2章 三種の神器
1.想起の水鏡
遥か彼方に三角の物体が見える。
昼間の砂漠から立ち上る熱気により、景色がゆがんで見える。
それでも、明らかに人工物な三角があるのがわかった。
一面砂ばかりの景色にもいい加減うんざりだ。なので、砂以外のものが見えたのは喜ばしい。
僕は砂漠の中をフローティングバイクで疾走していた。
フローティングバイクは浮遊するバイクだ。
当然ながらエグゾスーツは飛行できる。だから、移動手段としてフローティングバイクを使う必要性は全くない。ないのだが、Rimに無理を言って準備してもらった艦載装備品だ。
やっぱり、男なら一度はバイクに憧れるよね。
気温は摂氏50℃を超えている。エグゾスーツの保護機能とセルグリッドの調整機能により、僕自身の体感は快適に維持されている。
しかし・・・・・。
「景色を見ているだけで暑さを感じるよ・・・・。」
三角のピラミッド状の建造物に近づくに伴い速度を緩める。
フローティングバイクをピラミッド横に駐車し、探索を始める。
「入口がどこにあるかわかる?」
『・・・・・スキャン、壁の薄い地点を発見しました。視界に表示します。』
誘導に従い、ピラミッドを回り込む。
視界に映るピラミッド壁面の一部が別の色でマーカーされている。
「この壁に何かギミックがあるかもしれないのかな・・・。」
壁を撫でまわしてみたが、特に仕掛けなどが見当たらない。
ちょっと叩いて音を確認してみるか。
コンコン・・・・ドゴン!!
「あ・・・・・。」
ノック程度のつもりが壁に腕がめり込んだ。
振動で壁が崩れ落ち、縦横3mほどの穴が開いた。
『・・・・・・・・。』
「け、結果おーらいってことで・・・・。」
壁に開いた穴を覗き込む。
中は完全な暗闇のため、暗視ビューにしても見えない。
ヘルメットのライトを点灯し中へ進む。
分かれ道などは無く、上がったり下がったりした結果、行き止まりの小部屋にたどりついた。
音波スキャンのよると、この先に隠し部屋のようなものがあるようだ。
改めて行き止まりの壁を調べると、壁と思っていた場所は大きな石材で通路を塞いだものだったようだ。
これまた特にギミックも見当たらない。なので石材を力任せに動かす。
石材の先はさらに別の部屋だった。
石材で構築されていたピラミッド内部と比べて大きく様相が異なる。
床は何かの金属で一体成型されているように見える。歩くたびにコツコツと音が響く。
奥には祭壇のような台がある。
「鏡か?」
台の上、手のひらサイズの鏡が展示用の枠に嵌まった状態で置かれている。
「明らかに、取ったら危ない雰囲気を出してるな、これ。」
祭壇脇に石材があり、文字が刻まれている。
「アイ、読める?」
『サンドロアの古代文字です。』
『過ぎ去りし水を取り戻す鏡なり。その水は飲むこと叶わず、再び流れゆかん。』
『この鏡求めし者に、災いあれ。』
「情報通りか、過去を見ることができる鏡、"想起の水鏡"に間違いなさそうだ。」
最期の一文は言われなくても、なんとなく予想できたけど・・・・・。
さて、今回の任務はこれを持ち帰ることだ。ということは、この展示用の枠的なモノから外す必要があるわけだが・・・・。
水鏡が嵌まっている枠を観察する。
接触センサーかな、やはり取り除くと何か起こりそうだ。お、よく見ると枠の側面に細かい配線。
配線をたどると祭壇の後ろを床まで伝い、さらに祭壇後ろの壁まで続いていた。
あ、壁の一部に小さなメンテナンスハッチらしきものを発見!
「ハッチの中には端子か、接続できそう?」
『やってみます。』
スーツの腰からワイヤーを延ばし、端子に差し込む。
ワイヤーの先からセルグリッドが注入される。これで端子形状に関わらず接続が可能だ。
コトン
背後からの物音に振り返る。
見たことのない男が、水鏡を手に取っていた。
「・・・・・・・。」
「あー・・・・、こういうのは早いもの勝ちって、言うよな?」
部屋全体に不気味な赤い光が走る。
男は既に居ない。逃げ足が速いっ!!
下から突き上げるような激しい振動、僕はその場で転がった。
「まずい、ピラミッドが崩れる!!」
盗人は生き埋めとは、大胆な盗難防止機能だな!!
飛行機能全開でピラミッドを脱出する。再度の振動、通路側崩壊寸前だ!!
ピラミッドの出口から飛び出した瞬間、周囲の砂漠から砂柱が立て続けに上がる。
「あー、狙いは生き埋めじゃなかったのか・・・・。」
巨大なミミズ状の化け物が砂から飛び出し、鎌首をもたげつつ大きな口を見せつける。
「砂漠で砂虫って、お決まり過ぎだろ!!!」
続けざまに大量の砂虫が出現。
「あ、そのくらいで勘弁してください。」
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