3.惑星サロマナ

「俺の名は・・・・リックだ。トレジャーハンターのリックだ。」

 男はそう名乗った。

「僕は天草勇介だ。」

「アマコサ、ユーソケ?」

「ゆうすけ。」

「ユースキー?」

「もう、ユウでいい。」

「わかったユウだな。」

 銀河連邦共通語だと日本語の名前は発音し辛いらしい。

 ああ、ちなみに、僕も会話は銀河連邦共通語で行っている。セルグリッドによる記憶領域強化の恩恵で、新しい言語を覚えるのも楽勝でした。この能力、学生やってるときにほしかった。


「それで、どうやって忘却の羅針盤を探すんだ?」

「これを使う。」

 そう言ってリックは想起の水鏡を取り出した。

「あ、水鏡。」

 奪い取ろうとしたら、ひょいと避けられた。くそぅ。

「それって、過去が覗き見できるだけだろ?」

リックは当たり前だろ?とでも言いたげに僕を見る。いちいちイラッとさせるな。


「昔、俺の親父は羅針盤を持っていたことがある。が、親父はどこかに羅針盤を隠したまま行方不明になった。だから、親父の過去を見て、羅針盤の隠し場所を探す。」

 そうか、水鏡で親父さんの過去を見れば、羅針盤の隠し場所がわかる・・・か。

「それで水鏡を盗んだのか。」


「・・・・・、盗んでない、借りただけだ。」

 え、返してくれる気、あるの?

「ってことで、とりあえず惑星サロマナに向かってくれ。あんまり遠いと水鏡で過去が見えないからな。」

「・・・・・はぁ、仕方ないな。」

 嘆息しつつ、僕はブリッジに向かうため、リビング・ダイニングルームから出ようとした。

「あ、それと、俺の船、拾っといてくれ、壊れちまってるけど、直せばまだ使えるからな。なぁに、この船なら積めるって、俺の船は小さいからな。ついでに修理もしてくんない?」

「・・・・・・。」

『運送料と修理代の請求はどちらにいたしましょうか?』

アイさんが厳しい突っ込みを入れている。



 ソレイユのブリッジで、操舵席の横に立ちアイに指示を出す。

「アイ、惑星サロマナへ向かう。ソレイユの超光速ドライブ準備。」

『かしこまりました。』

 アイの声が艦内に響く。ソレイユ内では、アイの声は艦内放送で流すことも可能だ。

 ソレイユの操舵席のコンソールが起動し、銀河航路図から惑星サロマナへのルート検索が行われる。

『ルート設定完了、進路クリア、超光速ドライブシステム起動』

船内に甲高い超光速ドライブの駆動音が響き始める。

『超光速ドライブの準備完了。乗員は着席してください。』

 僕は少し高い位置にある艦長席に座ろうと振り返る、すでにリックが艦長席に座っていた。

「どう考えても、そこは僕の席だと思うんだ。」


 リックは一瞬本当にわからないと言いたげな表情をした。

「そうだな、じゃあ次に超光速ドライブするときは、変わってやるよ。」

たぶん、イラッとしたら負けなんだ、きっと。



 惑星サロマナがある星系に到着した。到着後、アイは直ぐにサロマナ管制塔へ寄港理由などの連絡をしてくれている。


 そういえば、旅立ちに見た地球は青く、そして緑だったな。自然豊かだ。対して、遠くに見えるサロマナは、赤茶色だ。青い海らしき部分もあるが、赤茶色の箇所が多い。夜の部分では、明かりが点々とついているから、かなりの都市があるみたいだ。

『惑星サロマナ、銀河連邦に属するサロマナ公国が統治しています。サロマナ公国全体での人口は180億ほど、内40億程度が惑星サロマナに居住し、200万人を超える大都市が複数存在します。ただ、全体に情勢不安な点が見受けられ、治安はあまりよくありません。』

アイがサロマナについて簡単に説明してくれた。

「確かに、どうしようもないゴロツキが多いし、闇社会のボスが、社会基盤の多くを牛耳ってるが・・・・、その分ここにはチャンスもあるぜ・・・。」

リックが少しにやつきながら、説明してくれる。

『海賊行為でチャンスをつかむ場合、捕縛、服役が支払いとして発生します。』

再びアイがなんだか否定的な反論をしている。もしかしてリックのこと嫌いなのか?


「まずはサロマナにもうちょっと近づいてくれ、覗き見るのも、近いほうがやりやすい。」

リックはアイの言葉はまるで聞きこえてないように言った。



 サロマナの衛星軌道上を周回する。

 リックはリビング・ダイニングルームの椅子に座り、卓上に想起の水鏡を置いている。

「そんじゃ、始めるぜ。」

 そう言うと、まるで魔女が水晶玉で占いをする様に水鏡に手をかざし、鏡の中を覗き込んだ。


 しばしの沈黙・・・、

「これは・・・・・・・」

 突然、けたたましい警報がソレイユ船内に響く。

『接近警報。当艦に接近する機影あり。接触されます。』

 直後に艦を揺らす振動、ガリガリと外壁から、何かがぶつかるような音がした。

 噂をすれば海賊か!! しかし、サロマナの衛星軌道なんて、目立つ場所で襲ってくるとは。海だったら、港の湾内で海賊行為を行うくらいの無謀さだ。

 新たに爆発音が響く。

『外部ハッチが強制解放されました。侵入されます。』


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