9.王都防衛戦

 ヒロムの仲間3人と僕は、城壁の上に居た。正面にはクリーチャーの大群。

 ラファとヒロムは別行動だ。大群後方の四天王へ奇襲を行うため、側面へ回り込んでいる。

 まずは、僕たちが正面から、クリーチャー大群の足止めだ。


 城壁の上には、弓兵や術法使いたちが並ぶ。城門の中、大通りには道一杯に歩兵部隊が集結しつつある。

 最初は術法による遠距離攻撃。その後は城壁上から矢や投石などを用い、城壁で防御しながらの攻撃だ。

 クリーチャーにある程度の被害を与えた後で、歩兵部隊が突撃を行う作戦のようだ。


 ヒロムの仲間3人は、斥候のサリナ、術法使いのジミア、回復・補助のルーシアだ。

 サリナは斥候ということで、日頃は短剣を使っているらしいが、今回は弓を使うとのことで、3人とも城壁の上で待機だ。

 僕はと言えば、防御しかできないため、最初は城壁で敵方の遠距離攻撃を防ぎ、歩兵部隊展開後は、乱戦での味方防御を予定している。



 バックパック展開、スーツを装着する。

「アイ、フライングシールドを。」

『かしこまりました。』

 フローティングバイクが入っていたコンテナの中には、予備のフライングシールドが6枚格納されていたため、バイク側面に取り付けて持ってきている。それを遠隔で起動する。

 本来、護身用軽装甲エグゾスーツにはフライングシールドの操作システムが搭載されてないが、防衛型エグゾスーツのプログラムを転用し、運用可能にしてある。


 フローティングバイクの隠蔽場所あたりから、フライングシールドが飛び出し、僕の周囲にピタリと浮かぶ。

 スーツとフライングシールドに、ヒロムの仲間たちは唖然とした目を向けている。じろじろ見ても説明はしないぞ。



 クリーチャー群は、城壁から約1km程度の距離で停止した。そしてクリーチャー群後方から、いくつもの火の玉が上がる。術法使いタイプのクリーチャーからの攻撃だ。

 四天王が指揮しているだけあり、戦術も駆使してくるようだ。

 城壁上の術法使いたちも一斉に呪文を唱える。

「ガルマシルガーラ!!」

 城壁の前方に半透明の円形障壁が顕現する。これまた原理不明だな・・・・・。

 放物線を描いて飛来する火の玉は、防壁に遮られ、城壁には着弾していない。


 術法使いの一部が新たな動きを起こす。

「ガルラルダ!!」

 クリーチャー群上空に暗雲が立ち込め、そこから落雷が降り注ぐ。しかし、これもクリーチャー群が展開した防壁で止められている。



 激しい術法の応戦が続く中、クリーチャー群はじりじりと城壁に近づいてくる。

 残り500m程度となった段階で、クリーチャー群は一気に加速、城壁めがけ一斉突撃してくる。

 今度は弓兵だ。城壁上から次々と矢を放ち、クリーチャーたちに攻撃を加える。クリーチャー側からも投石や投げ槍が飛んでくる。

 さらに、クリーチャーの中で飛行能力があるらしい一団が離陸し、先行して城壁の上に直接攻撃を加えてきた。

「グリフォンとワイバーンが来るぞ!!上空に注意しろ!!!」

 城壁上の指揮官らしき兵士から指示が飛ぶ。


 僕は、飛行型クリーチャーから、弓兵や術法使いを守る。次々飛来するクリーチャーの攻撃を、フライングシールドで弾き返す。

 弓兵たちは飛行型を優先して落とすことにしたらしく、飛行型クリーチャーは次々と撃墜されていく。


 飛行型クリーチャーとの攻防をしているうち、ついに地上部隊が城壁に取りつく。

 改めて間近で見ると、オオカミ型、リザード型、イノシシ型他、様々なタイプのクリーチャーが混在している。だいぶかき集めたって感じだな。

 地上クリーチャーに対し、石や熱湯などを落とし攻撃を加える。

 地上クリーチャーたちは城壁を登る、もしくは城門を破壊しようと爪を立てたり、体当たりを加えるが、今のところ城壁は問題なさそうだ。

 

 これなら時間はかかるが、凌げそうだ。しかし、攻め方は単調だな。この程度の戦力では、城壁を突破できないことが事前にわかりそうだが・・・・。


 そんな思惟も、火柱の出現に中断を余儀なくされる。2kmほど先、クリーチャー群後方だ。あれは、先日の親カルガモか。

 ということは、ラファたちが接触したのか。

 現状の不安要素は後方の四天王だといえる。ヒロムの言葉を借りるなら、ブレイヴでなければ、相手にならないとの評価だったし。


 2kmほど先で何度も火柱や爆発が発生する。戦いの激しさがこちらからも窺える。

 火柱はついに炎の竜巻に変化した。他にも土壁が乱立している。何かおかしい・・・・。

 親カルガモは竜巻や土壁は使っていなかった。力を隠していた可能性もあるが、あいつの異名は確か"炎の化身"だ。たぶん火専門だろう。竜巻はまだしも、土壁はどう考えてもおかしい。

 嫌な予感に後押しされ、僕は城壁から飛び降りる。


「あっ!」「なに!?」

 後ろから何人かの驚嘆が聞こえたが、無視する。

 僕はクリーチャーの群れのど真ん中に着地する。周囲のクリーチャーが一気に飛びかかってきたが、それを適当に往なし、クリーチャーの合間を抜けていく。


 炎の竜巻に近づくと、いよいよ戦いがよく見えるようになってきた。ラファとヒロムが、"3人"を相手に戦っている。

 先日の親カルガモが1人目。それに露出が激しい服装の女が2人目。青色い肌だが亜族かな、ビキニの水着のような姿だ。最後に、フード付ローブで全身隠れている男が3人目。こちらも亜族のようだ。顔つきやや痩せ形。神経質そうな鼻眼鏡をかけている。


 ラファが風に煽られ、吹き飛んでいる。体に切り傷が生まれる。あれはかまいたち!?

