12.最後の試練

 龍神の社での試練は終えたが、アム・デナ・サウにはその後3泊した。いつもなら、1泊ののち、翌日には移動を開始するのだが、僕の体が回復しなかった。

 小型竜の電撃によるダメージは予想以上だった。特に炭化していた両足の回復に1日以上を費やした。

 逆に言えば、炭化した組織を1日ちょっとで修復するセルグリッドさんマジすごい。


 3日目にはほぼ回復したので、様子見ついでに、少しラファと組手をしてみた。これまで一緒に旅してきて、組手はしたことがなかった。

 ラファは最初かなり遠慮していたので、僕は調子に乗って次々スキルを無効化した。すると、最後には自棄っぱち気味に術法を連打してきた。もう少しで町に被害が出るところだった。


 スキル無効化はなかなかに使えそうだ。ここぞの切り札にもできそうだし。なんとかしてラファでも使えるようにできないかな。

『セルグリッドを使用し、使い捨てのスキル無効化アイテムを作成可能です。』

 それいいな、何個か作っておこう。



 アム・デナ・サウでの試練を終えてから4日目。いよいよ出発する。次の目的地は、5つ目の龍神の社"試練の地"と呼ばれる山だ。この山は王都の北にあるため、再び王都に戻ることになる。

 "試練の地"は山全体が迷宮になっており、迷宮を抜けることが試練だそうだ。さらに、山頂からは、引き続き6つ目の試練に挑むことになる。つまり、"試練の地"は2つの試練を連続して行う最終試練なのだ。



 再びバイクで王都に向かう。行きと同様、野宿で1泊ののち王都に到着した。

 今は王都に居ないとわかっていても、ヒロムが出現しやしないかと少々ビクビクしながら王都で1泊。食料や水を十分に補給し、試練の地目指して旅立つ。



 試練の地である山の麓までは、王都から1日かからずに到着した。山の麓で1泊し、翌朝から山を登る。迷宮の入口は山の中腹あたりにあるらしい。

 さすがに山の中ではフローティングバイクに乗れないため、バイクは麓に置いておき、山に入る。

 見上げると山頂は雲に隠れている。3合あたりだろうか、そのあたりまでは樹木が生えているが、それより上には低木もしくは草だけだ。さらに山頂に近づくと草も生えていないようだ。


 山道を登ること数時間、樹木も無くなり、周りにあるのは草地ばかり。そろそろ昼に差し掛かろうというところ。

「あ、たぶん、あれが、入口。」

 目を凝らすと、もう少し上った先にそれなりに大きい洞窟が見える。あれが、迷宮の入口か。


『金属反応。かなりの大型です。』

 突然、アイが金属反応を告げてくる。

「え、どこ?」

「・・・・・?」

 思わず声が出たため、ラファが不思議そうな顔をしている。

『左手、山道から外れた100m程下方です。』

「ごめん、ゴール目の前で悪いけど、少し寄り道したいんだ・・・、もしかしたら、探し物があったかもしれない。」

「それって、月のお船?」

 ラファが少し期待感のある瞳で見てくる。そうでした、月から来たと伝えたんでした。再び心の痛みが戻ってくる。

「そ、そう、月の船。」



 山道から外れ、草地を下りていく。と、谷間につぶれたクジラがみえた。

「あった・・・・・。」

 ソレイユだ!! ついに見つけた!!! 滑落しないよう、気を付けつつ近づく。

「これが月のお船?」

「そう、僕はこれに乗ってきたんだ。」


 ソレイユはひどい有様だった。あちこち外壁ははがれ、頭からここに墜落したらしく、前方部格納庫は半分つぶれている。

 エンジンの駆動音もしない、完全に停止している。とりあえず、入れそうな場所を探す。

 ハッチを見つけたが、フレームが歪んでいるのか開かない。格納庫に続く廊下部分がむき出しになっていて、そこから入れそうだ。あ、思い出した。僕はここから落下したんだ。


「あっ!!!」

 廊下を覗きこんでいた僕の後ろから、おっさん臭い声が上がった。

「ユウ坊!!!」

「サイトウさん!?」

 サイトウさんは無事だった! 木材やら、何かの欠片やらを小脇に抱え、ソレイユに近づいてくる。


「ユウ坊、お前よく無事だったな、この野郎。心配したんだぞ、連絡ぐらいよこせ!!」

「いやいや、サイトウさん、通信が通じなかったですって、通信機電源入ってます!?」

「あ、そういや、動力死にっぱなしだったな、がはは。」

 このロボット豪快だ。

「それで、ソレイユはどうですか?」

「動力はー、もう少しでなんとかなるな。船体は材料が足りねぇな。かなり船内の資材を鋳潰して転用してるが・・・・・。」

 さすがサイトウさん、すでに修理を進めてくれていた。しかし無い袖は振れないか。


「エグゾスーツも戦略用2本だけ残して、後は潰してくれていいです。まずは飛べないと補給もままならないですし。非常用バックパックも2,3個残して、他は材料にしてください。」

