13.デウスマキナ
景色が変わる。目の前に立派な城が建っている。周囲を見ると、空と雲以外何もない。
城の周囲には背の高い尖塔が、右側に2本、左側に1本ある。中央には王都にあったミルシャリス王城よりも大きな城が建っている。全体に白亜に輝く美しい城だ。
本当に天空の城に来たんだ。
「ぼけっとしてないで、行くぜ。」
ヒロムは先に行ってしまう。ヒロムと二人というのは、とても不安だ。でも、私もがんばらないと。
私もヒロムを追いかけ、中に入る。
正面の門は開け放たれている。門をくぐると、中庭が見える。歩道の左右には整えられた樹木や花々が植えられている。
ちらりと人影が見えた、土人形が動いている。あの人形が庭を手入れしているようだ。
中央の城に近づく。白い石材で作られた城は遠目には白く輝いて見えたが、近くで見ると、様子が異なる。あちこち欠け、ひび割れも目立つ。
まるで、昔ここで戦争でも行われたかのようだ。
正面の大扉から中へ入る。外の荘厳な雰囲気とは異なり、城の中は無骨だった。調度品や装飾品もなく、普通の石材による壁がむき出しの状態で、白亜の雰囲気は微塵もない。
玄関スペースなどは無く、直接謁見の間になっているようだ。中に太い柱がたくさん立っている。高い天井には明り取りの窓があり、部屋の中に光が差し込んでいる。
その光の下、龍神様が待っていた。
「よくぞ来ました、ヒロム、ラファよ。」
龍神様がやさしい声で話しかけてくる。
「私の名はフォル。最後の試練、"運命"を司る龍神です。しかし、試練と言っても、私は戦いや謎解きを課すことはしません。少し話をしましょう。」
最後の試練は、フォル様と話をすることらしい。何を話すのだろう、私はちゃんと答えられるだろうか。
「それよりも、フォル、デウスマキナの居場所を教えろ。」
私の心配をよそに、ヒロムは勝手に話を進めた。
「あなたは転移者でしたね・・・・・、確かに、あの扉は転移者にしか開くことはできない。もう扉が閉じられたまま1000年近く・・・・、これもまた運命でしょうか。」
フォル様は確認するように、そして独り言のように言う。
一瞬迷いがあるようにも見えたフォル様だが、わずかに諦めが混じった声で続けた。
「いいでしょう。あなたが"あのモノ"をどのようにするのか。あなたの判断に委ねましょう。」
フォル様は、まるで歌声のような鳴き声を上げる。部屋奥の壁が開き、通路が現れた。
「その先にゲートがあります。転移者ならばゲートを起動できるでしょう。起動できれば、転移者以外を共に連れて行くことも可能です。」
ヒロムは無言で通路を進んで行ってしまった。
「あ、あの、すみません。戻ったら、お話、させてください。」
私は、ヒロムの態度が失礼すぎたので、代わりにフォル様に頭を下げた。
「いいのです。これも流れというもの。あなたも、真実をよく見定めるのですよ。」
マナルフ様からも、似たようなことを言われた気がする。私にわかるかな。
「は、はい。」
私は焦ってヒロムを追いかけた。
通路を進むと、小さな部屋があった。部屋の奥には、人が立ったまま潜れそうなほど大きい輪が置いてあった。
「遅いぞ。」
ヒロムが私に文句を言ってくる。その隣には、いつの間にか術法使いジミアさんが居た。私が不思議そうな目を向けたことに気がついたのか、ジミアさんが説明をしてくれる。
「転移札です。ヒロム様に、札で召喚していいただいたのです。残念ながら1枚しか手に入らなかったため、一番お手伝いできそうな、私を喚んでいただきました。」
確かに、これからデウスマキナと戦うことになるなら、少しでも戦力がほしい。一番役に立つということなら、ユウにしたらよかったのに。
