睡蓮

第1話

暑い夏。

蝉が鳴き始める頃、俺は明日から教育実習へ行く

行くのは高校時代の母校

田舎で好きになれなかった高校だが、都会に行くと恋しくなるものだ

高校は母方の祖父の家から通っていた

でも、俺が大学に入ってすぐ倒れて亡くなった

孤独死だそうだ

3年間一緒に暮らしていた大好きな祖父

いなくなるってこういうことかと、とても痛感した

その祖父と暮らしていた家はまだ綺麗に残っている

俺は明日からまたその家から通うことになる

家は林の奥にあり、ご近所さんもいない


「ふう…、やっと着いた」


道路沿いから細道を数分歩くと祖父と暮らしていた家が見えてくる

誰も手入れをしていないせいか雑草だらけだ

そして相変わらず広い家

掃除も大変そう…

そんな事を思いながら昔使っていた鍵を使い玄関を開ける

扉の向こうにはやはり埃がたくさん積もっていた

とりあえず全部回ってみるか

すべての部屋を回ってみたが、埃と蜘蛛の巣だらけ

あと残るのは祖父が大事にしていた庭だ

期待は出来ない

庭へと続く廊下を行き、庭に向かう


「あ…」


俺が見たのは意外にも以前と変わらず綺麗な庭だった

夏の季節にあった花がたくましく咲いている

雑草などはあるが、昔見た庭と変わらない


「もっと荒れてると思ってたんだけど」


これなら俺でも手入れは出来そうだ

庭のことは祖父に教えてもらっていたのである程度は覚えている

俺がいる間だけでも綺麗にしてやりたい


「これからまたよろしくな」


明日からの1ヶ月間、期待に胸を膨らませながら1輪の花を見つめ呟いた

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睡蓮 @06naru01

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