18.ミルーシャ・リアル
夕暮れだ。教室に一人。放課後までしっかり居眠りしてしまったらしい。
ひどいな、誰も起こしてくれないなんて・・・・・・。
「勇介君、まさか、まだ寝てるとは思わなかったよ!」
まだ誰か残っていたみたいだ。女子だけど、名前なんだっけ? なんか見たことある気がする。声は聞き覚えがあるんだよなぁ・・・・・・・・。
「ほんと、世話が焼けるんだから、」
「ご、ごめん・・・・・・・。」
「ちゃんとしっかりしてよね!」
「・・・・・・・。」
「もう、私が気にしてないとダメなんだから。」
「そうですね、アイさん、いつもありがとうございます。」
「そんなんじゃ・・・・・・・・・・あ。」
「いつもいつもお世話になりっぱなしで。」
女子はものすごく不満げな表情だ。
「もう気づいてしまったんですか? からかい甲斐が無いですね。」
女子の姿が変わる。管理者に良く似た、けれど全体に薄い赤っぽい色の妙齢の女性になる。
アイさんとしても、女子高校生の恰好は少々恥ずかしかったらしく、妙にソワソワしている。
「何の目的で、こんなドッキリしかけたんですか。というか、そっちの姿が本当の姿ですか?」
「この姿は、音声設定と、私のキャラクターに合わせて生成したものです。」
ドッキリについてのコメントは無しですか。そうですか。「私のキャラクター」って、そんなキャラ付けって、あったのですね・・・・。
「さっきの女子高校生の姿は、誰かモデルが居るんですか? なんか見覚えある気がしましたが。」
「勇介様の趣味、趣向、現在の好意傾向などを分析し、形成しました。」
ドッキリのためにやたら手の込んだことをしていらっしゃる。
「どことなくラファさんに似ていましたね。」
「・・・・・・・・。」
「それで、なんで学校なのですか?」
「なんと、ここは仮想世界なのです!」
「・・・・・・。いや、知ってますけど。」
「ドッキリであまり驚いてくれなかったのですから、そういうところでビックリを提供してください。」
何を期待してるんですか、まったく。
「勇介様の肉体は、現在大変なことになっておりますので、事情説明など行いやすいように、このような場所を準備いたしました。」
「え、肉体が大変なこと!?」
そこが今日一番のビックリだ!
なんだっけ、えーっと、そうだ、ガイラさんに両断されて、落ちたところまでは覚えてる。
「重度の肉体的損傷が発生いたしました。重要器官である心肺機能のほとんどが損壊。消化器官の多くにも損傷を受けています。」
「それって、普通は死んでますよね・・・・・?」
「はい、普通は死にます。現在も心臓は稼働しておりません。」
なかなかにショッキング。稼働していないはずの心臓がドキドキしてきた。
「損傷が激しい器官は、勇介様の幹細胞を元に、現在急速培養中です。損傷が比較的軽度な組織はセルグリッドにより補修中です。」
再生医療を全力実施中だそうです。
「僕、怪我してからどのくらい時間が経ったんですか?」
「現在117時間経過、おおよそ5日です。肉体の修復はあと10時間ほどで終了予定です。」
もう、5日も経っているのか。
「ラファには・・・・?」
「連絡手段が無く、ラファ様には連絡できておりません。」
そうか・・・・・、5日も音信不通か・・・・・。
相当心配させてるかな・・・・・、してるよね? あまり気にしてなかったら、それはそれで悲しい・・・・。
もし、相当心配かけてるとしたら、僕回復した後に再度死ぬかもしれない。
「んで、僕はあと10時間くらい、ここで待ってればいいの?」
「いえ、お会いいただきたい方がおります。」
そういうと、管理者が姿を現す。
「ひゃい!」
「なんという反応ですか。女性が現れて悲鳴を上げるとは、失礼この上ない。」
「いや、その、ごめんなさい。」
素直に謝る。管理者は仕方ないといった表情だ。
「大変な目に遭ったようですね。苦労を掛けます。」
「あ、その、いえ」
労いだと!? 意外だ。
「アイから状況は聞いています。かなり逼迫した状況のようですが、残念ながら、あまり手助けはできそうにありません。」
「え?」
「この惑星は空間的に隔離されており、Gネットの接続すら容易ではありません。」
やっぱり、なにかGネットを遮断するような状況があるのか。
「幸い、あなたが飛び込んだ穴が、一日に数秒間だけ発生することが確認できています。その穴に補給船を突入させることで、最低限の物資は送ることができます。」
僕はなかなかレアな穴に落ちたみたいだ。
「その惑星の詳しい状況については、この者から・・・・・。」
他にも誰かいるの?