 僕はフライングシールドを飛ばし、ラファを包むように防御する。

 風に流すように、火の玉が大量に流れ、ラファに接近していく。

 ラファの前に立ちはだかり、迫る火の玉をスタンナックルで全てかき消す。

「ユウ!!」

 ラファの怪我はそれほど深くはないようだ。


「なに!? おまえは・・・・?」

 ヒロムが僕に何か言いかけた。そうか、今エグゾスーツで顔隠れてるな。しかし説明している暇はない。

『下方、地中に重力震。下方からの攻撃に注意。』

 アイからの警告。何が来るかわからないため、フライングシールド2枚を股下に滑り込ませる。

 地面から硬化した土の槍が飛び出し、フライングシールドの表面をガリガリと削る。石筍にしては鋭利だ。

「四天王3人だ! 火!風!土!」

 ヒロムはこちらに接近しつつ、端的に状況を伝えてくる。それで、竜巻や土壁だったんだな。

 ラファとヒロムを僕の防御圏内に入れるべく身を寄せた。

 敵3人も同じく3人が接近している。


「お前はあの時の!! お前もそのブレイヴと一緒に燃やしてやるぜ!!」

「あら、なかなかかわいいじゃない、そっちの生意気そうな子よりも好みだわ。」

「なにやら面妖な術を使うようです。用心を。」


 発言が見た目通りの印象過ぎだ。

 僕はこの中で、一番面倒な能力は土だと判断した。攻撃の隠密性、能力の応用性、他2人のフォローに回ったとしてもいろいろと面倒だ。

「ヒロム! 土だ!!」

 一瞬ヒロムが呆気にとられた顔をするが、すぐに頷く。視線で土の四天王を教えてくれる。やはりフード付き神経質鼻眼鏡か。そんな気はしてた。

 ラファに目配せする。ラファはすぐに察したのか、ニヤリとしつつ頷く。



 ヒロムが鼻眼鏡へ向かって直進する、直後にラファが続く。僕はラファに並びヒロムに追従する。

 四天王3人の攻撃が集中する。シールド4枚を左右に壁のように突き刺し、風除けにする。

「左前方二歩前!!」

 土槍の出現予測を先に伝え、3人で避ける。

 鼻眼鏡が目の前に土壁を生成してくる。それに合わせ、フライングシールドで階段を作り出す。駆け上がる!

 シールドの階段を駆け上がり、土壁上空に躍り出る。と、先を読んだように、炎の竜巻が襲いかかってきた。

 予想通りだ。飛び上がったのは僕だけだ。ラファとヒロムはシールドの階段を上がっていない。

 僕は両手のスタンナックルを帯電、炎の竜巻を受け止める。


 ラファは土壁を前にして、力を溜めていた。

「ギガスザッパー!!」

 ラファのスキルが土壁に激突する。土壁を構成する土くれが飛散し、大きく溝が開く。その溝からヒロムが飛び出す。

「食らえ!! 十連ラピッドスラッシュ!!!」

 土壁の向こう、鼻眼鏡にヒロムの速射スキルが殺到し、鼻眼鏡は切り刻まれる・・・・・。なにかおかしい。アレは、土人形!? ダミーか!

 その瞬間、鼻眼鏡ダミーの中から炎が溢れ出し、爆散する。ヒロムが炎に巻かれながら吹き飛ばされる。


「ぐはっはっはっ! 狙いがわかってりゃあ、罠ぐらいはるぜ!!」

 カルガモが勝ち誇って言う。

「・・・・、そのとおり。」

 カルガモの体に斜めの線が走る。

「あ?」


「ギガスザッパー・・・。」

 ラファが、カルガモを背後から袈裟斬りにしていた。そう、僕の狙いは初めからカルガモだった。

 能力の厄介さでは鼻眼鏡だ。だが、新参2人はどんな隠し玉を持つかわからない。現に、土人形でダミーを作っていた。

 なので、一度戦ったことがあり、ある程度能力も分かっているカルガモを狙ったのだ。以前の戦いでも、ラファのギガスザッパーが効くことが分かっていたからだ。

「がああああぁあぁぁぁ!!!」

 カルガモの体が崩壊を始める。

 

「まずは一人。これで、こちらが数的優位に立ったな。」

 敵にプレッシャーをかけるための言葉をあえて言う。


 露出女は驚愕と愉悦の入り混じった表情で僕を見てくる。

 鼻眼鏡は表情が変わらない。こいつはやっぱり面倒だ。



「四天王をここで失うのは本意ではありません。ここは引きます、ヴィージャーいいですね?」

 鼻眼鏡が露出女に確認するように言う。まるで、仕方なく付いて着てやったと言いたげだ。

「わかったわよ、トリスタル・・・。」

 露出女もやれやれといった仕草をしたあと、軽く手を振る。


 崩壊寸前のカルガモの周りに風が渦巻き、カルガモの崩壊を押さえつける。

 鼻眼鏡が指を鳴らすと、カルガモが土壁に覆われ、まるで棺桶のように包まれる。


「私は亜軍軍師トリスタル、今日のところはそちらの勝ちとしておきましょう。だが、借りはいずれ返します。」

 四天王3人は、風で舞い上がり、飛び去って行った。

 さすが、名前付きの敵はしぶとい。

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