20.リビルド
「ごほん。」
わざとらしい咳払いが聞こえたので、僕はちらりと横を見る。
「そろそろ、俺の存在にも気付いてほしいんだが。」
もちろん、ヒロムが後ろにいることは、接近警報が出てたので、気づいている。
「一応、ラファを助けたり、治療したり、俺もいろいろやってたんだぞ?」
え、ヒロムが? ほんとに?
ラファを見ると、ラファが頷く。
「・・・・、なんだか信じられないけど、ありがとう。」
思わず本音が出た。
「礼を言われてる気がしないが、まあいい。で、結局、さっきのデカぶつは、一体なんだったんだ?」
ヒロムは捕食者について事情を知らないらしい。
「アレが亜族と人族の対立を煽っていた原因・・・・だな?」
ヴィージャーに支えられながら、ガイラが近づいてくる。
「そう、対立構造を作ったのは、初期開発者、そして、対立構造を利用して、衝突を助長させていたのは、捕食者の眷属だ。」
気が付くと、背後にダークマター、いや、タナカさんが立っていた。転移術持ちって心臓に悪い。
ヴィージャーがダークマターを見つけ、詰め寄る。
「ダークマター、今までどこに!!」
ダークマターはソレイユに居たからなぁ・・・・・。
「初期開発者ってのはなんだ? デウスマキナがこの世界を作ったんだろ?」
ヒロムがタナカさんに疑問を呈する。
「デウスマキナは、あくまでも"道具"だ。何かが起こるにしても、それは使う側の問題だ。」
殺人があったったとして、包丁が悪いわけじゃなく、包丁を使った犯人が悪い、ということだな。
タナカさんはつまり、自分が原因である、と言いたいのだろうか。
「それはつまり、デウスマキナは・・・・」
さらにヒロムは質問を続けようとして、
「そこまでです! まずは怪我人の治療が先です!!」
ルーシアに一喝される。
全員それぞれに満身創痍であったため、まずは治療を行うことになった。
僕は結構元気だったのと、ダークマターはそもそも戦ってないので、怪我人の救助、搬送などを手伝った。
この間、飛行塔はチュア砦に横付けする形で着陸し、治療は人族と亜族にかかわりなく実施された。
人族と亜族、わだかまりが消えたわけではない、しかし、今この場所では、不思議な関係が成立していた。
まるで、捕食者がしがらみを洗い流してしまったかのように・・・・・。
ちなみに、僕はドレッドノートを中破させたことで、サイトウさんに怒られた。このしがらみは流されなかった・・・。
一日半後、半壊しているチュア砦の一室に、再び面子が顔を揃えた。
この場にてダークマター、もとい、タナカさんはデウスマキナとこの世界について説明し、自身がその開発者の名残であることも伝えた。
ガイラは非情に苦々しい表情をしていたのが印象的だった。
ラファも表情は固い。
「捕食者の眷属は、サクトに大量の生贄を捧げて、小の月を地上に転移させた。これまでも争いや紛争を助長し、生贄を生み出すために利用してきたのだと思う。」
タナカさんは眷属たちが行ってきたことを語り、説明を締めくくった。
「そうか・・・・、それでフォルは"デウスマキナは原因の半分"と言っていたのか。」
ヒロムが納得したように、つぶやく。ヒロムはあまり衝撃を受けてないようだ。
ヒロムは転移者で、元々ゲーム世界だと認識していたい節があったし、「やっぱりこの世界は元ゲームでした。」という話は受け入れやすいのか・・・。
実際に生きている人たちは、そうはいかないようだが。
「それで、とりあえず捕食者は倒したんだろ? あとはデウスマキナをどうにかしないといけないってことになるが・・・・。」
ヒロムはそこで言葉を濁す。デウスマキナを破壊することの問題点は既に知っているようだ。
「うん、そうなんだけど、そこはちょっと僕に考えがある。とりあえずデウスマキナのところへ行きたい。」
ここは、僕の出番、いや、実際にはアイさんの出番なんだけどね。
『ソレイユ降下準備。』
デウスマキナの居場所は大の月と聞き、ソレイユに乗ってやってきた。"天空の城"から転移でも来られるらしいけども、ブレイヴしか入れないとか、転移者しかゲートが使えないとか、いろいろ面倒なのでソレイユで直接乗り付けた。
月面に降り立つ。ここへは僕の他に4人連れてきている。ラファ、ヒロム、それにガイラとヴィージャーだ。
一応、人族と亜族両方の立会人、最悪の場合にはそれぞれ力づくでも何とかできうる人材2名ずつだ。最も、僕は別の目的もあって、ヒロムは連れてきているのだが・・・・。
「君がデウスマキナかな。」
《はい。私はデウスマキナです。》
僕は金属製の円筒形物体に相対し、問いかけた。下部には配線やらチューブやらが地中に伸びている。地中にも何かの設備が埋設されているらしい。
僕は改めてデウスマキナに聞いてみた。
「いろいろと設定の確認などをしたいんだけど、いいかな?」
《あなたにはアクセス権がありません。》
やはりか。デウスマキナのアクセス権限は、ミルーシャの住人もしくはヒロムの母星の住人に限られるのだろう。
僕は完全な異邦人なので、完璧にアクセス拒否されてる状態だな、たぶん。
