8.接近

 ハイ村に一泊し、翌朝、僕たちは出発する。しかーし、これからの道中は一味違うぞ。

「じゃーん。」

 僕はラファにお披露目した。

「・・・・・? ただの石?」

 そう、目の前にあるのは、大きな石だ。だが! これは擬態しているのだ。

「擬態解除」

 石の表面が消え、銀色の膜が閉じる。中からフローティングバイクが現れた。

 昨日、荒野に墜落している卵、もといコンテナの中から、これを発見した。他にも予備のフライングシールドを見つけた。

 アイさんに、ラファ乗せていい?と確認したところ『かなりアウトですが、つま先の先端2mm位でセーフとしておきます。』という言葉をいただいたので、お披露目した次第だ。

「すごい術法・・・・。擬態の術法なんて初めて知った。」

 そうそう、術法だよ、術法。

「えーっと、月の技術です。」

 とりあえず、これで押し切ろう。



 バイクに二人乗りで急に快適な旅になった。ちゃんとヘルメットかぶってるよ。

「すごい、速い・・・・。」

 言葉少なではあるが、感動しているらしい。僕の後ろにしっかりしがみ付いてて、かわいい。庇護欲をそそられる。


 バイクでの移動とはいえ、1日で踏破できるほど大陸は狭くない。3泊ほど野宿した末、王都ミルシャリスに到着した。

 徒歩だと10日以上かかる目算だったので、圧倒的な速さだ。なにより、バイクの速度にクリーチャーが追いつけないため、襲われない。なので非常に安全な道中だった。

 王都にそのままバイクで乗り付けると目立ってしまう。なので、少し離れたところで岩に擬態させ、歩いて門から入場する。



 王都というだけあって、中心には立派な王城が見える。中央の塔がやたらと高い。結構特徴的な形の城だ。

 僕はまだ大都市はウイルコースしか見ていないが、ウイルコースよりもはるかに巨大な都市だ。見える建物もすべて石造りだ。

「王都に、こんなに早く、帰ってこれるなんて、予想外。」

 バイクの後部座席は疲れるらしく、ラファは少々ぐったりしている。

「まだ昼前だけど、今日は王都で一泊しよう。だいぶ早く着けたしね。」

 僕の言葉に、ラファは頷く。



 宿を探すため移動しようとしたが、ラファが立ち止って動かない。

 ん? 様子がおかしい。

「え、なに? だれ?」

 どうしたんだろう。誰かと話をしているのか?

「え、王都? いや、あの・・・・・、西門、です。」

 今の居場所を聞かれているようだ。確かに今は西門にいる。


「え? え? え?」

 ラファがものすごく戸惑っている。

「どうした、ラファ、大丈夫!?」

 ラファの顔色が悪い。

「今から、来るって・・・・。」

 街の中心部方面から、4人の男女が歩いてくる。あいつらか?

 全員、ずいぶんと良い装備で固めているように見える。なんというか、派手だ。


「お前がラファか?」

 一番若そうな男がラファに話しかける。ラファと同い年くらいだろうか。ずいぶん偉そうだな。

 なんだろう、少し雰囲気がこの町の、いやこの星の人たちと違う気がする。


「ラファって名前なのは聞いてたんで、ポジションで居場所は追ってたんだ。そしたら、今王都にいるのが分かってな。」

 ポジション?そういう名前の術法か?

「んで、ウイスパーチャットで話しかけさせてもらった。」

 チャット・・・・・、なにやら妙な単語が並んでいる。なんだろうか、この違和感。



「俺はヒロム。こいつらは俺の仲間だ。」

 仲間はその他大勢な紹介の仕方だ。それって仲間っていえるのか・・・?

 少々高圧的で、あまりお近づきになりたくないタイプっぽいが、とりあえず礼儀として、名乗っておく。ラファが停止しているので、僕が。

「僕はユウ。こっちはラファだ。」

 僕の方には一瞥すらくれない。完全に眼中にないらしい。うむ、イライラしてはいけない。落ち着け僕。


「俺はブレイヴだ。」

 そういうと、ヒロムは右袖をめくって見せる。確かにあの紋章はラファの物と同じだ。

 ブレイヴは一人だけ覚醒するのではないのか? ガイラの話ぶりでは、一人だけのように聞こえたが。


「え、そんな、私、ブレイヴなのに・・・・・・・。」

 ラファも同じことが疑問だったようだ。

「厳密に言えば、俺は真のブレイヴってことらしいぜ。そんなことよりもだ、お前に話があるんだ。」

 ラファは顔が真っ青になっている。

 多くを聞いたわけではない。それでもブレイヴの使命のために、ラファがいろいろなモノを犠牲にしてきていることは想像できた。

 それでも、平和のため、みんなのために頑張ってきたのに、こいつは、"そんなこと"だと!?


「まて、"そんなこと"で片づけるな。ラファはブレイヴであるために、心身を削っている、それを一言で片づけるな。訂正しろ。そして、お前が真のブレイヴである根拠について説明しろ。」

 僕は口を挟まずにはいられなかった。ちょっと語調が強すぎたか・・・?

