派遣会社スタービジョン

桐富

派遣会社スタービジョン

とりあえず、まずは週1で

プロローグ



 狼と目が合った。

 尖った耳は頭部に小さく2つ付いていて、何か物音を感知するごとにぴくぴくと動いている。眼光は鋭く、黄金色でとても綺麗なのにその反面恐ろしくも感じさせる。そして、口は頬付近まで大きく裂けている。その口から覗く鋭くギザギザした歯は、いくつもの血肉を屠ったに違いないと思う程の迫力がある。それは紛れもない狼だった。ただ、1つ、その狼は玲央奈が知りえる狼と違うところがあった。そう――。

 その狼は、二足歩行で、歩いていた。

 まるで人間のように背筋を伸ばしたその姿は、ざっと見積もっても2メートルは超えている。前足は体の横に、鋭い爪はそのままに。足は体重を支える為か大きく丸みを帯びた楕円形になっている。

 補足するならば、その二足歩行の狼は服を着ていた。どこぞの風景がプリントされたシャツにダメージジーンズ。更には革ジャンを羽織っている。プラス補足するならば、その狼はサンブラスをかけていた。サングラスというよりもグラサンと呼ぶ方が狼には良く似合っているような気がする。顔の造形のせいか、グラサンは少し鼻先の方にずれ、故に本来隠すべき鋭い眼光は丸見えである。だが、それも狼には良く似合っていた。

 それはもう見事な着こなしで、白のポロシャツに黒のチノパン、地味目のスニーカー姿の玲央奈とは生きている階級が違う気さえした。

そんな狼と目が合った。

 目が合うとその狼は、フシュフシュと荒い息を漏らしながら、玲央奈の方へと近づいてきた。ゆっくりと、ゆっくりと……。

 そして、玲央奈の前で立ち止まると

「おい」

と地を這うような低い声をかけてきた。

 あぁ、これ終わったわ。人生のゲームオーバーだわ。

 本能が激しく警鐘を鳴らしている中、玲央奈はどこか他人事のように頭の中で呟いた。


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