「これがゲートか。」
大きな輪の前には台座がある。ヒロムが台座に触ると、表面に文字が浮かび上がる。
「よし、だいたい文字は読める・・・・・、これかな?」
ヒロムが台座の文字を触ると、大きな輪の中に闇の渦が生まれる。
「よし、行くぞ。」
ヒロムとジミアは闇の渦に入っていった。
行こう、がんばるって決めたんだ。私も闇の渦へ入る。
転移の円陣に入ったときと同じように、周囲の景色が一変する。確か天空の城に着いたときは昼間だったはずなのに、出た先は夜で星空だった。
こんなにきれいな星空は見たことがない。とても大きな青い月が見える。青い月なんて不思議だ。それに一つしかない。
周囲は真っ暗で何も見えない。でも地面には点々と光で線が描かれている。歩ける場所を示してくれているようだ。
「ここは、月か・・・・・・。」
ヒロムが周りを見てつぶやく。月?お月様? ユウは小の月から来たって言ってたけど、ここがそうなのかな。
光の点々が続く先が一層明るくなる。ヒロムはそこに向かっていく。私もヒロムの後を追った。
大きな金属の筒がある。下からは金属でできた木の根が生えて、地面に潜っている。金属の筒は、ところどころ光っている。不思議な模様だ。
《1024年 275日 22時間12分ぶりですね。おはようございます。》
女の人の声が聞こえた。金属の筒から聞こえてきているみたいだ。
「お前は、デウスマキナか?」
《はい。私はデウスマキナです。》
ヒロムは剣の柄に手をかける。
「ついにたどり着いた・・・・・。お前を倒し、世界を救う!!」
ヒロムが剣を抜く。私も合わせて剣を抜いた。
「スパイダーウェブ!!」
背後から光の網が広がり、ヒロムと私を絡め取り、宙吊り状態で縛られる。動けない!
「なっ!?」
「そこまでです。」
光の網はジミアが発射したものだった。これは、スキル!?
「なん、だと!? お前、これは、スキルか!?」
ヒロムと私の横を、ジミアが通り過ぎながら説明する。
「ふふふ、スキルがブレイヴだけのものだと勘違いしていたようですね。われらのような"眷属"ならば、この程度造作もない。」
ジミアはデウスマキナの前に立つ。
「これを壊すなんてとんでもない。これが無くなれば、あなたの大好きな、"俺が強い"世界がなくなってしまいますよ?」
「なに!?」
ヒロムは光の網に捕らわれながらも、もがき続けている。
「この世界に術法やスキルがあったり、クリーチャーがいたり、倒すと経験値が貰えたり、その経験値でレベルアップできたり、レベルアップで術法やスキルが強化できたり、それらは全て、このデウスマキナが行っていることです。」
ジミアは大げさに手振りを交え、ヒロムを煽るように説明する。
「これが無くなったら、あなたが得意満面に説明していたレベルアップ方法も、スキルの使い方も、戦い方も、何もかも、ぜーんぶなくなります・・・。そして、あなたは、何の能力も無い人間に戻るんです。」
「な、なにを・・・・。」
ヒロムの顔色が真っ青になっている。ヒロムは好きではなかったけど、わざわざこんな言い方で追い詰めるのは酷すぎる・・・・。
「なら、あなたの、目的は・・・・?」
私は目を逸らさない。気持ちを強くもって、ジミアに問いかけた。
「ふふ、ここに至ることができるのは、ブレイヴであり、転移者である者だけ。いい道案内でしたよ、転移者殿。」
まだ煽るのは続けるみたい、いい加減うんざりする。
「われらの主が、責め立てられ、締め出され、空から地上を見下ろしつづけて幾星霜。ついに主をお救いする時が来たのです!!」
締め出され? 空から地上を見下ろす・・・・?