「んだよ、てめぇには話してねぇよ。モブは黙ってろ。」

 応対がすごく雑だ。こちらをまるで人間扱いしていない。そろそろ堪忍袋が破裂しそうだ。

「訂正し、説明しろ。でなければ、お前の話は聞く価値が無いと判断する。」

 僕も理性では良くないとは分かっているが、気持ち的に受け入れられない。


「チッ、面倒な・・・・。」

 ヒロムが小声で何かつぶやく。ヒロムの自分勝手な言動に血が熱くなるのを感じた。が、ラファが俯いて動かないことに気付いた。

 いかんいかん、少し落ち着こう。

 ラファが少しでも落ち着くよう、ラファの手を握った。

「そういう設定かよ・・・・・。」

 再びヒロムが何やらつぶやいていたが、気にしないでおく。


 僕は深呼吸をして心を落ち着ける。

「説明が無いなら、僕らはもう行くが?」


 やれやれ仕方ない、と言葉が聞こえてきそうなほど分かりやすい態度を見せつつ、ヒロムが話す。

「俺は転移者だ。異世界からここへ転移してきた。」

 予想外、ではあるが、ヒロムからこの星の人間とは違う雰囲気を感じていたため、そこまで驚愕はしなかった。逆に納得したくらいだ。

 気になったのは、転移という現象だ。発生した状況や原因はなんだろうか・・・・・。

 ガイラが言っていた"これまでと異なる流れ"に、何か関係があるのだろうか。


 僕のその表情を、ヒロムは単純な驚きと捉えたのか、満足げに続ける。

「本来、ブレイヴとは転移者が成るものだ。お前が何故ブレイヴに選ばれたのか、そのあたりは俺にもわからねぇけどな。」

 それで、ヒロムが"真のブレイヴ"だと言ったのか。

「あー、一応フォローしとくと、スキルが使えるのはブレイヴだけだ。お前もスキル持ちだろ? ブレイヴなのは間違いねぇよ。」

 確かに、ラファは攻撃スキルを使用していたっけ。フォローとは言っても、本当にただの気休めだな。

 ラファは相変わらず表情が優れない。ああ、こんなことなら、急いで王都に来ないで、もっとゆっくり旅してくればよかった・・・・。


「それで、話というのは? できれば手短にしてほしい。」

 話が済まないと解放されそうにないため、手早く話を終わらせるように急かす。


 お前が仕切るなよ、と言いたげな視線を向けつつ、ヒロムが口を開く。

「ダークロードではない、真の黒幕が居る。」

 衝撃が走る。ガイラとの話が思い出される。ラファもこれには驚きが隠せないようだ。

「デウスマキナ、この世界を操っている黒幕だ。」




 突然、けたたましく警鐘が鳴り響く。間近の西門からだ。西門の外、遥か遠くに砂埃が上がっている。西門の大扉が閉じられていく。

 僕は周囲の建物から蹴りあがり、屋根伝いに西門の上、見張り台に登った。西門見張り台にいた警備兵が驚愕しているが、今はそれどころじゃない。


 視覚強化、拡大。視界の一部が切り抜きされ、拡大表示される。クリーチャーの大群だ。王都に向けて進軍している。

 ん、あれは、親カルガモだ。交戦から何日も経っているだけに、既に傷は癒えているようだ。

 

 僕は西門から飛び降り、ラファの元に戻る。

「お前、何者だ? ステータス・・・・計測エラー!?」

 ヒロムが僕に対し、何やら疑問を抱いているようだが、今は後回しだ。

「西からクリーチャーの大群だ。親カルガモ・・・・、えっと四天王だっけ? の姿もある。」

「まさか、ファルガイスト!?」

 ラファが驚いている。一度交戦しているだけに、親カルガモの実力がよくわかっている。あまり何度も戦いたい相手ではないな。


「四天王だと!? こんな展開は聞いたことがない!」

 ヒロムまで驚いている。なんかこいつの発言はちょいちょい引っかかるな。

 こちらの思いなどお構いなしに、ヒロムがラファに詰め寄る。

「おい、お前! 四天王はその辺のモブでは相手にならない。俺とお前で四天王を倒す!」



「ラファ。」

「?」

「私はラファ、"お前"じゃない。」

 ラファには先ほどまでの怯えたような表情は無い。強い意志のある眼をしていた。

「あ、ああ、分かった、ラファ、俺とラファで四天王と戦うぞ。」

 ラファが力強く頷く。精神面が少々不安だったが、大丈夫そうだな。

 続けて、ヒロムは自身の仲間たちに指示を出す。

「お前たちは、雑魚を倒せ。四天王には手を出すな、返り討ちだ。」

 完全に分業するのか。

「お前は・・・・・・・。」

 僕の行動まで指示出さなくていいのに。ラファが心配げな視線を向けてくる。



「ラファ、心配しないでも大丈夫、僕は城門を護るよ。クリーチャーは一匹も入れない。」

 心配そうな顔をしていたラファだが、最後は頷いた。

 さぁ、王都防衛戦だ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る