2.新たな任務
ソレイユはサンドロアに着陸している。
本当はソレイユを衛星軌道に待機させておき、僕が単独で大気圏突入するのが効率的だ。だけど、まだエグゾスーツ単独での大気圏突入に慣れない。だから、余裕がある時はソレイユごと着陸する場合が多い。
「はぁ、目標は持ち逃げされ、その上、虫と3時間も遊んでしまった・・・・・。」
砂虫の執拗な追跡をやっとの思いで振り切り、数少ないサンドロアの岩場に着陸しているソレイユのところまで戻ってきた。
なんとか持ち帰ったフローティングバイクを格納庫に押し込んだところで、格納庫の奥から怒声が響く。
「おい、バイクボロボロじゃねぇか!」
あ、サイトウさんだ。
ソレイユには装備品の修理や改造を行うメカ工房と、それに付随してメカ職人"サイトウ"が搭載されている。
サイトウさんはロボットだが、腕は確かです。
全身金属製のサイトウさんは、カシャカシャと機械的足音で寄ってくる。
フローティングバイクをあちこち見回して再び怒声を上げる。
「フレームまでガタガタじゃねぇか!! フルメンテだぞ、こりゃ!!」
フローティングバイクはミミズどもにさんざん吹き飛ばされ、噛みつかれ、投げられ、また噛みつかれ、と僕の代わりに大変ひどい目に遭っていただきました。
「ごめんなさい、サイトウさん、また直してください、よろしくお願いします。」
素直にお願いしておく。こういう場合は素直が一番です。
「ユウ坊は仕方ねぇな、まったく。お前さんの身体は俺じゃ修理できねぇんだから、あんまり無茶するんじゃねぇぜ。」
サイトウさんは、口は悪いがいい人なのだ。いや、ロボットだけどね。
ソレイユ内住居空間のリビング・ダイニングスペースに入る。
僕は椅子に座り、ばったりと食卓に倒れこんだ。
あー、つかれた・・・・。
『過去の戦闘データと比べ、被弾率が15%低下しており、エグゾスーツの操作技能が向上しています。この調子で続けましょう。』
アイさんに褒められました。
少し疲れが癒えた気がする。男って単純よね。
「"想起の水鏡"の確保は失敗でしたか。」
僕はがばっと顔を上げる。
「あ、はい、持ち逃げされてしまいました、すみません。」
銀髪をオールバックにし、全身白銀色の衣服を纏った姿で、管理者が立っていた。
せっかくアイさんに癒された疲れが戻ってくる気がする。
「"想起の水鏡"はそれほど脅威度の高いレガシではありません。いずれ市場に出てくる可能性もあるでしょう。そちらを監視することとします、ただ、」
管理者はやや厳しい口調で続けた。
「脅威度の如何にかかわらず、目標確保は必達事項です。今後は注意してください。」
「はい、ごめんなさい。」
管理者はため息ひとつ、やれやれといった具合でさらに続ける。
「まあ、人間、失敗することもあります。同じ失敗をしないよう、気を付けましょう。」
「はい、ありがとうございます。」
「では、次の任務です。」
「切り替え、早いっすね・・・・。」
管理者は構わずにつづけた。
「"三種の神器"をご存知ですか?」
「いえ、知りません。」
僕はきっぱりと言い切った。剣と鏡と曲玉じゃないよね?
「天墜の梢、聖杯、忘却の羅針盤、さまざまな言い伝えが残る三種のレガシです。これら三種がそろって伝承に残されていることが多いため、"三種の神器"と呼ばれています。」
天墜って、すごく中二病っぽい。そこに控えめに梢とか付けてるところが、中二病の患い具合が重体であることを示してる。
「天墜の梢は強大な武を司り、持ち主に強力無比な力を授けるといわれています。実際に過去数度にわたり、天墜の梢によると考えられる大破壊が確認されています。」
ものすごく物騒なレガシだった。さすが中二病。
この小枝だか梢だかには関わりたくない。
「聖杯は永遠の命を与えてくれると言われています。絶対に破壊できない素材でできているとも言われています。」
聖杯はそんなに物騒じゃなかった。
永遠の命って、フィクションでは大抵あまり良くないものとして言われることが多いよなぁ。
「忘却の羅針盤は語られることは多いですが、詳細はあまり知られていません。どうやら、神器を探すことができる能力を持っているようです。」
最後は地味だった。とかなんとか言いながら、使うと忘却するとか変な能力があるんだ、きっと。騙されないぞ。
「できれば、聖杯がいいです。」
「昨日、惑星カルミーニが崩壊しました。目撃者の情報によると、おそらくは天墜の梢によるものだと推測されます。」
管理者は僕の言葉などお構いなしで一息に告げた。
やっぱり一番来てほしくないやつだった・・・。
「カルミーニ崩壊後、天墜の梢は行方不明です。この天墜の梢の捜索を行ってください。」
えぇー、ただ探せといわれても・・・・。
「あの、なにか手がかりはあるのですか?」
「天墜の梢は槍です。穂は二股。それほど細工もなく、休止状態では地味な外見をしているそうです。」
「いや、あの、行方の手がかりとかは・・・・・・。」
「・・・・・・・・。」
あ、無いんだ・・・・。
「まずは惑星カルミーニの跡地の赴き、現地調査から始めてください。」
「・・・・はい、わかりました。」
管理者は消えた。
「既にレガシの起動反応は追跡したんだろううなぁ。」
管理者が任務として指示してくるということは、恐らくはカルミーニ周辺には無いんだろう。となるとどうやって追うか。
「手伝ってやろうか?」
部屋の入り口。
腕を組んで壁にもたれかかって立っている男が居る。
「お前は!!」
さっき水鏡を持ち逃げした男だ。
男は適当に髪は後ろに流しており、無精ひげが生えている。
膝まである丈の黒いコートはフード付きだ。ズボンも黒い。どちらも生地は少々厚手か。
白いシャツを着ているが、やや黄ばんで皺だらけになっている。全体に小汚い。
この星であんな恰好は暑くないのだろうか。
「ロックもかけずに、物騒だぜ。俺みたいな奴に侵入される。」
「鍵しまってないからって、勝手に人の家に上がりこむのは犯罪だと思います。というか、何で侵入センサー反応しない!?」
ソレイユのハッチを強制解放したり、侵入者があった場合には、アイさんが教えてくれるはず!
「そりゃ、まあ、あれだ、企業秘密ってやつだ。」
「やってることは完全に空き巣の手口じゃないか。泥棒、水鏡返せ。」
男はにやにやと笑いながら続ける。
「まあまあまあ、細かいことは気にするなよ。俺だって好き好んで潜り込んだわけじゃない。あれだ、協力関係ってやつを結ぼうってんだ。」
そう言いつつ、男はふらふらと僕の近くまで移動し、肩に手をかける。
馴れ馴れしいやつだな、こいつ。
僕の「水鏡返せ」を完全に無視しやがったし。
「俺ぁ聖杯を探してる、お前は槍がほしい。羅針盤ならどっちも探せる。そして俺は羅針盤を探せる。」
男は意外な話を語ってきた。確かに伝承の通りなら、羅針盤があれば天墜の梢は探せる。
でもそれで僕に協力できる部分があるのか?
「それなら一人で聖杯探せばいいだろ? 僕に何を求めるんだ?」
男はわざとらしくやれやれという手振りをしながら話す。
「船が壊れちまってな。」
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