昔話で聞いた思い出がよみがえる。
「龍の神様に浮べられた悪魔?」
「ふふふ、わが主は、力の届かぬ空に打ち上げられたのです。そこでお休みになられている。だから! これから主に力をお届けするのです。」
「お・・・・、お前は、俺を利用したのか!!」
ヒロムが叫ぶように問いかける。
「はい、そうですよ?」
ジミアはさも当然といいたげに答える。ヒロムが涙目になりながら、歯を食いしばっている。
私も悔しい。頑張ろうって思ったのに、マナルフ様もフォル様も警告してくれていたのに、本当の敵を見定めろって。
私も光の網を逃れようともがく。私のポケットから、何かが落ちた。
「ははははは、そのスキルからは逃げられませんよ。そこで見ていなさい。」
カプセル? ユウがくれた、スキル無効化のカプセル!! 私は剣を動かす、カプセルの上に・・・・・、
「さぁ、デウスマキナよ!」
剣を落とした。カプセルが割れる。中から何かがあふれる。光の網が消失する!
「わが主のおわす小の月に、」
「ヒロム!!」
一斉にジミアに斬りかかる!
「霊脈、レイラインを・・・なに!?」
ヒロムと私の剣閃が同時に交錯する。ジミアは十文字に切り裂かれた・・・・。
「なぜ・・・・・・、だ・・・・・」
ジミアが血だまりに沈んだ。嵌められたとはいえ、人間を斬った。気分が悪い。だが、今は堪える。
「デウスマキナ、教えて。小の月には、何があるの?」
デウスマキナは抑揚の無い声で回答する。
《小の月は休眠状態の"捕食者"です。》
「捕食者?」
《1058年前。母星滅亡の危機に伴い、大量の移民を受け入れ。生活基盤安定化のために、各種調整を実施。その際、調整内容同士の不整合により、他者を侵食する不具合発生。》
なにを言っているのか、よくわからない。母星? 移民?
《"他者を侵食する不具合"を"捕食者"と呼称。捕食者の活動を停止するため、レイラインが敷設されていない衛星軌道上に捕食者を打ち上げ、停止に追い込みました。》
1000年くらい前にたくさんの人が来て、その時にいろいろと生活を整えたら、捕食者が生まれたっていうことなのかな・・・・・。
「ジミアは、捕食者を、復活させたかったの?」
《私見を述べさせていただくなら、そのとおりです。》
「でも、これで、捕食者の復活は、防げたの、かな・・・・・。」
しまった、勢いで斬ってしまったけど、尋問とかしたほうがよかったかも。
結局、ガイラとの約束は守れたのだろうか。デウスマキナの話を聞いても、正直よくわからない。
ユウなら、わかるかな。ユウに来てもらって・・・・・。
『あ、あそこからきたんだ・・・・・。』
『え、小の月? あそこ、人が住んでいるの?』
唐突に以前のやりとりがフラッシュバックする。
ユウも、もしかして捕食者の、仲間・・・・・・!?
背中に嫌な汗をかくのを感じた・・・・、ユウも敵の仲間なの?そんなの嫌だ・・・・・。
「聞いて、みるしかない・・・・。デウスマキナ、また、来るね。」
《はい、わかりました。》
ヒロムはジミアの亡骸を見下ろしたまま、止まっていた。
「ヒロム、一旦戻ろう。」
ヒロムは顔を上げるが、瞳は虚ろだった。
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「急造だったが、案自体は悪くなかった。転移者が現れたことは僥倖だった。ブレイヴなどは所詮、システムの傀儡にすぎんしな。」
『だが、失敗した。』
「全てはあのイレギュラーが原因よ。たびたび面妖な術を使う。やはりイレギュラーには消えてもらう必要がありそうだ。」
『ならば、ここはダークロードを動かしますか。』
「そうだな、だが、まだ共倒れになってもらっては困る、不要になったブレイヴの始末にも使うからな。」
『私と闇でフォローします。』
「うむ、こちらでは塔を起動しておこう。計画の成就には今少し命を注ぐ必要がある。塔を使うことで衝突も誘発できよう。それに、ダークロードとブレイヴどもの決戦の場としてもふさわしかろう。」
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