◯汚されたモノ、美しきモノ。

「では、説明したように、木を切ってみましょう。」専門の方がそう言った。

ギコギコギコギコ気持ち良く切れる。面白いな、木を切るって。なのに、周りの奴らは

「だりぃ。」

「今日土曜だぞ。」

「早く帰りてー。」

「これやる意味あるか?」など

ブツブツブツブツ言ってやがる。

そんな彼らに一瞬、あの夢のような黒いモヤモヤが見えた。…気がした。

次の瞬間、

「なんだあれ!!」

1人の生徒の叫び声がみんなの手を止めた。

指差す方を見てみると、伊井田市内から黒いモヤモヤが所々で発生していた。…なんだこれ。


はっ!!


青い空、澄み切った空気、向こうの山まで見渡せる…遊ぶ子どもたち…。あの夢と同じじゃねぇか。みんな迫ってくるそれから、逃げ出している。だんだんパニックになっていく。何が起こっている。夢が、現実に。そんなバカな。なんだこれ。なんだこれ。

黒いモヤモヤは俺にしか見えないはずなのに、みんなに見え始めているのか、どうなってる。

人が逃げて来るのがわかる、みんなパニックだ、騒ぎに騒いでいる。俺は、その場に立ち尽くし動けなくなっている。どうすりゃ、良い、どうすりゃ、どうすりゃ、。その時、

不意に頭に誰かの言葉が響いた。


''ミラーボウルじゃ''


そうか、ミラーボウルだ!さっき、市民スペースにあったぞ、行くしかない。そして、俺は必死に走り出した。どんどん迫って来るそれに負けぬように。今はできることをやるしかない。そして、なんとか、ミラーボウルまで辿り着いた。吊るしてあったので、ジャンプしてなんとか引き抜いた。それから、丘の上までのぼろうとした瞬間、そこに、

あいつが立っていた。


「どうして、ここにいるんだ?逃げろよ。」

「どうしてって、風が気持ち良いから。」

「ふざけんな!逃げろ!巻き込まれるぞ!」

「大丈夫よ、死なないわ。」

なんか、別人みたいだ。

危ねぇ!次の瞬間、

黒いモヤモヤが俺たちを飲み込んだ。

ゴオオオオオオオオオオオ!!!

前が見えない、すごい音だ。と思った矢先、

いきなり、無音になった。

あんなノイズが一瞬で…ナンダ、コレハ、

カエデ、ハ?

そして、俺に何か聞こえて来る。

''だからお前はダメなんだ''

''何度言われれば気がすむんだ''

''今日も残業か''

''お前、下手くそだな''

''めんどくせえ''

''生きてるのだる''

''ツライ''

''辛い''

''苦しい''

''もう、だめだ''

あらゆる声が飛び交っている。それも全て、

ネガティヴな、哀しい声ばかりだ。

ああ、そうか、俺が見ていたモヤモヤは全て…。

そして、溜まりに溜まったモヤモヤは、

形となり世界に降り注ぐんだな。

ああ、体の感覚がおかしくなってゆく。

このままだと…死ぬな…オワリカ…。

…ピカアッ…。…ン?…ヒカリ…。

はっ!光だ!

光の正体を突き止めるまでは、終わらせてたまるかよ!

進め、進め、進め、もう少し、もう少し、力全てを使って、光の中に飛び込んだ。

ピカアッッッッッッ…まぶしい…。何かある…

いや、誰かいる。目がだんだん慣れてきた。


…え…


「光の正体って、お前だったのか…。」

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