11.魔力の試練

 ここもウイルコースの試練と同様、ぼんやりとした明るさのランプに照らされている。石造りの階段を下りる。

 だた、以前と比べて少し空気が違って感じる。空気が重いというか、纏わりついてくる感じというか、皮膚も少しピリピリするように感じる。

『空気中、セルグリッドと同様と思われる組織構成を多数確認。』

 空中に何かが漂っているようだ。

『どういう効果を発生させているか、わかる?』

 声を出さず、アイに確認してみる。

『現状は詳細不明。一部サンプリングし、解析します。』



「ここの試練の内容について、なにか知っている?」

 もしかしてラファは何か知っているかもしれない。

「ここは"魔力"の試練。2つ目の"技術"の時と同じなら、ここは術法しか使えない。」

 2つ目の龍神の社は"技術"の試練で、その時はスキルしか使えなかった、ということかな。

 そうなると、漂ってる何かが、術法以外の使用を禁じているのか・・・・。

「ラピッドスラッシュ。」

 いきなり、ラファがスキルを放つ。それ、確かヒロムが使ってたやつだな。ラファも覚えたのか・・・・。

 ラファの持つ剣の刀身が一瞬光ったかと思えば、すぐに光が霧散し、スキルが発動しなかった。

「やっぱり・・・・。」

『空気中組織の稼働を観測しました。スキル発動に対応し、特定信号を送信しています。信号傍受。解析完了。』

 なにやら、アイさん的には、謎が解けた様子。

『以降、スキル発動時に接近状態であれば、妨害信号によるスキル無効化が可能です。』

 なんと・・・・。スキル無効化能力を習得してしまった。

 でも、ここはスキルが使用できないし、出番ないな・・・・。今後の戦闘では役立つかな、きっと。




 階段を降り切ると、広い部屋に出た。以前甲冑と戦った部屋くらいのサイズがある。中央には、少し小ぶりの西洋竜が待ち構えている。

「やはり、眷属との戦闘・・・・。」

 あれは、ここの龍神の眷属なのか・・・。

 小型竜が咆哮を上げる。

「ガルマシルガーラ」

 ラファが術法を使う。ラファと僕の周りに半透明の膜が展開する。術法防壁らしい。

 僕もエグゾスーツを装備、背負っていたフライングシールド4枚も紐を外して展開する。

 小型竜が右手から火の玉、左手からかまいたち、口から水流を打ち出してくる。術法を3か所から同時発射できるのか!! でも口から水はイメージが悪い!!

 

 水流と火の玉を回避、かまいたちはシールドで散らした。

「ジャルファル!!」

 ラファも交錯するように、1mはあろうかという火の玉を打ち返す。小型竜に命中するも、大したダメージではなさそうだ。硬いな。

 小型竜は口からひたすら放水し続けている。なかなか水圧が強いし、水量も多い。室内に水が溜まるほどだ。まるで消防の放水車だな。あれだけの水量がどこから供給されているのか、相変わらず術法の奇怪さには慣れないな。


 僕が正面からシールドで水流を止める。背後からラファが僕を飛び越え、火の玉を連発する。やはり命中するもそれほどダメージにはなっていないようだ。じり貧気味だな。

 と、小型竜が水流を止めた。何かを溜めている、なんだ!?

 すると、小型竜の体表が帯電し始める。地面は、やつが放出した水でくるぶしまで浸かっている。まずい!!


 幸い、ラファは空中だ。急いでフライングシールドをラファの下に滑り込ませ、地面につけないようにする。

 僕もジャンプを・・・、

 部屋中を電流が駆け巡る。術法防壁が激しく瞬き破損する。ジャンプが間に合わない!