僕は納得しながら、ヒロムに話しかける。
「と、いうことで、僕にデウスマキナの管理者権限を付与してくれないか?」
「え、俺が?」
「そう、僕の推測では、君の母星からの転移者、もしくは、その転移者の子孫でなければ、デウスマキナにアクセスできないようになっていると思う。」
そして、権限を操作できるのは、管理者のみ。転移者なら管理者権限を持っているはず・・・・。
ヒロムは怪訝そうな表情でデウスマキナに問う。
「そうなのか?」
《はい、その通りです。》
ヒロムは難しい顔をしつつ、デウスマキナに話かける。たぶんよくわかってないな・・・・。
「あーっと、じゃあデウスマキナ、この・・・・・・・、」
そこで突然ヒロムが詰まる。そして僕に向き直り、非常にばつの悪そうな顔で尋ねてきた。
「すまん、お前、名前なんだっけ?」
こいつ、僕のことは、本当に眼中になかったんだな・・・・。
「・・・・・、アマクサ ユウスケだ。」
「そ、そうか、すまん。あーっと、デウスマキナ、このアマクサに管理者権限を付与してくれ。」
《かしこまりました。設定完了です。》
「これで、いいか?」
やや緊張気味にヒロムが聞いてくる。まあ、反省しているようだし、いいか。
「ああ、ありがとう。」
これで、僕がデウスマキナの設定を操作可能になった。
事前にダークマター、もとい、タナカさんからミルーシャの設定についていろいろと聞いている。
ダークロードのデータが転移者の設定と連結しているため、ダークロードのデータを消せなかった。だからダークロードの発生を止められなかったらしい。
仕方なく、ダークロードのリスポン設定を最大の128年にしたそうだ。どおりで妙に二進数な年数な訳だ。
ダークロードが発生すると、ブレイヴの覚醒プログラムが稼働してしまう。つまり、ダークロードの設定を消去できれば、ブレイヴの覚醒プログラムも発動せず、両者対立の歴史は解消する。
デウスマキナ全体を見回す。円筒形の胴体中央部、何かの端子がある。ここからだな。
僕はボディスーツの腰からワイヤーを延ばし、端子に差し込む。ワイヤーの先からセルグリッドを注入する。これで端子形状に関わらず接続が可能だ。
「アイ、デウスマキナに接続。システム解析だ。」
『システムリンク、データリンク、システム解析、銀河連邦管理者へ接続。管理者システムと並列処理、・・・・・解析完了。』
「コンバージョン開始。」
『コンバージョンプログラム開始します。』
デウスマキナの円筒形胴体が光を放つ。
『データ吸い出し開始・・・・・完了。再起動します。』
デウスマキナ胴体の光が瞬く。
《術法プロセス停止・・・・・》
《スキルプロセス停止・・・・・》
《空間制御プロセス停止・・・・・》
《クリーチャープロセス停止・・・・・》
《エフェクトプロセス停止・・・・・》
「お、おい、大丈夫か!?」
ヒロムが焦って話かけてくる。
「データがデッドロックの状態だ。だから一度全部止めて、整合のとれたデータを書き込んで再起動するんだ。」
「は、はぁ?」
わかってないようだ。
デウスマキナは相変わらず瞬いている。アクセスランプみたいな感じかな・・・。
《ジョブプロセス停止・・・・・》
《ステータス管理プロセス停止・・・・・》
《経験値プロセス停止・・・・・》
《マナプロセス停止・・・・・》
《レイラインプロセス停止・・・・・》
《データベース停止・・・・・》
《システム再起動・・・・・》
ビープ音が響く。
《システムスタート・・・・》
《システム起動しました》
《データベース起動しました》
『コンバージョンデータ挿入開始・・・・・・・・』
アイが変換データの書き込みを行う。
『書込み完了。停止中のデータ差分を反映中・・・・・・』
『反映完了。起動処理再開します。』
《レイラインプロセス起動しました》
《マナプロセス起動しました》
《経験値プロセス起動しました》
《ステータス管理プロセス起動しました》
《ジョブプロセス起動しました》
《エフェクトプロセス起動しました》
《クリーチャープロセス起動しました》
《空間制御プロセス起動しました》
《スキルプロセス起動しました》
《術法プロセス起動しました》
デウスマキナの光が収まる。
《システムは正常に稼働しています。》
「完了だ、これでダークロードが生まれることも、ブレイヴが選ばれることも無くなった。」
僕は端子をデウスマキナから外しながら、周りに話す。
『合わせて、データの不整合と考えられる箇所が178か所ありましたため、修正しています。』
アイと管理者が全データの精査をしてくれた。
「でも、種族的な対立感情までは書き換えできない。」
そう、最終的には人々自身の問題だ・・・・。
「他人事になってしまうけど、あとは、それぞれの種族が歩み寄っていくしかないんだ・・・・。」
僕はガイラに向けて語る。
「無論だ。」
ガイラは力強く頷いた。
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