15.フォースロード

「戻ってきたのですね・・・・・・。」

 私とヒロムは、フォル様の城に戻ってきた。フォル様が私たちの姿を見て、声をかけてくれる。


「はい・・・・・。」

「・・・・・・・。」

 ヒロムは不貞腐れた態度だ。


 私は目的を見失ってしまっていた。デウスマキナが全ての元凶だと考えていた。だけどそれはジミアの罠だったんだ。

「私は・・・・・、この世界の悲しい戦いを無くしたかった・・・・・。デウスマキナが、原因だと思っていたのに・・・・。」


 フォル様は重々しく口を開く。

「それは、半分正しく、半分間違っています。」

「半分?」

 デウスマキナが原因なの?

「しかし、私にはそれを詳しく説明することが許されていません。ごめんなさいね・・・・。」

 龍神様たちは、デウスマキナの話は詳しくできないみたいだ。

「いえ、そんな・・・・・・。」

 いいですとは言えなかった。


「今、私があなた方にできることは、このくらいです・・・・。」

 どこからともなく、私とヒロムの上に光が降り注ぐ。

「あなたたちは全ての試練を終え、フォースロードとして覚醒しました・・・・・・。」

 体の中から力があふれるような感覚だ。

「本来なら、ダークロードとの戦いに赴くよう伝えるところですが・・・・・、今の状況で、適切な助言ができない私を許してください。」

 フォル様は寂しげな声でそう告げた。本当の敵はなんなのか。フォル様はわかっているけど伝えられないんだろう。私たちは辿り着けるのだろうか・・・・・。


「ダークロードか。」

 突然、ヒロムが声を上げた。

「現状、敵が分からない以上、わかっている敵を倒すしかない。まずはダークロードを倒そう。」

 ヒロムはフォル様の話を聞いていなかったの!?

「本当の敵は、他に居るよ、ダークロードは、敵じゃない。」

「なぜダークロードの肩を持つ? 亜族は人類の敵だぞ? その本当の敵というのが、亜族でないと言い切れないだろう?」

 ヒロムはガイラさんを知らないから・・・・・。ガイラさんはそんな人じゃないと思う。

「ガイラさんは、ダークロードは、そんな人じゃない。私は、話したことがある。」

「俺の仲間もそんなやつじゃなかった。だが、裏切られたぞ? ダークロードがお前を騙していないと、なぜ言える?」

「それは・・・・・・・。」

 私の気持ちは違うと言っていた、でもヒロムの問いに返せる言葉が無かった。



「まあいいだろう、なら、ダークロードを倒す前には、話を聞いてやる。」 

 そういうと、ヒロムは城から出て行った。


 戦う前に話をできるように、私がヒロムを誘導するしかない・・・・・。

 私はフォル様に一礼すると、急いで城を出た。最後に見たフォル様は哀しげに見えた。


 天空の城へ来るときに乗ってきた円陣に乗る。試練の地山頂にある祠の中に戻ってきた。

 そういえば、ユウに会ったらどうしよう、ユウも捕食者の仲間なのだろうか。なんと話しかければいいのかわからない。


「なに・・・・・・!?」

 私が円陣の傍で逡巡していると、ヒロムが祠の入口から外を見て驚いている。

 私もヒロムの脇を抜け、外にでた。



 山頂の上空、雲の隙間を抜け、赤と黄の二筋の光が目にもとまらぬ速さでぶつかり、火花を散らしていた。

 激突の衝撃で雲が霧散する。衝撃音がこちらまで響いてくる。

 一瞬、姿が見えた。あれは、ユウとガイラさん!? なぜ、ユウとガイラさんが戦っているの!?


