまえら・・・・・
『要請承認、破壊許可。』
「おまえら、一人残らず破壊する。」
絶対に許さない。
「お、お前は、イレギュラー!? 生きていたのか!?」
誰だかわからないが、顔が見えている眷族が話しかけてくる。
僕は、相手にせず、戦闘行動を開始する。
シールド30枚、全展開。10枚はラファの周りに滞空させる、もう、傷つけさせない。
僕は離陸すると、空中で両腰の50mm砲、両手両足両側頭部のレーザー砲を全て展開、一斉射撃を開始する。
周囲の眷属を乱れ撃ちつつ、接近した眷属は両手のプラズマダガーで切り裂く。捕食者が巨大な右腕を振り下ろしてくる。下にはラファが居る。避けない。止める!!
シールド10枚を消耗し重力場電磁防壁を展開、捕食者の右腕をせき止める。捕食者が動きを止めている間に、グラビトンレイをチャージ。捕食者の胴体めがけて撃ち放つ。
捕食者の胴体に10m以上はあろうかという大穴が穿たれる。
捕食者が耳障りな鳴き声を上げる。
「ああああああ、主様!!!!」
顔が見えている眷属が嘆いている。
それでも捕食者は回復する。あれだけの大穴も数秒で回復か、異常な回復力だ。あの回復速度は厄介だな・・・・・・。
次々襲ってくる眷族を、撃ち抜き、切り裂き、吹き飛ばす。
上空に大型コンテナが到着する。
「それなら、回復の間に合わない速度で分解する。」
大型コンテナが上空で展開、新装備、全高15mの巨人が着地する。
重火力搭載機動型エグゾスーツ「ドレッドノート」
全高15m 重量約70t、150mm砲、大型レーザー砲など、重火力搭載型を超える火力を有した機動兵器だ。
僕は胸上部、ハッチ内部にあるドッキングブースに搭乗し、接続。アイがドレッドノートとリンクする。
『ドレッドノート起動しました。』
6基の重力子ジェネレータが唸りを上げる。補充された分も加えたフライングシールド50枚を展開。ドレッドノートは浮上し、捕食者に向け吶喊する。
接近してくる眷属を、全身各所の大型レーザー砲で撃ち落す。
捕食者はかなり大きい。ドレッドノートは巨大だが、それに比べても更に巨大だ。だが!
両手に内蔵されているブレードを展開、プラズマアークの刃を発生させる。
捕食者は右腕を掲げ、振り下ろしてくる。腕が落ちきる前に接近、ブレードを交差し右腕を切断。
悲鳴を上げながらも尻尾を振り回し、横薙ぎに払ってくる。150mm砲を当て、動きが鈍ったところをブレードで切り落とす。
ドレッドノートの重力ドライブを吹かす。左側に回りこむ、左手を切り落とす、股下にもぐりこむ、両足を切断、顎を蹴り上げる。首を切り落とす、前から胴体を切る、後ろから切る、右から切る、左から切る、また前から切る。切る、切る、切る切る!!!
転げる捕食者の胴体、だが、まだ再生していく。どこまでやってもやはり回復するようだ。
捕食者は金切り声を上げている。
「一気に分解する!」
Gプリズン、フライングシールド5枚のエネルギーコンデンサを直列接続、リング状に並べ、拘束壁を展開する。
捕食者の両手両足、首、尻尾の全6か所をGプリズンで拘束、動きを止める。捕食者の全身をプラズマブレードで切り刻みつつ、Gプリズンを展開していたのだ。
「アイ、残り20枚で眷属の足止めしつつ、グラビトンテンペストだ!」
『かしこまりました。』
20枚のシールドが散開し、眷属を牽制する。
『グラビトンテンペスト、発射体勢に移行します。』
ドレッドノートの姿勢が固定される。
『SDモード起動・・・・、直列重力子コンデンサを重力子圧縮システムに直結、連装チェンバーへのエネルギー供給開始、キャノンバレル展開、』
両肩に搭載されているグラビトンレイ2門が捕食者に向けて展開される。
『反動制御用重力アンカー発射、連装チェンバー1番から20番まで充填100%、発射どうぞ。』
「いっけぇ!!」
Gプリズンで身動きの取れない捕食者に向け、グラビトンテンペストをお見舞いする。両肩のキャノンからグラビトンレイを乱射する。捕食者の体を次々に削り取っていく。並列されたグラビトンチェンバーを空になる都度充填し、グラビトンレイを連発する。Gravity Engine Powerの数値が急速に減少、捕食者の巨体は見る間に削り取られ、小さくなっていく。
数十発撃ちこんだところで、キャノンバレルからの重力子弾放出が止まる。
『グラビトンテンペスト、発射体勢解除。』
グラビトンレイの銃身は背中に格納され、姿勢の固定が解除される。
捕食者の巨体は、既に無残な状態だ。Gプリズンも1基を残して、グラビトンテンペストの猛攻により消滅している。
残った1基のGプリズンに近づく。そこには、白い人型の何かが拘束されていた。
「これが、捕食者の本体なのか?」
Gプリズンの効果により回復が妨害されているのか、先ほどまでのような超回復は発動せず、巨体には戻らない。しかし、この白い人型だけは即回復するらしい。グラビトンテンペストで何発撃ちこんでも、この人型だけは維持されていた。
途端、捕食者本体は恐ろしい叫び声を上げる。
「主様ぁぁぁぁ!!!!」
残っていた眷属たちが捕食者本体に向け、一斉に飛び込んでくる。残ったシールドで飛び込んでくる眷属を落とすが、眷属は僕を無視し、捕食者本体へ殺到した!
