第4話///ありえ……ない

「て、敵襲ぅぅぅ!」

 牧歌的な田舎道で両手首を眺める視線から始まる幻視は、突然にはっせられる悲鳴に近い絶叫と共に動き出した。FPS的な……僕の目線でいうと、最初に自分の両手首が手枷てかせで戒められているのが見えてビックリ。そして腰縄でつながれ布着れ一枚で行軍する自分という情景からの……耳に入ってきた『て、敵襲ぅぅぅ!』だった。

「はい?」

 顔を上げれば、僕は二列に並ばされた最前列に繋がれており、徒歩かちの従者の一人が射られて絶命間近の痙攣をしていた。割と最重要人物的な位置なんだけど『一体、僕が何をした?』な心境なのはお察しいただきたい。詳細は省くけれど、この位置は古来より怪しい行動をしようものならば、即座にばれる立ち位置なのだ。教室の最前列みたいなもんか。

「手前ぇぇぇら! 俺らとやんのかぁぁ!」

 相手の一人が吠えると一斉の野次。武装は貧相だが数が多い……だけど、僕たちを牽引する軽装の鎧で身を固めた馬上の正規兵は、大いに青ざめていた。ここで形容する軽装というのは……って説明するのは割愛するけれど。

「おるぅぅぅぅあぁぁ!」

 敵の前衛が、迫ってきた。敵の弓手ゆみては、こちらへ狙い定めているのにこちらは抜剣ばっけんする様子もない。そして何故か丸腰の僕らにぞくの数人が向かってきた。

「おいおいおいおい……」

 おのと剣のハーフのような大きななたを振り上げた一群が奇声やら怒声やらをあげて迫ってくる。動物の喧嘩を見ればわかるけれど威嚇いかくする鳴き声は武器の一つなわけですがそれが現実味をおびて自分に迫ってくると喧嘩慣れしていない自分としては身体が硬直して動か……なくはないなっていうか振り下ろされた鉈の刃を半身、かわして僕たちの腰を繋いでいた縄を切らせるように仕向けていた。

「手前ぇ!こっの……」

 身体が勝手に反応する。何故かわからないが、運動が不得手な僕が逆立ちをして敵のあごに蹴りをかましていた。それはもう見事に……蹴り倒したついでに獲物えものを奪いスコンスコンと敵を切り倒す。

「んの野ろ……グワッ」

 近くの敵は死なない程度に痛めつけ、迫る矢はなぎ払う。ゲームで言ったらチート状態の戦闘が五分も続くと相手は敵の大将と何かこの場所にいるには違和感のある美少女だけが残った。

「お、お前……この女が誰どうなっても…… ッ!」

 喉もとに貧相なやいばを突きつけて敵の大将が叫ぶ。手枷がそのままだけれど縄が切られて武器を手にした僕はザシザシとそいつに向かいながら短く答えた。

「……知らない」

 歩み寄る……いや、静かに迫る僕に敵の大将は人質を突き放すように放り出し、両手で剣を振り上げた。

「ンガッ……」

 考えるより早く身体が動く。体幹たいかんが違う。まるで普段は機械みたいに書き進めているヒロインを助ける主人公ひーろーみたいな俊敏さで跳躍し、相手の膝を踏み台に額へ膝蹴りをいれてやった。

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