第7話///村についたら人がいない

 突然だけどいま、嫌な予感がした。僕は、自分の書いたラノベ用の粗筋をヘンテコな世界でなぞっている。

 だけどそれは『立派な武器を拾う』と一行だけ書いてあるメモなので道端で拾うのか? 川底か? 考えたくはないけれど崖の底かは決まっていないし拾い方も僕は考えていないのだ……。


「あッ、お姉さ……」

 少女は、遠方に自分の村が見えると何も言わずに駆け出した。礼の一つもあって良さそうだが、彼女が村の住人に経緯を説明してくれれば交渉の手間が省けるというものだ……と、考えていたら肩を落とした彼女が一人でこちらに戻ってきた。

「あの……どうしたんですか?」

「誰も……いませんでした。私が誘拐されたのを知ってみんな逃げたんです」

 少女はその場に崩れ落ち顔を覆って家族の名を呟いていた。

「おい、村の代表に交渉するんじゃなかったのか?」

 傭兵のまとめ役、マルタさんが声をかけてくる。

「大した案件でもないですし事後じごに交渉しましょう。それより作戦ですけれどもね、整いましたよ。それは……」

 そこへ斥候が、馬を飛ばして戻ってくる。

「ハァハァ……敵、およそ一五〇! ほとんどが飛び道具なんて持っちゃいねぇ! ハハハ……奴ら俺らを舐めまくってますゼ」

 ……しまった。一度に攻めて来てくれれば片付けるのも簡単なのにと心の中で舌打ちをするものの敵が全員揃って来てくれるとは限らない。これがこの世界で僕に課せられたルールらしい。

 マルタさんがホッとしたように答える

「ご苦労さん。これで戦力は三〇〇から半分になったってワケだ。でナガマサよ……策って言うのを聞かせてもらおう。やっぱアレか?無人の村に立てこもる作戦か?」

「……えーーーーーっと」

 マルタさんが無慈悲むじひに畳みかけてくる。考えなかったわけでもないが篭城戦は控えたい。村人が財産を損なう事態は極力避けたいし、なによりこちらが不利になる一方だ。逡巡しゅんじゅんしながら見回せば、村の広場には井戸がある。おそらくここを中心に村が形成されていったのだろうそして村は幸いなことに無人だ……僕は思わずニヤリとした。

「村の入り口に盛大に松明をいてください。それと家々にあかりをお願いします。そしてですねぇ……」

 マルタさんに秘策を託すと今度は村娘の美少女に歩み寄った。

「えーっと……お姉さんはいま話せますかね?」

「……はい」

「僕たちは、この一帯を荒らす野盗をやっつけようと思っています」

「……え?」

 久々に顔をを上げた彼女の目は泣きらしていた。

勿論もちろんタダではありません。ですが報酬の相談には応じます。ですから泣いてばかりいないで少しは笑って見せてくれませんかね?」

 多分作戦はうまくいく。その根拠のない確信からか多分、僕の表情はほがらかなはずだ。その証拠に彼女は嬉し涙をながして『はい』と答えた。

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