第11話///この出来事は忘れない

「僕の提案は、大きく三つあります」

 言葉を区切って周囲を見回せば、先ほどの老人は、僕の次の言葉を静かに待っている。元・頭目あねごさんは、面白くなさそうだ。そりゃそうだろう人の領地に勝手に乗り込んできた若造がベラベラと話しているのだから。ところが中の人はいも甘いも噛み分けてきた三〇過ぎのおっさんだ。

「一つ目は略奪するのではなくてこの村で生産される作物を他所よその村々と交換することで生計を立てるように変更します」

「ケッ……それができたら苦労するもんか何度も交渉したってのよ」

 元・頭目あねごさんがボソッと呟く。

「えーっとですね、作物に付加価値ふかかちをつけるんです『エルフの里の特産品』ってちょっと霊験れいけんあらたかになりませんか?」

「ほぅ……それは思いもつかなんだ。なぁ、おじょう

「フンッ!」

「二つ目は、略奪したものは丁寧に返却したうえで若手の半分を一帯の村々の警備として派遣するんです。村の用心棒って奴ですね。村と村との交流が必要なときは護衛として同行してもらったり害獣退治をします」

「それ俺たちの狙っていたポジションだろ?」

 マルタさんが口をはさむが、そこは無視して相手の目を見て出方を待った。

「そりゃ納得いかないね。この村の働き手が減るばかりじゃないか」

「人の物を奪って生計を立てるより人に尽くして作物を分けてもらうんです。ここの生産量は一時落ちますが、警護する村が増えれば増えるほど村娘との出会いもあるんじゃないですかね?」

「……なるほど、子供が増えれば働き手の問題は解決するわな」

 老人が、僕の考えを補足してニヨニヨと笑う。

「そうなんです。ちょっと期間は長めですが……」

 僕がそう言うと老人は髪を掻き分けて自分の耳を見せてきた。

「なぁに、この村の年寄りは、半分がとこエルフの血を継いでおる。若い連中は、子供の頃にここへ迷い込んできた者も多いがな」

「そうだったんですね。それで最後の三つ目ですが……」

「……何さ、早くお言いよ」

 僕は、自分に出来る精一杯の笑顔を作って言ってみた。

「はい。もし外の世界で荒稼ぎしたい人がいれば僕たちの傭兵組織で面倒を見ようと思います。今は無職ですが僕が、売り込みをかければまずもうかると思うんですよね……」

 そりゃそうだ。筋を書くのは僕自身。失敗するハズがない……アレ?


「ハッ!」

 目を覚ませば白昼夢から引き戻されて自分の部屋に転がっていた。机の上には骨董市で買った万年筆とオマケで貰った罫紙けいしという原稿用紙。

『野盗の一部を吸収して更に強固な集団になる』

 書いた粗筋は、ここで止まっていた。

「ととと、とりあえず!」

 僕は、パソコンからシナリオを書く時に愛用しているソフトを呼び出して一心不乱に今までの出来事を書きまくった。

「粗筋を書いただけであんなリアルな情景を夢で見ちゃうなんて! 細大漏らさず書き留めねばッ」

  僕は、翌日の昼までかかってラノベの一章目を書き上げた。達成感と共に気がついたのは、何故か僕の腰にひもが巻かれていたのだ……。

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