10.アム・デナ・サウ

「お前!」

 四天王が居なくなって、ほっとしていたら、ヒロムが詰め寄ってきた。初めてまともに目を合わせてきた気がする。

「それはなんだ、なんのスキルだ!?」

 フライングシールドを指差しながら喚く。

「術法も受け止めていたな。それに・・・・・・・。」

 まじまじと僕の全身を、上から下まで、なめるように見ている。エグゾスーツが気になったらしい。

「その恰好、まさか、お前も転移者なのか?」

 エグゾスーツ見てそういう感想が出ると言うことは、ヒロムのもとの世界はそれなりに文明レベルがありそうだな。

 しかし転移者ときたか、僕はただの異星人です。転移なんていう、奇天烈な方法でやってきた人と一緒にしないでいただきたい。

「転移者ではない。が、この世界の人間とも異なる。とだけ言っておく。」


「・・・・・、転生?いや違うか、・・・・・、俺とは別の世界からの転移?・・・・・」

 ヒロムはまた小声で独り言をつぶやく。が、急に視線を鋭くする。

「まさか、おまえデウスマキナの・・・・・。」

 あー、敵の間者と捉えたか。確かにそういう見方もできてしまうな。

 ラファさんや、そんなに心配そうにこっちを見なさんな。あなたご存知でしょう。

「いやいや、デウスマキナの手下が、着の身着のまま、無一文で大森林をうろうろして、クリーチャーに襲われないでしょ!」

 それすらも演技と疑われたら、もうこちらとして潔白は証明しようがないが。

 ふと横を見ると、ラファが「うん、そうだった、襲われて、死にそうだった。」という表情で何度も頷いている。そこまで同意しなくても・・・・・。


 ラファの様子を見て、事実であると認識したらしいヒロムは、捨て台詞のように告げた。

「ふん、まあ、スパイはこんな間抜けた顔をしていないだろうな。」

 とりあえず、信じてはもらえたらしい。よかった・・・・・、よかったのか?これ。

「ま、まだ、クリーチャーの掃討が、残っている・・・・。」

 たぶん、僕は表情筋が痙攣していたと思う。引きつりながらも、この状況を離脱するための一言を伝えた。




 クリーチャー群は順当に掃討された。人的被害はゼロではない、が、それほど多くの被害が出たわけでもなかった。

 やはり攻めてきた理由がわからないな。後方に四天王がいて、戦術的行動をとらせていたのに、結果、王都側には大した被害もなく収拾されている。

 初めから攻略が目的ではなく、戦力を削ぐことが目的だったのか? それにしても、被害が少なすぎるように思える。


 結局、どれだけ考えても、真意のほどはわからないか。



 再びヒロムと合流し、西門近くの仮設救護所までやってきた。ヒロムの仲間であるルーシアは回復もできるため、救護所の手伝いをしているらしい。

「そういえば、話が途中になっちまってたが・・・・、俺から言いたいことは、デウスマキナを倒すために手を貸せってことだ。」

 救護所の前まで着くと、ヒロムが唐突に話を再開する。


「私も、悲しい戦いは、止めたい。」

 ラファはしっかりとした調子で、ヒロムに答える。ガイラとも約束したしね。


 ヒロムは、ラファの答えを聞き、満足げだ。

「デウスマキナの居場所までは、まだ調べがついていない。デウスマキナと戦うにしても、戦力は必要だ。どのみちダークロードも倒す必要があるし、まずはフォースロードになっておけ。」