「ディングル!」

 フォースロードになり目覚めた闇術法。物の重さを操作できる術法で、宙に浮く。まだうまく操作できないけど、二人に近づくために飛ぶ。

 ユウは攻撃ができない、早く止めないと、ユウがやられてしまう。


 急に、黄色い光の動きが変わる。これまで防戦一方だったユウが攻勢に移った。

「ユウが攻撃してる?」

 突然、まばゆい光と激しい音が響く。二人の姿が見えなくなる。すぐに目を閉じたが遅かった。目がチカチカしてよく見えない。



 目が回復して次に私が見たものは、血にまみれ、斜面を滑り落ちていくユウと、それを見下ろすガイラさんだった・・・・・・。


「ユウーーーーー!!!!」

 谷間に落ちていくユウを追って、私は谷に向かう。


「ちょうどよかった。ここで決着を付けさせてもらうぞ!!」

 ヒロムの声が後ろから聞こえた気がする。そのあと、剣戟の音が響いたような気もしたが、今、私はそれどころじゃない。



 ユウが落ちた谷に飛び込む。底が暗くて見えない。慎重に、だが急いで下に降りていく。闇術法の操作がうまくできないのがもどかしい。

「ユウは、きっと生きてる。まだ間に合う。」

「ソル」

 光術法で照らしながら、下を探す。谷は底に向かって狭くなっていた。大小いろいろな石が入り乱れ、中には水がたまっている場所もあり、とても複雑な地形になっていた。

 穴を覗いたり、溝に入ってみたり、とにかくユウを探した。




 一心不乱に探し続け、どのくらいたったころか、後ろから肩をつかまれた。振り返ると、ヒロムが居た。

「もうよせ、3時間以上も探している。」

「・・・・・きっと生きてる。まだ間に合う。助けなきゃ。」


 四天王の術法を受けても平気だった・・・・。

「俺も見た、あの深手では・・・・・・。」

 電撃で焼かれても無事だった・・・・。

「死んでしまう前に、回復術法で・・・・。」


 自分の言葉で思い出す。

 ユウと初めて会った日、ユウはシマシマトラに襲われていた。私は怪訝に思いながらも助けた。

 怪我をしていたから、回復術法を使った。でも回復しなかった。ユウには回復術法が"効かなかった"。


 私は愕然とした、そうだ、焦げた足にも効かなかった。ユウは回復術法で治らない。見つけても、治せない、助けられない・・・・・・。

 まるで足元が崩れるような、これまで支えていた糸が切れたような、気が付くと、私は岩の上に膝を付いていた。涙があふれて止まらない。立つことができない。




 その後のことは、記憶が曖昧だ。ルーシアさんに支えられ、グリフォンの背に乗せられていたように思う。

 気が付くと、王都に戻ってきていた。王城が見える。でも、なんか形が違うな・・・・・・・。


「王城の、尖塔が浮いている!?」

「とりあえず、急いで王城へ向かうぞ。」

 ヒロムの先導で、グリフォンが王城へ向かう。



 王城の中庭にグリフォンで直接入り込んだ。衛兵の人たちが大急ぎで集まってきたが、ヒロムは紋章を見せ、ずかずかと中に入り込む。

 王城に来たのは、旅立ちの時以来だ。


「おお、ヒロム様、無事フォースロードになられたとのこと、おめでとうございます!」

 王様に会うのも2回目だ。王様はヒロムにしか話をしない。私のことは見えてないのかもしれない。

 ヒロムは頷きつつも話す。

「ありがとう、だが、すまない、ダークロードと剣を交えたが、取り逃がした。しかし、手傷は負わせた。すぐに追撃に移る予定だ。」

「おお、さすがヒロム様! この分なら、亜族の命運もこれまでですな。」

 ヒロムの話に王様はかなり大げさに反応している。そうか、決着つかなかったんだ・・・・。

 私は鷲掴みにされるように胸が痛んだ。


「それはそうと、イルガ王、あの尖塔はどういうことだ?」

「お気づきでしたか! あの塔は、天空にある城の一部だと言い伝えられておりましたが、昨今その能力の復元に成功いたしまして、」

 王様は気が付かれたことがとても喜ばしいことのように、嬉々としてヒロムに話をする。

 そういえば、天空の城は尖塔が一つなかった。


「塔の飛行能力を使い、亜族を攻めるべく、軍を集結中でございます。」

 王様が自慢げに話している。戦いなのに、どうしてこんなに楽しそうなんだろう。

「徒歩での行軍なら、2か月はかかるところ、5日程度で亜族のチュア砦まで到達する予定でございます。亜族との戦い、少しでもヒロム様のお力になれればと。」

 チュア砦、亜族領域の入口と言うべき場所にある砦だ。


「飛行塔を使って行軍するのか・・・・。で、俺たちはこの状況で、どう動けばいい?」

「塔にご搭乗いただき、共に進軍いただければと、兵どもの士気もあがりましょう!」

「・・・・・、そうだな、進軍すれば、ダークロードも出てくるだろうしな・・・・。」


 そうか、私たちは亜族と戦争をするんだ・・・・・・。ダークロード、ガイラも出てくる・・・・。

 ヒロムが私に向き直る。

「ラファ、どうする? この戦い、お前は無理しないでもいいと、俺は思ってる。かたき討ちなら、俺がしてやる。」

 なぜだろう、ヒロムが私にそんな言葉をかけてくる。へんなの。ちょっと面白い。

「ふふ・・・・。」

 ヒロムが怪訝な顔をしている。


 そっか、かたき討ちだ。ユウはずっと私を護ってくれた。

「かたき・・・・。」

『ラファさんより先に死ぬことはありません。』

 私を護って生き残るって言ってくれたのに、うそつき・・・・・・・。

「かたき討ち・・・・、」


 ユウはいなくなってしまった、

 私の前から、消えてしまった、


 なぜ?




 あいつがユウと戦ったから、




 あいつが剣で斬ったから、

 




 あいつがユウを、






 殺したから、


「あいつを、殺す・・・。」


 一瞬ヒロムは怯えたような顔をしたような気がした。

「そ、そうか・・。」


 私たちは王都の軍勢と共に、進軍する。

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