「があああああ!!」

「ユウ!!」

 ラファが悲鳴を上げる。

『ガガガ、サージ検、ガガ出、バックアップ、、ブブブブブー、重要器官、ガガガ保護、優先ガピッピ、』

 アイの声が危ない。

 電流が止む、両足が焼け焦げた。体のあちこちも燻っている、体が重い。

 すごい発電力だな、部屋中にこれだけの電流を流せるとは・・・・・。

 黒いボディスーツは一応絶縁処理もされているが、あまりの電圧に絶縁破壊で貫通してきた。これが、防衛型以上のエグゾスーツなら、サージ対策もされているのだが・・・・。


『ピピピピ、システムチェック、稼働率25%、セルグリッド損傷率68%、肉体損傷重度、生命維持モードに移行します。』

 よかった、アイがブルースクリーンとかになったら、悲惨だった。

『以後、セルグリッドによる戦闘補助は実施できません。』

 フライングシールドは飛んでいるが、コントロールは全て自分でやらないといけないようだ。

「ユウ、死んだらいや・・・・、ああああ、」

 ラファが泣きそうな顔だ。

「だ、大丈夫、生きてるって・・・・。それより前・・・・。」


 再び、小型竜が3つ同時に術法を撃ってくる。今回は全て火の玉だ。ラファの「ジャルファル」と同程度の威力がありそうだ。

「ガルマシルガーラ!!」

 ラファが術法防壁を再び展開する。

 僕はフライングシールドで火の玉を受け止める。さすがに直撃だとシールドが軋む。あまりたくさんは止められないな。


 ラファは意を決したように、告げてくる。

「ユウ、少し、耐えられる? 私の、最大術法を撃つ。」

 最強攻撃で一点突破か。さっきまでの火の玉ではあまり効き目がなさそうだし、試してみるか。

「どれだけでも耐える。」

 僕は力強く答える。ラファは頷いた。


 再度の雷攻撃を警戒し、ラファはシールドの上に乗せたままだ。僕も足が動かないため、シールドに乗る。防御に使えるシールドは2枚だけか。

 ラファはシールドの上で、何かを溜め始める。小型竜が火の玉を連発してくる。できるだけ、射線を逸らし、シールドのダメージを減らすように受け止める。


 ラファは自分の左手首に傷を入れる。血液が滴り落ちる。

「サクト!」

 落ちていく血液が、空中で霧散していく。ラファを取り巻く光が強まる。


 火の玉が飛来する。2枚のシールドが損傷していく。小型竜は攻撃に電撃も混ぜてくる。シールドを地面に刺し、電撃をアースする。

 火の玉でシールドが1枚破損する。僕はシールドから降りる。乗っていたシールドも防御に回す。


 小型竜が溜め始める、また部屋全体の電撃か!

 ラファが右手を前にかざす。

「ディンソル!!」

 ラファの右手に光が集まる。次の瞬間、小型竜の胸に凄まじい閃光の華が咲く。

 光が消えると、小型竜の胸は溶解、貫通し、背後の壁が見えていた。小型竜はゆっくりと倒れる。

 すごいな、焦点温度数千度はあるだろう、まさに高出力レーザーだな。


「よかった・・・・。」

 地面にはまだ水が残っているが、ラファはへたり込んでいる。

 奥の扉が開いた。床の水が排水されていく。


「さっきの、サクトだっけ?あれはどういう術法?」

 あの血が消える術について聞いてみた。

「供物を捧げることで、術の段階が、一つ上がるの。」

 血を捧げたのか・・・・・・。なかなか物騒な術法だな・・・・・。



 しばし休憩ののち、扉から奥へ進むことにした。僕はシールドを松葉杖のようにして歩く。何とか立ち上がれたが、戦うのは厳しそうだ。

 

 扉から進んだ奥の間は、再び、先ほどの部屋と同じくらいの広さだ。

 そこにはやはり、大きなドラゴンが居た。まさに先ほどの小型竜をそのまま大きくしたような姿だ。

 相変わらず、こんなところに居て窮屈じゃないのだろうか。


「ブレイヴ ラファよ、待っておったぞよ。」

 ドラゴンが語りかけてくる。

「わらわはマナルフ。そなたはわらわの試練を乗り越えた。わらわの加護を与えようぞ。」

 どこからともなくラファの上に光が降り注ぐ。

「そなたはさらなる力に目覚めた。次の試練に向かうがよい。」

 儀式は終わったらしい。マナルフ横の地面に、円形に幾何学模様や文字が書かれた円陣が描かれる。このあたりの流れは同じなのね・・・。


「マナルフ様、質問よろしいですか?」

 僕は元気に挙手した。マナルフにも聞きたいことがあるのだ。

「いやじゃ。」

「・・・・・・・。」


「と、いいたいところじゃが、仕方がないのぅ、一つだけ答えてやろう。」

 よかった、一瞬思考が停止してしまった。では気を取り直して。


「デウスマキナは、どこにいますか?」

 ラファは僕を見ている。そう、龍神なら、デウスマキナを知っているのではないだろうか。

「・・・・・・・・。」

 マナルフは沈黙している。少し感慨に耽るように見上げたのち、口を開いた。

「・・・・、これも流れかのぅ。いいじゃろう。デウスマキナの居場所は、最後の龍神フォルに問うてみよ。それでわかるはずじゃ。」

 これ、結局居場所は言ってないと思うのだが・・・・・・。まあ、ヒントはくれたから、いいか。どうせ、試練は最後までやるつもりだったし。



「わかりました。ありがとうございます。」

 僕たちはマナルフに礼を言い、円陣に乗ろうとした、

「ラファよ。」

 僕たちは足をとめ、改めてマナルフに向き直る。

「おそらく、その場に至るのは、ラファであろう・・・・・。お主の敵が何か、その本質を良く見定めることじゃ・・・。」

 僕は、その場には辿り着けないということなのか? 敵の本質? 何か裏があるということか?

「すまんのぅ、わらわたちは直接の助言ができぬのじゃ。そういう定めの元に存在しておるゆえに。」

 以前、知力を司る龍神イスティも「力が無い」と言っていた。龍神たちは、何かの制約の元に存在しているのかもしれない。


「ん、ありがと、考える。」

「うむ、気を付けてな。」

 再びマナルフに礼を言い、僕たちは円陣に乗った。

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