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一言で現状を言ってしまおう。
――――金がない。
そう、全く金がない。財布にも、通帳にも、タンス裏のへそくり袋にだってもうお金は残っていない。考えられる家中のお金がありそうなところを引っ掻き回した結果、玲央奈の手元にあったのは眼下の145円である。過去最高の貧乏具合である。
「こんな会社辞めてやんよ!」
そんなことを喚いていたのは半年前のこと。
毎回言っていることをコロコロと変え無理難題を押し付けてくる上層部、そして残業の毎日。一言で言ってしまえばパワハラだった。それに加え、
「俺、チェック柄が好きなんだ。そのチェックのシャツ、良く似合ってるね」
「俺、自分がモテないってわかってるからさ、身体鍛えてるんだ。これでも昔は空手の講師もしてたんだよ。……触ってみる?」
「俺と玲央奈ちゃんって相性いいと思うんだよね。話が合うっていうかさ。絶対お似合いだと思うんだ」
なんていう上司からの熱烈アプローチという名のセクハラ。
これ以上いたらいいように利用しかされそうにないし、色々めんどくさいことになる……絶対。そう息巻いた玲央奈はまだ1年も働いていないその会社を勢いで辞めてやった。辞めたと一言でいっても精神的ダメージ過多な会社とのやり取りが2ヶ月近く続いたのだが、まあ、その話はまたの機会にして、この際置いておこう。
もう正社とか暫くやりたくない。てか、もう社員とかやりたくない。だって給料と労働が見合ってないじゃん。なんであんなに残業せにゃならんの。労働基準法では8時間勤務とか言いませんでしたっけ。なんで真面目に仕事してるやつがこうやってバカ見なきゃいけないわけ。そうだ、次はそんな責任のない仕事をしよう。アルバイトにしよう。あの会社に入る前にはたくさんのバイト経験もある。恐らく次のバイト先はすぐ見つかるに違いない。だったらまだ貯蓄もたんまりある。好きなことをしよう。とりあえず、資格の勉強でもしてみよう。ついでに今まで我慢してた本買ったりゲームしたりとにかく遊びまくって好き勝手過ごしてやんぜ!
なんて息巻いていた無計画のあの時の自分をぶん殴ってやりたい。今そう切に願う。
気がつけば時間だけが過ぎて、あれだけあった貯蓄もどこへやら……。危機感を覚えて数ヶ月前から始めた求人活動は、スケジュール帖に面接の予定がびっしりと書き込まれている割には良い返答が一切ない。せめて次の仕事決めてから辞めたらよかった……。
このままだと家賃が払えない。光熱費も、税金云々だって一切払えない。この金、金、金、な世の中では本当に生きていけぬ。もうヤダ、死ぬ……社会的な意味で。
はああああああああああああぁ。
盛大なため息を漏らして、玲央奈は本日のスケジュール帖に書いてある、派遣会社スタービジョンの面接へと向かった。
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