◯俺の世界で、俺は生きる。

「ははは、やっとわかったんだね。」

目の前に、あいつがいる。そして、辺りは白く、

やわらかい世界が広がっている。

うっすら星が見える。明るいのに、、どこだ、

ここ。

「ここは、どこだ?」

「アユト君の世界。」

「俺の?」

「実は、私も見えてたんだ、この世界の闇が。

闇は闇を生み、ただひたすらに伝播してゆく。

人は愚かな生き物なんだよ。

人を見下し、人を恨み、憎しみを抱き、

過ちを何度も繰り返す。

私には、どうすることもできない。私の役目は、

トリガーを探すことだから。」

「トリガー…?」

「そう、つまり、私はアユト君を選んだ。」

「は!?どうしてだよ、なんで俺なんだよ。」

「私ね…アユト君が小学生の頃、橋飛べないの見ていたんだよ。覚えてないだろうけど。そんな君を見て、勇気がない少年だと思ったよ。そんな君が、高校同じだったから、好都合だった。でも部活で忙しい君にいつ声をかけようか迷っていた。そして、引退したこの時期を狙った。

今だから言えるけど、傘を隠したのは、私だよ。

許してね。」

次の瞬間

カエデの記憶と思われる映像が俺の頭に流れ始めた。

''あの橋だ、少年が橋の上に立っている。

あれが俺か。本当にカエデは見ていたのか。

フライできないチキン、そう呼ばれた少年は、

何もできぬまま、退いた。

次はカエデの中学時代か。あらゆる場所で

黒いモコモコが見える。こいつ、中学の時から見えていたのか、ん?誰か出てきた。

ああ、五平餅のおばあちゃんか。

カエデちゃんにわしの力を託す、

トリガーを見つけなさい。

そして、救いなさい。

わしができなかった事を、成し遂げるのじゃ。

もし、見つけたら、連れてきなされ。

そう言われていた。

そして、カエデは高校生になった。

俺、俺が見える。色々な日の俺が見える。

こいつ、俺に気づいていたのか。そして、

ずっと見ていたのか。

俺とカエデの初めて話した日だ。

俺の傘を別の所に移した。

そして、俺と話している。

温かい、これは、カエデの気持ちなのか、

気持ちまでもが伝わるのか、温かい。

次に、UNIVERSEでの記憶だ。

熱い。面白かったということか。

その後の帰り道。…少し涼しい。

次は、学校?現代文の授業か、

月が綺麗ですね…、星が綺麗ですね…。

そして、俺と行った五平餅の記憶だ。

温かい。

なんだか、温かい。

これが、カエデの記憶…か。''

「お前は、俺をトリガーに選んだ。

どうしてだよ、どうして俺を選んだんだよ、

おかげで、変なもの見せられて、それで、

それで…。」

「君が、変わらず勇気がなかったから。

トリガーってね、

自分の殻を破る瞬間に発動するのよ。

君は君を破らなきゃいけない。打破するのよ。

今までの自分に。」

「俺は、普通に生きていられれば良かった。

だから、橋だって飛ばなくても大人になれるし、

周りとそんな関わらなくてもやっていけると思っている。普通で良かったんだ。平凡で良かったんだよ。なのに、どうしてだよ。」

「意味なくあなたを選んだわけではない、。私は、アユト君に懸けたの。

だって、私は…」

次の瞬間。

俺が寝落ちた現代文の授業が頭に浮かんだ。

『星が綺麗ですねっていうのはな、


''あなたはこの気持ちを知らないでしょう''


って事なんだ、まあ、片想いの人に伝える言葉だな。』

これは、あの時の授業だよな、確かにそうだよな。星が綺麗ですねって、そういう事だったのか。

じゃあ、あの五平餅の帰り道、カエデは俺に…。

「お前、星が綺麗ですねって…。」

「おっそいなあ、もう。…。」

カエデは頰に雫を垂らした。

俺だって、お前を…。

「カエデ、俺やる。」

「うん、わかった、やろう。」

次の瞬間、ビュオオオオッと

あの時のような、

あの時のままの橋に俺たちはいた。

昔の友達に囲まれていた。あの状況だ。

''フライできないチキン''チキンチキンチキン…

罵倒の声が聞こえる。

正直、怖い。

足が震えているのがわかる。

これは、俺との勝負。

逃げたい。

放棄できるもんならしてぇよ。

けど、このままだと、

世界は闇に包まれる。

ただでさえ、闇だらけだったんだ。

誰もが、闇を抱えていた。

あらゆる場所で、あらゆる闇を、

俺たちは抱えている。

でも、俺たちは蓋をすることができる。

闇が出てこねぇように、蓋をできる。

でも、もうそれが限界だったんだ。

この世界はもう、我慢できなくなったんだ。

それを救うのは、俺とカエデしかいない。

おばあちゃんはトリガーがいなかった。

だから、カエデに託した。

託されたカエデは俺に託した。

今を変える事をできるのは、俺らしかいない。

いや、俺しかいない。

一歩だ、一歩、踏み出せば、良い。

だって、だって俺には、

そばで見てくれるやつがいるだろ。

1人じゃねぇだろ。

ああ、なんか、声が聞こえてくる。


『お前らは、無限の可能性を秘めとるんじゃ!』

『勇気を出せない1番の理由は覚悟のなさなんじゃよ!ダメでも良い、失敗しても良い、死んでも良い、だからやってやるってその心が大切なんじゃろうがよお!何をするにも覚悟を持つのじゃ!』


無限の可能性。

そうだな、失敗しても良い。

俺は一歩踏み出せさえすれば、それで良いんだ。


よし、じゃあ、行くか。


さよなら、チキン。



俺はミラーボウルを抱え、

足に思いっきり力を入れ、

思いっきりジャンプして、


空に舞った。


その時、ミラーボウルが、

ものすごい勢いで発光し始めた。

やばい。


…イシキガ…ト…ブ…。

…ココハ…マッシロダ…


ン…コエガキコエル…


''お前はおまえでいい''

''何度折れても立ち向かえ''

''残業があるから夜景が綺麗になる''

''下手くそだったら練習への課題が見つかる''

''面倒くさいものこそ必要なものだ''

''生きるのが楽しい''

''嬉しい''

''幸せ''

''そう、これからだ''

……。


コエガキコエル…プラスデ…

ウレシミニミチタ…コエガ…

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