第7話 再びの呼び出し

 結局……私はみっちり一週間も、キルト様の相手をさせられました。

 観光案内しろと言われても、私だって三日前に来たばかりです。案内なんて出来る訳がありません。

 全部お付きのメイドに丸投げして、私はキルト様のお喋り相手になるのが精一杯でした。


 だけどその結果、メイドが案内するのは領内でも有名なデートスポットばかり。

 メイドなりに気をつかったようですが、私としてはバッドジョブです。余計な気遣いしやがってー!

 しかも、そういう雰囲気のある場所ではキルト様の護衛二人も、もちろん私のメイドも、私達から距離を置くのです。あぁー!


 で、私の心が傾かない訳がありません。

 一週間が経過し、キルト様が帰る段階になって


「はぁ……」


 と、ため息がこぼれました。

 それを見ていた両親やお兄様が、私のことをニヤニヤ見たのは言うまでもありません。

 私も「なんで寂しがってるの!」と、自分の心にツッコミを入れます。

 二重の意味で、私は恥ずかしさで顔を真赤に染めました。



 そんな出来事があった長期休暇も終わり、再び学院生活が始まります。

 さすがに一月以上のクール期間があったおかげで、心のほうは持ち直したつもり……だったのですが


「よお、メイア」

「ご、ご機嫌麗しゅう、キルト様」

「ほぉ……俺に対して目を逸らした挨拶とは、ずいぶんと肝が据わってるじゃないか」

「ち、ちがっ……!」


 実際に会うと、あの一週間の事を思い出してしまって、自然と顔を逸してしまいました。

 慌てて弁解しようとした私でしたが、そんな私の顔をキルト様はクイッと引き


「おはよう、メイア」


 いつもとは違った丁寧な挨拶を、普段よりもワントーン低い声でやり直しました。

 顔を引かれていた私は、それを間近で直視してしまい


「あぅ……っ!」


 アッサリとキャパシティーの限界を超えてしまいました。


--


「バカ! バカ! バカ! あの俺様王子のせいで、地球に返されちゃったじゃない!!」


 私はとりあえず、キルト様を罵倒することにしました。

 あの一撃が決定打となり、教室や廊下で顔を合わせるたびに胸が高鳴って、二ヶ月後にあったテストはボロボロ。

 おかげでBクラスへと転落までしてしまいました。

 でも逆に考えれば、次にあっちへ行っても三ヶ月はキルト様と同じAクラスではないので、顔を合わせることも少ないでしょう。


「……寝よ」


 私は転移するごとにやっていた、いつもの儀式あいさつも忘れて、布団に包まりました。


--


 地球では三年生に進級して、一ヶ月が経過した頃。

 またもや進路のことで、私は先生から呼び出しを受けていました。


「どうだ立花。そろそろ行きたい大学は決まったか?」

「いえ……」

「そうかそうか、なら先生から立花にコレをやろう」


 先生はビジネスバッグからクリアファイルを取り出し、その中から数枚のプリントを抜き出して、私に差し出してきます。


「これは?」

「俺が作った学部別オススメ大学の一覧だ」


 プリントにはずらりと大学名が並び、各学校ごとの特色が列挙されています。

 貰った手前、突き返す訳にもいかず、私はパラパラと流し読みしました。


「…………」


 どれも有名な学校ばかりです。


「どうだ? 気になる大学はあったか?」

「失礼ですが、なぜ私にこれを?」

「まだ立花は、行きたい大学も決まってないようだったからな」


 ……確かに、私はまだ行きたい大学を決めてません。

 ですが、進路は何も進学だけではないはずです。就職という道だってあります。

 それにこの時期に私だけ、こうやって呼び出して進路の話をするのは、何か理由があるのではないでしょうか?


「……まあ、なんだ。明け透けに言えば、これは立花のためであると同時に、先生のためでもある。前にも言ったが、今の立花ならどんな難関校だって受かると先生は信じてる。そうなれば先生の評価も上がるし、うちの学校の評判だって良くなる」

「つまり先生や学校のために頑張れ、と?」

「違う、そうじゃない! それだけ立花に、先生や学校は期待してるって事だ!」


 言葉を変えただけで、言ってる事は同じように思えました。


「去年の夏からのお前の頑張りはスゴい! 真ん中にいたお前が、半年で学年主席を取ったんだぞ? わかるよな、立花?」

「…………」


 私にとって勉強とは『ボクとキミ』の世界へ行くための、神様との約束です。

 なぜ、神様が『テストで上位一割以上の成績を取る』ことを条件に出したのかはわかりません。知る必要性も感じません。


 ですがその結果――私はこうして先生の期待を一身に受けることになりました。

 これは渋っても長くなりそうです。

 私はこっちの世界で、無駄に時間を使いたくありませんでした。


「……今すぐに進路を決めることはできませんが、この資料はお家でゆっくり読んで、それから考えようと思います」


 なので、先生が妥協してくれそうな提案をします。


「まあ、そうだな……ゆっくり決めるといい。……今日の話は以上だ、気をつけて帰れよ」


 どの口で「ゆっくり」と言うのよ!――と思いながら、私は先生の姿を見送りました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る