「すまねぇな、ユウ坊。エグゾスーツ潰せれば、外壁も塞ぐだけならできそうだ。」

「まずは、動力の回復からお願いします。この星、セルグリッドシステムの出力ではGネットに繋がらないので、ソレイユの通信機なら何とかなるかなと。」

「そいつはまずいな。よし、先に動力に回復だな。まかせとけ!」

 さすがサイトウさん頼りになる。



 さっきまで興味津々でソレイユを見ていたラファが、今は不安げに僕を見ていた。

「直ったら・・・・、もう、帰るの?」

 ソレイユが見つかったことで、ちょっとテンション上がりすぎてた、反省。

「大丈夫、まだ帰らない。ラファの旅に最後まで一緒に行くよ。」

「その・・・・・・、」

 ラファは何か言いかけた、が、それきり何も言わなかった。聞きたい内容はなんとなくわかる、でも答えを聞くのが怖くて、やめたんだろう。

 もう、最後の試練も近い。その時が近づいている。




「さぁて、迷宮攻略と行きますか!」

 迷宮の入口らしき洞窟まで戻ってきた。僕はやや下がり気味のテンションを上げるべく、無駄に明るく言ってみた。

「ふふ・・。」

 ラファも暗いままでは良くないと思ったのか、少し笑っている。うん、落ち込んでるだけでも良くないしね。



 中は真っ暗だ。これまでの試練と違って明かりが無い。僕はバックパックにあるサテライトバルーンライトを打ち出す。

 頭上を飛ぶ光源ドローンだ。小型の提灯みたいな形状で、周囲を照らしつつ飛んで付いて来る。


 周囲が見えた。いつものランプが壁に取り付けられているが、点灯していない。壁の材質はこれまでの龍神の社と似ている。壁、床、天井は全て石造りだ。

 ラファが前、僕が後ろで警戒しつつ進む。迷宮だけに迷路状になっているようだ。


 2時間ほど進んだだろうか。アイがオートマッピングしてくれているので、迷うことなく順調に進んでいる。しかし、これは・・・。

「不自然なほど、なにもないな・・・・・。」

「・・・・・うん。」

 そう、何もないのだ。クリーチャーは一体も出てこない。それに、罠やギミックなども想定していたが、それらも一切ない。

 途中、知力の試練にあったようなギミック式扉と思われる小部屋はあった。が、扉は半開きの状態でギミックは停止していた。


 なんというか、この迷宮、電源切れてるんじゃないのか?



 さらに1時間ほど進む。大きな鍵穴のある大扉を発見した。だが、この扉も半開きだ。

「ここもか・・・・・・。」

「なんか、へん、だね・・・・。」


 恐る恐る、大扉の中に入る。サッカーができそうな大部屋に出る。が、ここにも何もない。奥には扉がある。これも開け放たれている。

 奥の扉から進む。ひたすらに長い階段が上に続いている。遙か彼方に明かりが見える。

「これ、登るのか・・・・・。」

 何段あるのか。ラファと顔を見合わせ、うんざりしながらも登り始めた。




 15分以上登り続けただろうか。やっと出口が近づいてきた。

 出口から出る。外の視界は、白で埋め尽くされていた。周囲どこを見ても真っ白だ。どうやら雲に覆われているようだ。

 そのとき、風が流れ、雲が晴れる。遥かに地平線を臨む、眼下に広がる大地が見えた。なかなか美しい景色だ。どうやら山頂まで登ったようだ。

 出口の目前に石造りの小さな祠があった。さっきまでは雲に覆われ見えなかった。


 せっかくの景色だが、ラファは楽しむ余裕はないようだ。階段を上りきった疲労のために出口横でうなだれている。僕もセルグリッドの身体機能強化があっても相当きつかった。

 山道登るのとどっちが楽だったんだろうか・・・・・・。



 しばし休憩し息を整えた後、祠に入る。中には、祠の見た目に反して大きな部屋があった。


 どこからともなくラファの上に光が降り注ぐ。

 これは、いつもの龍神の儀式か。結局、ここには龍神が居ないのか・・・・・。

 すぐ脇の地面に、円形に幾何学模様や文字が書かれた円陣が描かれる。いつもの外へ出る転移陣か・・・・・。

 僕は円陣に近づくが、円陣の外周部分が光り、弾かれる。

「近づけない?」

「え?」

 ラファは何事もなく近づいている。僕だけが弾かれているようだ。

「その先は、ブレイヴしか進むことができない。」

 聞き覚えのある声が背後から聞こえる。あんまり振り返りたくないなぁ。でもそういうわけにもいかないか。

 しぶしぶ振り返ると、ヒロムとその仲間たちがいた。

「遅かったな、待ちくたびれたぜ。」

 どうやら、先にここに到着していた様子。つまりすべての試練を回ったってことか!? 異常な速さだな・・・・・。


「ここの龍神が居ないのは、お前の仕業か?」

 ヒロムが先回りしていたということは、何かやらかしたのでは?

「酷い誤解だ、俺が来たときには既に龍神はいなかった。仲間を疑うとは、ひどい奴だ。」

 僕をデウスマキナの手下と疑ったくせに、よく言う。


「とりあえず、だ。この先は俺たちブレイヴしか進めない。だから、あんたたちはここでお留守番だ。」

 ヒロムは円陣に向かいつつ、言い放つ。

「いくぜ。」

 ラファに向かって、顎で円陣を指す。相変わらず態度が悪い。


「ユウ、まってて。」

「わかった。気を付けて。」

 ラファは一つ頷き、ヒロムの後を追い、円陣に消えていった。

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