 相変わらず言い方が上からだな。

 龍神の社を全てめぐり、試練を終えたブレイヴが、フォースロードとなる。

「フォースロードになったら、また王都に集合だ。俺はこれから試練を回る。10日後くらいには戻ってくる予定だから、それまでにフォースロードになっておけよ。」

 なんと、ヒロムはまだ一つも試練を終わらせていないらしい。それでもかなりの戦闘能力だったように思える。

 さらに、10日で試練を回りきる予定であることも驚愕を隠せない。こいつ、本当はすごい奴なのかも・・・・・・、気持ち的にあまり認めたくないが・・・。


「・・・・・・・。」

 あ、ラファがまた少し落ち込んでる・・・・。

「ああ、わかった、10日後に、王都でまた。」

 代わりに僕が答えておく。これ以上ヒロムと会話すると、どんどんラファが落ち込みそうだ。

「ああ」

 とりあえず、ヒロムからは離脱できそうだ。



 救護所を後にした。そういえば、王都についてまだ宿もとってない。宿に向かおう。

「・・・・・・。」

 ラファは無言でついてくる。


 王都の大通りを二人とも無言で歩く。依然として喧噪は続いているが、戦闘後の混乱は収束しつつあった。

「ねぇ・・・。」

 ラファが口を開く。僕は立ち止まり、ラファに向き直る。

「ヒロムは・・・・・、すごいね・・・・・・・・。私は、もう、要らないかな・・・・・。」

 ヒロムは残念な奴だけど、実力は確かにすごい。残念な奴だけど。ヒロムの能力を前に、ラファはアイデンティティを見失ってしまっているようだ。

 あんな残念な奴と比較しなくてもいいのに。


 目の前で落ち込んでいるラファの頭は、僕の胸あたりの高さだ。

 なんとなく、手を伸ばしやすかった、頭に手を置いた。軽く撫でる。ちょっと子ども扱いしすぎかな・・・・。

「ラファはすごいよ・・・。僕には真似できない。」

 こんなに使命に準じて生きることは、僕にはできそうにない。

「それに、僕にはラファが必要だ。」

 僕は攻撃できないしね。一緒に戦わないと、逃げの一手だ。

 

 ラファは一瞬顔を上げる。また真っ赤になっている。やっぱり頭を触るのはダメだったかな。焦って手を引っ込める。

「・・・・・・うん。」

 ラファはまた俯いた。


『なでポ、高等テクニックを行使していますね。勇介様の技術評価を見直さざるを得ません。既に好感度最大、いつでも攻略可能です。ただ、勇介様、鈍感系主人公を気取りすぎです。』

 ツッコミどころが多すぎて、対応しきれない。モグラ叩きで、全部の穴から同時にモグラが飛び出してきたような気分だ。


「と、とりあえず、今日の宿とって、ご飯にしよう。昼ごはんも食べてないし、お腹空いてきた。」

 焦って、行き先を確認しつつ、移動を再開する。

 僕だって、これまでのラファの反応の意味は一応わかっているつもりだ。でも、僕はそれに応えられない。いずれ旅立つ時が来てしまうから・・・・。





 王都で1泊ののち、僕らは翌朝にすぐに出発した。正直なところ、ヒロムと再び遭遇するのを避けた意味もある。


 フローティングバイクで南へ向かう。途中野宿で1泊し、翌日の夕方にはアム・デナ・サウに到着した。ここが龍神の社4つ目だ。

 アム・デナ・サウの近くには、ラファのふるさとであるギョマ村があると聞いた。少し寄ってみるかと聞いたが、答えはNOだった。旅が終わるまではふるさとには戻らない。という、決意めいたものがあるようだ。


 今日はもう夕方であるため、アム・デナ・サウの宿で休むことにする。試練は明日からだ。ラファは宿を取ると、夕食を食べ、すぐに休んだ。相変わらず無駄がない。



 翌朝、早速試練に挑むべく教会に向かう。アム・デナ・サウは切り立った崖の一部を掘ったように造られている。港は崖を掘った中にあり、住宅などは崖の上に建っている。昨日泊まった宿は崖の上だ。試練を受ける教会も崖の上、アム・デナ・サウの中心部にあった。


 教会に立ち入る。ここの教会も礼拝堂のようになっている。前方には西洋竜の石像があるのも同様だ。礼拝堂には誰もいない。

「ごめんください・・・・・。」

 ラファがぼそりと声をかける。教会の中から反応はない。もう少し大きな声で言わないと聞こえないのではないだろうか。

「ごめんくださーい!!」

 ということで、僕が声を張り上げる。

「はいはいはい、ただいま、まいりますよ。」

 礼拝堂横の扉から、人当たりのよさそうな壮年の男性が出てきた。

「おまたせいたしました、本日はどのような御用ですかな?」


 ラファは右腕の紋章を見せる。

「試練を受けにきた。」

 男性が驚愕の表情をする。

「おおブレイヴ様!! 旅をされているとは伺っておりましたが、早くもここまでお出でとは。」

 男性は驚きの声を上げている。バイクで移動時間を短縮したので、結構早く着けたからかな。

 ラファはやや憮然とした雰囲気で続けた。

「それより試練へ案内してほしい。」

「そうでしたな、では早速。」


 壮年の男性、ジョシュアさんの案内で、建物奥、石造りの扉の前に案内された。

 ジョシュアさんは話好きのようで、案内の道中、ひたすら話し続けていた。ラファじゃなくても結構うんざりだ。

「こちらでございます。この先です。」

 ジョシュアさんが扉を開くと、暗い石階段が地下へと続いている。なんだろう、少しピリピリした空気を感じる。

「それでは、お気をつけて・・・・。」

 ジョシュアさんに見送られ、僕たちは階段を下って行った。

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