第6話///自信はあるが策はない

 物語の舞台を決めたときも一瞬見えたこの世界の風景。それが主人公を設定しプロットを適当に書き飛ばして主人公のキャラクターを立てるために用意する第一章の簡単なメモを書き終えた途端とたんこの白昼夢が始まったのだ。

(これは僕が書き付けた異世界小説のメモに他ならない)

 この後は、三〇〇人からの大野盗集団を見事に撃退して強奪品を取り返し、この地方の人々から絶大な信頼を得るんだけど……。

(さて、そろそろ行動を開始しますか……)

 元捕虜の傭兵集団に囲まれて偉そうにしていた兵士たちは即座に降伏して自ら武装解除を始めていた。僕は野盗連中に連れられていた金髪の美少女に歩み寄る。少女は道の隅にしゃがみ込んで頭を抱えていた。

「どうしよう絶対に仕返しがある。嫌がらせが増えるわ……」

「あの……お姉さん、誘拐されたんですよね?」

 うつむいていた少女がビクッと震えて恐々こわごわと僕に振り返った。その表情は暗く強張っている。

「アナタはさっき一人でアイツらをやっつけた……」

「あ、はい。そうです……ナガマサって言います」

 現実世界じゃ運動経験の無い三〇過ぎのオジサンだけど、この世界にいる僕は武芸百般の出鱈目でたらめ剣士…チートとも言う(十六歳)だから一応、相手をお姉さんと呼んでみる。僕を見ても彼女の表情は曇ったままだ。

「えーっと……随分ずいぶんと怖い思いをされたんですね。僕たちは傭兵なんですが、お住みの場所まで送ろうと思います。どうでしょうか?」

「……あ、ありがとう」

 彼女は、色々と目まぐるしく考えているに違いない。僕の強さは先ほど見たはずだ。両手をいましめられてなお一対多数の戦闘に圧勝したのだ。その力にすがりたいが、どこの誰ともわからない男たち心を許していいものかと……。


 五〇人の傭兵を一〇人の前衛と四〇人に分けて間に捕虜を挟む形で少女と僕を先頭に彼女の住む村への道のりを急いだ。軍馬が一頭いるが仲間内で扱いにけた者がいたのでその人には馬と共に斥候せっこういてもらう。後衛を若干、厚くしたのは敵襲に備えてだ。仲間が戻ってこなければ大軍をひきいてお礼参りに来るのは時間の問題に違いない

 僕は少女を送り届けるついでに周囲の地形を確認していた。少しでも野盗との対決を有利に進めたいからだ。僕は死なないかもしれないけれど、異世界の傭兵たちは等しく命を武器に戦うのだから……。

「おいナガマサ、ちょっといいか?」

 この寄せ集めの傭兵集団を率先そっせんしてまとめてくれたマルタさんが後衛の持ち場から早足に前衛の僕のところまで来て耳打ちする。

「なんですか? マルタさん」

 かなりの年配ねんぱい者だが、坊主頭の大男で現実世界で出会っていたら僕は即座に回れ右をするだろう。

「お前さん、俺たちをその気にさせたんだから当然……策はあるんだよな?」

 ここは作戦を披露するべきターンだけど僕の悪戯いたずら心が騒いだ。

「ちょっと待ってくださいね」

「……ちょっと?」

 僕はニッコリ笑って短く答える。

「はい。いま準備してます」

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