第3話///書くしかない

「なっ……!」

 新幹線に長距離乗ったとする、北でも南でも構わない。駅から駅の車窓の景色は山並みだったり田園風景だったりするはずだ。それは、騒音対策とか色々な理由があるのだけれど……つまり、僕にはそんな景色が、一瞬だけ観えた。

「あぁ、そうか。山間部で平地が少ないから耕地も無かったんだろうし、都市と都市の間に宿場しゅくばはあっても田舎だよな……うわぁ平和そう」

 物語には事件いべんとが必要だ。僕は物語を主人公が囚われの身から始める事に決めた。平和な風景と非現実的な状況なんてライトノベルにぴったりじゃないかとニヤニヤしてしまった。

「主人公、ナカマサ……いやいや、ないわぁ」

 微妙にノッてきたのでパパッとプロットを済ませて最初の場面が書きたくなったから主人公は自分の名前にしようと思ったが、山田中昌やまだ なかまさという文字列にちょっと気恥ずかしくなった。そこで『カ』の部分に濁点だくてんをつけてナガマサとした。その下に十六歳と書き込んで悪寒を覚える三〇代ギャルゲーのシナリオライターなう。

「ま……まぁ、ラノベだし読者の年齢に近いほうがいいよね」

 自分に言い聞かせて書き進めるのは、ナガマサ君のプロフィール。彼の出身は日本みたいな遠い東の国なんだけど諸国を旅する間に旅費に困ったので国を飛び出す前に父親に仕込まれた様々な武芸を活かして傭兵業を始める……。

「んで、今は囚われの身……っと」

 一気に書き決めてしまうと徐々にだけど勢いが増してくる。文字通り筆が乗ってくるというヤツだ。一応、想像では負け組みに雇われるも奮闘ふんとうし、かの国の作法に従って虜囚りょしゅうとなった……というザックリとした印象だ。


 中世の欧州って西暦の始め頃には確立されちゃった陸路りくろは、時間かかるし危ないしっていうので、海路かいろけた民族と仲良くしたり喧嘩して属国ぞっこくにして従わせたりしていたから文化や技術の交流がお盛んだったみたいなんで物語りには困らないはずなんだよね……平和な田舎道を冒頭に選びさえしなければ。

 それでも異国出身の傭兵が、武装解除された状態で田舎道を連行されていれば最初の場面としては悪くない。僕は筆に任せる感じで書き進める。大切なのは勢いで、悩むよりは断然良い。

「物語の王道だと世界に平和を取り戻してお姫さまGetだけどなぁ」

 物語の流れやヒロインの設定は大切だ。けれども思いつかないヒロインや物語の流れを考えようとすればするほど最初の場面は、最低最悪の環境に環境に限るのは定番だよね……そう信じたい。そう信じて、

「ヒロイン未定、敵も未定(なんか色々出る)色々あって大団円だいだんえんと、プロットに必要な項目をスッ飛ばして次のステップである『荒箱あらばこ』と呼ばれる、いわゆる場面設定に移るのだが書いた途端に異変が起こった。

「え? えーーーっ! 何これ何これ」

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