「あれは、眷属を取り込んでいる!?」
眷属たちの体当たりでGプリズンが破壊される。すべての眷属を取り込んだ捕食者は、再び肥大化を始める。
僕は砲撃を加えつつ、プラズマブレードで切り付ける。しかしブレードは捕食者の左手で受け止められる。
捕食者の両手が白熱し、電撃を迸らせ、プラズマブレードを掴んでいる。何かの術法か!?
捕食者の肥大化は20m程度で止まった。姿は200m超の時と同じだ。どうやら大きすぎるとドレッドノートに対応できないと感じたようだ。
左右のブレードで立て続けに切り付ける、が、白熱する両手で止められる。大型レーザー砲を連発しつつ距離を取る。150mm砲で・・・、一気に接近され、150mm砲の砲身が引き裂かれる、速い!! こちらはSDモードの後遺症で出力が落ちている。攻めきれない。
レーザーを撃ちこみつつ、右ブレードで突く。捕食者の左手を貫通した。そのまま、腕を掴まれる。右腕の関節部からアラートが上がる。ギチギチと軋むような音がスーツ内に響く。
左ブレードで斬る! 捕食者の脇腹を切りつけるが、腕を抱え込まれ抑えられる。こちらも締め上げられ、腕が軋む。
捕食者が口を開ける、口腔内から大量の触手が伸び、ドレッドノートの上半身に纏わり付いてくる。
『危険! 外部装甲が溶解しています。内部に侵入されます。制御系回線断線、回線から記憶領域にアクセスされます。記憶領域を精査されています。』
物理侵入から、システムに侵入されている。
「こうやって捕食するのか!!!」
ドレッドノートが激しくアラートを挙げている。マズイ、このままだと僕本体へも侵入される!
「・・・・・・、こう来ると思っていた・・・・。アイ、接続開始だ。」
『銀河連邦管理者へ接続、超高速演算システムからの情報送信準備完了。ジアース連邦住民管理システムへ接続、超高速演算システムからの情報送信準備完了・・・・、情報送信開始。』
管理者とRimが持つ管理システムの演算機能を展開し、僕を経由して、無意味なデータを大量に流す! DDoS攻撃、宇宙最大規模の演算システム2台による、情報の飽和攻撃だ!!
捕食者の体が一瞬ビクリと震えた。体がノイズの様に波立つ。大量のデータを受け取っている捕食者は、体のノイズが徐々に激しくなる。
「通信システムとドレッドノートを残し、ドッキングアウト!」
『システム分離、ドッキングアウト!』
僕はドレッドノートのドッキングブースから飛び出す。
捕食者は奇妙な鳴き声を上げている。
捕食者は全身が白濁し、ひび割れだらけになっている。
グラビトンレイをチャージ。
「宣言通りだ。一人残らず破壊する。」
僕は、捕食者に撃ちこんだ。
捕食者は分解され、霞のように消えていった。
『反応消失。"捕食者"は完全に消滅しました。』
「ふぅ。」
僕は一息ついた。捕食者の能力や傾向は、事前にタナカさんに聞いていた。なので勝算はあったけど、正直ギリギリだった。
「そうだ、ラファは!」
僕は上昇し、ラファを探す。居た! ルーシアさんが一緒にいる。
ラファの手前5mほどに着地し、エグゾスーツの装備解除をする。スーツは直立したまま停止する。
ラファは地面に座り込み、ケープのような布が肩から掛けられている。横には、ルーシアさんが寄り添い、回復術法を施しているようだ。先ほどよりは具合は良さそうに見える。
僕はラファに駆け寄り、片膝を付けて、声をかけた。
「ラファ・・・・、大丈夫か?」
ラファは僕の顔を見て頷き、そのまま俯いてしまった。ルーシアさんがそっと居なくなった。
しばしの沈黙。えーっとどうしよう、何から話したらいいか・・・・・。
「その・・・・、遅くなってごめん。」
頷く。
再び沈黙。
「すごく、」
「は、はい!」
管理者と話すときより緊張してきた。
「すごく、探したんだよ・・・・。」
僕が落下した後、必死に捜索してくれていたのか・・・・、たぶんダークマターが連れ去ってたな・・・・・。
「ご、ごめん。」
「私より、先に死なないって、言ったのに、・・・・・・。」
言ったな、確かに。でも、一応生きてはいたんだよ、一応・・・・・。
ラファの立場から見れば死んだとしか思えないか・・・・。
「連絡が遅れて、ごめん・・・。」
「私のこと、護ってくれるっていったのに・・・・・・。」
言った・・・・・か? 言ったような、そうでもないような・・・・。
「うっ、うん、ごめん。」
「たくさん、一人で戦ったんだよ・・・・・・。」
おお、ぐいぐい、責めてくるな・・・・。
「その・・・・、ごめん。」
「痛かったし、血もたくさん、出たんだよ・・・・・・。」
うう、そろそろ僕のライフが0になりそうだ・・・・・。
「えぇっと、その、ごめん。」
さっきから、ごめん以外言ってないな・・・・。
ラファが顔を上げる。無理やりな笑顔だ。涙と血と泥でひどい有様だけど、僕には輝いて見えた。
「いい、生きていて、くれたから・・・・、許す。」
ラファは僕の胸に頭を付ける。微かにすすり泣く声が聞こえた。
僕はそっと、ラファを撫でた。
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