第8話///何人いようが敵じゃない

「本当にここ?」

 若干、迂回する進路で馬を駆けさせ敵の一団と入れ違いにたどり着いたのは、闇深そうな森だった。

「う、嘘はいってないですよッ」

 中ボスが村に引き連れてくる一五〇人の悪者は、マルタさん率いる五〇名の傭兵部隊にお任せして、僕は昼間に飛び膝蹴りを入れてやった赤ヒゲの小ボスことアリスタさんに案内を頼んで敵の本陣へ乗り込むことにしたんだよね。


 マルタさんには、凡庸だけれど奇襲用の作戦を授けてきたから。敵の捕虜の中から声の大きな奴を選んで村の井戸に吊るし、助けを請うように命じつつ村の入り口ではガンガンに松明をかせる。それ位に日は暮れていた。

 仲間の声は井戸の中で反響し、さぞかし遠くまで響くだろう。そして無人の入り口には赤々と松明の焚かれ、村の家々には明かりが灯っていれば誰が見たって罠があると思うはずだ。敵が村の外周を迂回するのを期待して暗闇に伏せて奇襲するっていう算段。もし、村の中に入ってきたら入り口付近で待ち伏せ直すと敵が一斉に襲ってくることはないと思うし。

 大味な作戦だけれども家康が三方が原の戦いで摂った戦法なのでラノベだったらありえる展開だ。まして村の入り口を封鎖するB案は、現実に即した提案だからあまり心配していない。


「そんなわけでこっから先は、このひも握って先導してください」

 自分の腰に巻きつけたひもを大ボス改め、小ボスのアリスタさんに手渡す。僕は、捕虜ほりょの時のままの格好で丸腰まるごしのまま牽引けんいんされる。実際に僕は何も持ってはいない。われ若干じゃっかん秘策ひさくあり。

「ここです。ここが俺たちの隠里ですが………」

 突然、森が開けた。開けたというというのは正確な表現ではないかもしれない。特定の二本の巨木の間を通過することで別の空間に転移てんいさせられたというのが正確かもしれない。そこはまだ太陽が頭上にあり、若い女性と老人ろうじんが田畑の世話をやっていた。その風景に思わず涙腺が緩む。自分が筋を書いたとはいえ、無法者も三〇〇人集まれば生活基盤はあるはずなのだ。

「あれま、新しい人は随分と若いね」

「あら本当だ! 生きていたらいいことしようクスクス」

 ここはエルフの隠里かくれざと……だときいた。そこで半農半盗はんのうはんとうをしていると。造語ぞうごだけど。

 そこには人の生きるための営みがあり、そして足らないものを補うための略奪りゃくだつがあることに僕は、涙が出た。悲しみではなくて喜びの涙。

 そんな中、捕虜ほりょていで盗賊の村へ案内してもらっている小ボスのアリスタさんが、僕に念押ししてきた。

「俺ぁ案内するだけですからね? アンタがその……殺されても文句は受付やしませんよ?」

 アリスタさんは、頑丈がんじょうだし話せば(僕が強いのを知っているから)いい人になってくれた。だけど愚鈍だ。愚かしいほどに。何故なにゆえに僕が丸腰で敵の本丸ほんまるを訪れたのかをわかっていない。

 自分を過信しているから? そんな危険なことしませんよ?相手の戦力は大体想像できても粗筋に向かってどう治めるかで必死。

「わかってるよ。だけどアリスタさん一つ教えましょうかね」

「な、なん……ですかい?」

 道徳を説く教師のように僕は利き手の指を立てて得意げに答えた

「いいですかぁ……人はぁ、話し合いでは死にましぇえん」

「は……はぁ」

 合点がてんのいかぬ表情の元野盗のアリスタさんを無視して僕は割と絶好調にたぎっていた……。

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