第6話 強キャラ『金獅子のキルト』

 冬休みもあっという間に終わり、二学年最後のテストがやってきました。

 情事にかまけてた同級生とは違い、私は淡々と、この日のために準備をしてきました。


 ――総合1位


 その結果、ついに私は学年内でもトップの成績を修めました。

 心なしか、先生の顔が優しげに見えます。

 家に帰った私は、零時になるのを心待ちにしながら布団につきました。


 ――零時


 あの浮遊感がやってきます。

 目を開けると、豪華な天蓋付きのベッドです。


「ただいま、神ゲー」


 私はいつもの挨拶をしてから眠りにつきました。


--


 二年生に進級して最初のテストは、キルト様という強敵にペースを乱されましたが、地球で過ごした三ヶ月は、私の心を落ち着かせるには十分な時間でした。


「よお、メイア」

「ご機嫌麗しゅう、キルト様」


 しかもっ!

 私はテスト勉強の息抜きとして『ボクとキミ』を久しぶりにプレイしました。

 本当にメイアをやっている私としては、ゲームという画面越しでの疑似恋愛に物足りなさを感じましたが、正直それはどうでもいいのです。


「ん?」


 キルト様が訝しげな声を上げます。

 私はその理由を察しながらも


「どうかしましたか?」

「いや……なんかお前、いつもと調子違う?」


 そう……私が『ボクとキミ』をプレイしたのは、ほかでもないキルト様対策なのです!

 避けられないのなら、避けなくても大丈夫なほど慣れてしまえばいい。

 そう思い立って、キルト様のルートを私は周回プレイしました。


 画面越しに何度も囁かれる胸キュン言葉セリフ

 キルト様の物怖じしない真っ直ぐで強引な性格。

 これらが全部私に向いてるのだと思いながら、一つ一つを真剣に受け止めます。

 そうした努力の甲斐あって、今ではこうして首を捻っているキルト様が、ちょっと可愛く思えるほどに成長したのです!


「いいえ、いつもと同じ調子ですよ?」


 私は勝利の余韻のようなものを感じながら、キルト様に微笑むのでした。


--


 ……と、そんなものが所詮付け焼き刃だとわかるのは、それからしばらく経ってからの事です。


 白桜学院にも、地球で言うところの夏休みに相当する長期休暇があります。

 この休みを利用して、一年に一度の帰省をする学生貴族は多いです。

 かく言う私とお兄様も、王都に居を構えるメイア家の屋敷から、両親が残る公爵領へと帰省しています。


「疲れてないか?」

「大丈夫です、お兄様」


 と強がってみましたが、帰省は馬車での長旅です。

 電車や自動車といった現代文明の利器や、舗装された綺麗な道路に慣れてしまっている私には、いくら公爵家特注の馬車と言えど少々キツいものがあります。

 そうした中で、馬車を降りる時にさり気なく手を引き、優しさを見せるお兄様。

 しまった! お兄様対策もしておくべきだった!


「ありがとうございます、お兄様」


 そんな一幕がありながらも、無事にメイア家の屋敷までたどり着き、両親やメイドの迎えを受けます。

 もっとも、ゲームのグラフィックで両親の顔は知っていましたが、屋敷の内部構造まではわかりません。

 自室がわからずにオロオロしているところを家族に目撃され


「たった一年半で、ずっと住んでたお家を忘れちゃったの?」

王都あっちで勉強ばかりしてるから、頭がバカになったんじゃないか?」


 と、お母様とお兄様には笑われてしまいました。

 ……理不尽です。


 そんな感じで若干のハプニングもありましたが、楽しく休暇を楽しんでいた三日目のこと。

 事前連絡もなく、あの第三王子キルト様が、我がメイア家の公爵領にやって来たのです。


「これはこれはキルト様、今日はどのようなご用件で?」


 メイドから連絡を受けて駆けつけたお父様が代表して、キルト様の相手を努めます。

 しかし……


「いやなに、一週間ほどメイア領を視察して回ろうとな」

「視察、ですか……? でしたら案内の者を――」

「その必要はない。視察と言っても、普段のメイア領を観光がてら見て回るだけだ。堅苦しい案内など邪魔だ」


 と、そこでキルト様は言葉を切ってから


「だがそうだな……ここは将来の嫁と親睦を深めるいい機会かもしれん」


 そう言って、傍観に徹していた私の方を見やると


「いいな?」


 有無を言わせぬ鋭い眼光で、私に拒否権のない問いかけをしました。

 え、ええええぇぇぇ!?

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