教室の隅、日陰の中から、黒い影が出てくる。
影から出たのに真っ黒だ。人影というのが適切か・・・・・。
「おじゃまするよ。」
「あ、え?」
「初めましてかな、ワシはダークマター、四天王の1人と言えば分りやすいかのぅ。」
「あ、どうも、ユウです。」
四天王最後の1人ってやつかな。ゲームとかだと、最強だったりするんだけど、なんだかそんな雰囲気じゃないな。
「話があるのは、ワシじゃないんじゃ、ちょっとまて、変わるからの。」
ダークマターはごにょごにょとつぶやいた。
「私はタナカという。はじめまして。」
「あ、天草勇介です、よろしく。」
なにやら唐突に雰囲気が変わった。
「私は、この世界、ミルーシャの開発者だ。」
この世界はやはり人為的な加工がなされていたか。それにしても、タナカさんて、すごく和風な名前ですね・・・・・。
「いや、正確には開発者だった者というべきか。生前、タナカはもしもの時のために、人格をコピーしてダークマターの中に残しておいたのだ。」
今がその「もしも」の時なのか?
「ここは、元はアミューズメントパークだったのだ。」
タナカさんの話を要約すると、約1000年前、ここは元々「フルリアルMMORPG ミルーシャ・リアル」という体験型アミューズメントパークになる予定だった。
彼らの母星で発掘されたデウスマキナは、指定空間内にいろいろな世界を実現することができる、という機能を持っていた。その力を利用し、この惑星を改造したらしい。
これ、デウスマキナは明らかにレガシだな・・・・・・。
そしてオープン直前、彼らの母星は突発的テロとその報復の応酬で一気に惑星環境が悪化した。それから逃れるために一部の人間がここへ移住してきたそうだ。
「元ゲーム用NPCと移住者の混血も進み、ミルーシャは第二の故郷となるべく繁栄するはずだった。だが、元のゲーム設定が残されているために、人口増減が制限されていたり、種族対立が根強く残ってしまっているのだ。」
「それはつまり、ブレイヴやダークロードが発生するのも、元のゲーム設定が残っているため、ということですか。」
「その通りだ。」
タナカさんは神妙な雰囲気で肯定した。真っ黒で表情はわからないが。
ということは、デウスマキナの設定を修正できれば、ブレイヴやダークロードの発生を止めたり、種族対立を緩和したりできるってことか。
「移住にあたり、私もそれら設定を改変しようとはしたのだ。」
タナカさんが過去を振り返るように続ける。
「元々はゲーム用に構築していた設定では、人が定住するには不便だった。だから設定にさまざまな修正を加えた。だがその結果、システムに重大なバグが発生した。そして捕食者が生まれてしまった。」
「捕食者?」
「捕食者は、当初ただのNPCだった。だが不具合により、捕食したモノの能力を獲得するという能力を有していた。」
能力を強奪する能力。雪だるま式に悲惨な状況になるのが目に見える。
「様々な物や生物を捕食し、取り込み、その能力を自分のモノとしていった結果、とんでもない怪物となってしまった。」
住みやすくするために、設定をいじった結果、不具合が発生し、何でも喰い荒らす捕食者が誕生したと。
「惑星全体に敷設したエネルギー供給ライン"レイライン"から無尽蔵にエネルギーを得る捕食者は、止めることができなかった。だから龍神を戦力として使い、衛星軌道上に打ち上げ、レイラインから物理的に切断したのだ。」
なかなか大胆な封印方法だな。あー、それで月が二つあったのか、納得。
しかし、デウスマキナを下手にいじるとエラいことになるとは、設定の改変は容易ではないってことか・・・・・。あ、でも、今一つ思いついた。これなら何とかできるだろう、たぶん。
「えっと、それで、惑星が隔離されている理由は?」
「それは、まあ、やっぱり遊園地は正規の入口以外は、入れなくしておくものだろう?」
そんな理由・・・・・・。
「幸い、デウスマキナには、改変指定領域を隔離する機能があったものでな。」
「は、はぁ、そう、ですか・・・・・、いろいろ教えていただき、ありがとうございました。」
とりあえず、デウスマキナ調べれば、帰る方法も何とかなるかな・・・・・。
それにしても、1000年前の開発者が生き残っていたとは。いや、生き残ってはいないのか。
「あれ、そういえば、タナカさんはずっとガイラの近くに居たわけですよね? ガイラにはミルーシャの事情は話していないんですか?」
ガイラは一生懸命文献漁ってたぞ?
