第10話///決闘している場合じゃない

 まぁ、挑発行為にまんまと乗ってくれたのは有難い。相手は自慢の業物わざものを手に僕に切りかかってくる。僕はと言えば、足元に落ちていた飴玉サイズの小石が唯一のエモノ。設定で武芸百般ぶげいひゃっぱんなんて書いたものだから無駄に強くなりすぎてわかり易い圧倒的強さを演出するのに困るくらいのリア充ぶりだ。

「はあぁぁぁぁぁぁッ!」

 右へ左へと袈裟けさに斬りかかる頭目らすぼすがここぞという好機ちゃんす裂帛れっぱくの気合を入れて上段に構える……その開いた口めがけててのひらに握っていた石ころを彼女こと頭目らすぼすの大口めがけて親指でばじいてやった。

 人は、口の中に異物が入るとどうなるか? よほどの達人でもない限り動きが止まる。つまり頭目らすぼすは未熟なので僕に隙を突かれて倒された。決め手は、寄せ手の相手の背後に回った僕のベタな手刀しゅとうによる一撃。だって首筋がガラ空きだったんだもの。

「おんッ」と呻いて倒れる相手を途中で抱え、周囲を見回し僕は叫んだ。

「この決闘に異議のある者は今すぐ前に出てください。相手をします」

 まぁ、反応はお察しで、上位の人間をあっさり倒すと思いのほか反抗はない。だけど念押しのために美しい頭目らすぼすを抱えたまま声を張る。

「僕は何も持っていません。今の石ころが最後の武器です。そして、皆さんの抱える問題を解決しにやってきました。どなたか異議のある方は武器を手に申し出てください」

「やめろお前ら! この人の強さはいま見た通りだ」

 今まで黙っていたアリスタさんが大声を上げる。まあ、これ以上に仲間を傷付けたくはないのだろう。そんなおり、新しい登場人物が……。

「いよぉナガマサの大将ッ」

 みれば中ボスらしき人物を引き連れてマルタさんが全員を引き連れて現れた。

「心配して追いかけてくればコレかよ。へへっ……アンタやっぱしとんでもねぇわ。言われたとおり全員殺さず捕虜にしたゼ」

 まぁ、さらっと言ってのけるマルタさんも相当だけれどとにかく野盗はこれで制圧できたっぽい。

「村娘をさらってくるのは結活だと聞きました。働き手の不足も聞いています。どうでしょうか?全て解決できるとしたら数々の蛮行ばんこうを反省していただけますか?」

 何度目かの同じような提案。ここが僕の設定した中世っぽい世界であるならば、小鬼がいようがエルフがいようが……中世以降の知恵が僕にはある。それ以前に調停者ねごしえいたーは、何より強いはずだ。

 見回せば人々はシーンとしていたが、白いヒゲを蓄えた老人が一人、静かに挙手をしていた。

「詳しく、話を聞かせてもらおうかのぉ」

 老人の言葉に僕は不覚にも涙を流し、マルタさんとアリスタさんが洩らすほどに驚いていた。この人たちはとても失礼だけど良い仲間だ。

 頭目あねごさんにかつをいれて覚醒をうながし、落ち着いたところで僕たちは話し合いを始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る