「私がここまで完全に覚醒したのは、転移者がデウスマキナと接触したことが切っ掛けだ。それまではダークマターの中で半休眠状態だった。ダークマターの人格も、私の一側面ではあるが、ここまで記憶がしっかり覚醒していなかったのでね。」
そういうことですか・・・・。ガイラはもっとも身近に答えがあったのに、必死に調べまわっていたというわけか。なんだか不憫だな。
「しかし、君はやはり只者ではなかったな。まさか異星人とは。」
タナカさんは、しみじみと語った。前から知ってたみたいな言い方だな。
「といいますと?」
「実はな、以前ガイラが君らに会いに行ったとき、ダークマターも居たのだよ。ダークマターは闇のエレメント、転移術はダークマターの専用術だからな。」
そういえば、ガイラと最初に会ったとき、やたらと闇の渦に見られていたような感覚があった・・・・・、まさかあれか。
「ダークマターも転移越しで君を見て、何やら感じるものがあったようでな、記憶に残っている。」
ん? 転移術は専用術? てことは。
「ガイラと戦ってた時に、闇の渦を作ったのは?」
「あ、ああ、ダークマターだな・・・。」
「僕の背中に突き刺さった石槍を転移した渦も?」
「・・・・・・・・・ダークマターだな・・・。」
「・・・・・・その節は大変お世話になりました・・・・・・。」
自分では見えないが、多分僕はひきつった笑顔だったろう。
「勇介様をソレイユまで運んでくださったのも、ダークマター様です。」
アイが教えてくれる。
「すまなかった。罪滅ぼしというわけでもないが、ここまで運ばさせてもらった。ダークマターも四天王である以上は、トリスタルを手伝わないわけにもいかなくてな・・・・・。」
まあ、とりあえず生きてるし、そこまで恨んでるわけではないけども・・・・・。
「命を救っていただいた点については、ありがとうございます、お互いいろいろ事情がありますし・・・・・、そこは、まあいいです、生きてるし。」
真っ黒でわかりづらいが、どうやら恐縮しているようだ。
「さて、ここであなたに新しい任務です。」
管理者さんが投げ込んできた、絶好調ですね。
「デウスマキナに接触し、その機能を確認、状況次第で封印もしくは破壊してください。」
やっぱり、そうなりますよね。
「まってくれ、アレを無くされると、この星の生態系が崩壊し、恐らくは生物が全滅する。それは勘弁してくれないか。」
おお、タナカ氏が管理者に異議申し立て。
「・・・・その点は要調査事項ですが、現状、捕食者等の脅威を生み出す可能性がある以上、放置はできません。」
管理者がしばし逡巡する。
「では、勇介、デウスマキナの書き換えを前提とした、設定調査。さらに、銀河連邦管理下への移行実施を任務とします。」
「えーっと、まずはデウスマキナに辿り着くことですかね・・・・・。」
ラファに聞けば、どこにあるかわかるかな。
「勇介様、主要器官の培養が完了しました。これより移植作業に入ります。全身麻酔を実施いたします。」
「ということは、また意識不明になるのね・・・・・・。」
次はソレイユで目覚めるのかな。
「その間に、補給船は送っておきます。早く送らないと、Rimがうるさくてかないません。」
管理者すらうんざりさせるRimがすごい。
「それに、新装備も入れてあるそうですから、期待しておいてください。」
新装備! それは滾る展開!!
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